2010年9月 No.74
 

軟質塩ビ製品のマテリアルリサイクル最新事情

日本ビニル工業会 業務部長 鈴木 環

 昨今、石油資源の枯渇化、地球温暖化、資源循環等の環境問題がクローズアップされていますが、世間での塩ビに対する意識が変わり、省資源、リサイクル可能、環境負荷小、長寿命などの点から再評価する動きがあります。軟質塩ビ製品の特長の一つであるリサイクルについて、手法や主な製品の現状をまとめてみました。

●様々な商品に形を変える軟質塩ビフィルム・シート

 消費者に身近な軟質塩ビ製品は塩化ビニル樹脂に可塑剤や添加剤を配合し、薄膜成形加工した軟質塩ビフィルムをベース(素材)としています。
 その軟質塩ビフィルムに着色や印刷加工、エンボス加工(表面に凹凸模様を付ける加工)、接着加工(高周波での熱溶着)等の二次加工を行い、文具用品、農ビ、シート、ラップフィルム、手袋等の製品に、また紙や布を貼り合わせて、壁紙、床材、家具、鞄、袋、工事用シート、長靴など、身近な軟質塩ビ製品に商品化されています。

●プラスチックリサイクルの3つの方法

 プラスチックのリサイクル方法としては大きく分けて三つあります。材料に戻すマテリアルリサイクル、化学原料に戻すケミカルリサイクル、そして熱利用するサーマルリサイクルです。各種プラスチックはその樹脂特性や製品形状に適応したリサイクル方法を行っています。
 塩化ビニル製品の特長の一つとして、軟質・硬質製品ともに高度なマテリアルリサイクル適性が挙げられます。その理由は次の通りです。 
1.塩ビは耐久性があり長期間の使用やリサイクルの過程で劣化が少ない。
2.塩ビ廃材は添加剤(安定剤等)を追加することも可能。幅広い用途の製品に生産・加工できる。
3.塩ビは塩素原子を含む非結晶性構造の為、可塑剤、無機物等の物質と相溶性が良く、他の物質(異物等)混入による加工への影響が少ない。
4.塩ビは多岐にわたる再生用途を持っている。(床材・レザーの下地シート、各種フィルム・シート、ペットの脱臭材、吸着剤等)
 また、塩ビのマテリアルリサイクルにもいくつか手法があります。パイプからパイプなど元の製品にリサイクルされる方法(水平リサイクル)と廃農ビから床材など違う製品にリサイクルされる方法(カスケードリサイクル)、塩ビ材料として他のシートに添加したり、裏地シート等に再加工される方法(工場内リサイクル)などです。

●リサイクルの優等生=農業用塩ビフィルム

 農業用塩ビフィルム(農ビ)は軟質塩ビ製品の中で最もリサイクル率が高く2007年の実績は69%(36,200トン)で廃農ビが塩ビ床材などの原料にリサイクルされました。
 農家、農協、市町村からなるリサイクル組織(各協議会)により、廃農ビを分別、回収し、全国にある再生工場にて再生原料化されます。
 農家から回収された使用済み農ビは下図のような工程で処理され塩ビ再生原料に生まれ変わります。
 農業用フィルムリサイクル促進協会(NAC)は広報・啓発活動を中心に活動し、全国の協議会を訪問したり、研修会で講演するなどリサイクルの推進を図っています。

廃農ビの処理工程

 現在では廃農ビ簡易洗浄による安価な再生塩ビの海外輸出が増加し、国内ルートとの複数処理ルートが混在し、国内再生工場も厳しい経営になっています。
 処理コスト、省資源を考慮し、国内のリサイクル方法のあり方が問われています。
 また、素材の違う農業用POフィルムや農業用ポリエチレンフィルムは現状では異なるプラスチック原料のフィルムが分別されず一緒に回収される為、マテリアルリサイクルが困難となり、サーマルリサイクルされています。

 

●塩ビ壁紙のリサイクル

 塩ビ壁紙は現在、一般住宅、マンション、店舗などの壁紙の約95%のシェアを占め、幅広く使用されています。その理由としては、デザイン性、意匠性、防汚性、施工性、経済性など紙製や布製に比べ優れているからです。
 壁紙のリサイクルについては以前より、メーカー・問屋・施工業者の壁紙関連3業界で構成する「日本壁装協会」を中心に塩ビ工業・環境協会(VEC)も支援し積極的に取組んでいます。

【活性炭化して脱臭・吸着剤に】具体的には(株)クレハ環境がVECのリサイクル支援制度を利用して取組んでいる「塩ビ壁紙廃材を原料とする吸着性炭化物製造」が注目されています。
 これは塩ビと紙の複合材である塩ビ壁紙廃材をまるごと熱分解(活性炭化)させ、その炭化物を脱臭材やダイオキシン類の吸着剤などに利用するユニークな取り組みです。

【叩いて分ける、高速遠心叩(こうかい)解法】アールインバーサテック(株)の高速遠心叩解法による塩ビ壁紙のマテリアルリサイクルもVECのリサイクル支援制度を利用し、実用化させた新技術です。

「壁紙再生システム」の処理フロー

 高速遠心叩解法とは壁紙やターポリン、レザー等の紙・布を含む複合製品を塩ビと布・紙の接着部分を高速回転で叩いて剥離させ、同時に比重を利用し、分離回収する方法です。
 これまで、リサイクルが困難であった塩ビと繊維・紙の複合製品の素材分別が可能となりリサイクルに幅広く適用される技術です。
 実際に壁紙・床材メーカーに一部の装置が導入され、工場内で不良品や端材の廃プラ減量化やリサイクルなどに利用されています。

※詳しくはPVC69号を参照してください。

 

●床材から床材へ。グリーン購入法の特定調達品目に認定された製品

 ビニル系床材はマンション、病院、学校、店舗などの床に施工するシート状またはタイル状の塩ビ系床材です。表面層は耐摩耗性、デザイン性を要求されることから塩ビ樹脂分の多い着色層、または透明層・印刷層があり、中間層・下層には寸法安定性を出すための層やクッション性を付与する発泡層を有し、最下層には接着性と寸法安定性のための織布やガラス織布等を使用した基布層を有するなどの多層構造となっています。

床材のマテリアルリサイクルのしくみ

 床材はもともと端材や農ビなど他の塩ビ製品の再生材を裏層に使用しており、塩ビ製品再生材の主用途として、重要な役割を担ってきました。再生材の使用比率は高く、グリーン購入法の特定調達品目に認定された製品やエコマーク商品に再生材を使用したビニル系床材として指定されています。
 床材メーカーで組織されるインテリアフロア工業会では共同で床材のマテアリルリサイクルに取組んでいます。ビルやマンションなどの新築工事現場から出る端材や余材を回収し、粉砕処理した後各社の工場で再び床材にマテリアルリサイクルするものです。

●タイルカーペットのリサイクル。エコマーク認定商品も

エコマーク認定品

 オフィスやデパートなどのフロアを美しく彩るタイルカーペットは50cm角の正方形でタイルのように敷き詰めて使用します。一般にポリエステルなどの基布にナイロンパイル(糸の束)を刺繍し、塩ビのバッキング層で裏打ちした構造で分離分別が困難でリサイクルしにくいとされていました。
 このタイルカーペットのリサイクル事業に取組んだのが、リファインバース(株)(本社:東京中央区京橋)で独自の精密切削加工により繊維層と塩ビ層を分離、粉体化して、タイルカーペットの再生原料としてマテリアルリサイクルを可能としました。また、塩ビ以外の繊維層もナイロン糸として分離し、ペレット化して、成形品の原料として再資源化を図っています。
 こうした中、再生原料を使用したタイルカーペットは2004年にはグリーン購入法の特定調達品目に指定され、2005年には日本環境協会のエコマーク対象商品にも認定され業界挙げてのリサイクルへの取組みを進めています。

タイルカーペットのリサイクルフロー

●リサイクルを循環させるには

 軟質塩ビ製品のリサイクルはフィルム・シートの構成(単体・複合材)や分別の有無、選択方法、汚れ状態・品質(廃棄、端材)、回収ルートなど多くの要因がリサイクルのしやすさに関係しています。
 また、廃塩ビ製品の分別や回収、再生に係る再生樹脂コストもバージンの塩ビ樹脂と競合する上で、重要なポイントです。
 品質の安定した使用済み塩ビ製品を安定した回収ルートを通じて、安価な再生樹脂を得るため、環境性、合理性に基づいたリサイクルシステム構築(廃塩ビ排出、分別回収選別、再商品化)が必要とされます。当然、リサイクルを循環させるため、新規の塩ビリサイクル品市場の拡大や開拓も必要です。
 今後、業界団体とも協力し、塩ビのリサイクルを通じて、石油などの枯渇資源節約や温暖化防止、循環型社会に貢献していきたいと思います。