「火災リスク」の低減と塩ビ製品の役割
火災被害の少ない、より安全な社会づくりへ、
難燃性の塩ビ製品も貢献
|
|
|
塩ビのタイルカーペットは「防炎物品」 |
火災のリスクを減らす上で、モノを「燃えにくくする」ことは最も効果的な対応策。ここでは、「燃えにくくする」とはどういうことなのかを中心に、消防法で規制されている防炎マークの規格・基準や、防炎防火対象物と塩ビ製品などについて、(財)日本防炎協会(JFRA、消防法に基づく登録確認機関)の協力を得てまとめてみました。 |
● “燃えにくくする”ことの大切さ
この冬も全国各地で火災の報道が続きました。消防庁の発表によると、住宅火災による死亡者は2005年で1220人、2009年には1025人と減少傾向を見せているものの、その水準は依然として高く、死者の6割が65歳以上の高齢者であることも懸念される点です。
また、住宅以外の建物火災や放火によるものを含めると、失われる人命の数はさらに多くなります。特に飲食店など不特定多数の人が出入りする公共施設では被害の規模も大きく、2001年9月に東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビルで44名が亡くなった火災は未だに多くの人々の記憶に残っています。昨年(2009年)の末にも、杉並区高円寺の居酒屋での火災で4名が亡くなりました。
平成18年の消防法改正により家庭用火災検知器の設置が義務づけられました。東京都では、既設の住宅について、今年4月1日が設置の期日となっていましたので、比較的最近、設置された方も少なくないと思います。火災に早く気がつくことで犠牲を抑えることは大事なことです。それだけでなく、自ら率先してできるリスク削減策はあります。まずは、火を出さないように最大限の注意を払うこと。そして、着火、引火、延焼しにくい建材や素材を使用することです。
塩ビ樹脂は、自己消火性という燃えにくい性質を有しており、火をつけても、火元を遠ざければすぐに消えてしまいます。少し専門的に言えば、塩ビ樹脂の場合、燃焼の持続性を示す「酸素指数」(※1)が45−49で、着火しても燃焼が持続しにくい性質であることが証明されています。このため、防炎防火対象物(防炎物品を使用しなければならないところ)をはじめとする、難燃・防炎性能を求められる分野で多くの塩ビ製品が使用されているのです。
※1 酸素、窒素の混合気体中にある試験片の燃焼持続性評価試験。持続するために必要な最低酸素濃度で表し、この数値が大きいほど難燃性が高い。空気中の酸素濃度は21%なので、22以上の酸素指数の高い材料は自己消火性材料で、着火しても燃焼が持続しにくい。
● 「防炎物品」と「防炎製品」
防炎防火対象物等の建築物とは、簡単に言えば、(1)劇場、映画館、飲食店、百貨店、旅館・ホテル、病院・老人ホーム、展示場など、不特定多数の人が利用する公共施設や高層建築物(31m以上)と、(2)地下街で消火、避難が困難な構造物のことです(消防法第8条の3第1項ほか)。
その構造内で使用されるカーテン、絨毯、展示用合板などは「防炎物品」であることが求められ、(財)日本防炎協会が消防法に基づいて審査する「防炎性能試験基準」に合格した物品だけに、『防炎ラベル』が交付されることになっています。
|
|
|
防炎ラベル |
|
|
|
防炎製品ラベル |
一方、一般住宅での使用は法律上の義務とはなっていませんが、防炎性能が保証できる商品を消費者が購入できるようにとの立場から、防炎の基準を満たした「防炎製品」に『防炎製品ラベル』を付与できることになっています。「防炎製品」には、ふとん、毛布等の寝具類、テント類、シート類(工事用シートは除く)、衣服類、自動車・オートバイ等のボディカバー、障子紙、祭壇など24種類が認定されています(※2)。
防炎性能とは、小さな火に接しても繊維やプラスチック製品等が燃え上がらず、もし着火しても燃え広がりが少ないことを表します。
繊維やプラスチック製品で、素材が燃えやすいものであれば、難燃性・防炎性(建築基準法で規定されている試験方法や性能基準(※3)とは異なります)を付与するために、様々な難燃加工技術・開発が行われています。
※2 「防炎物品」と「防炎製品」の防炎性能試験基準は、それぞれ対象物品毎に細かく決められていますが、簡単にまとめると以下のとおりになります。
・防炎物品=例えばじゅうたん等では、40×20cm角の試験体を45度に傾け、その上からエアーミックスバーナーで30秒加熱した場合の残炎時間が20秒以下、炭化長10cm以下等の評価基準で判定。
・防炎製品=例えばシート類では、防炎物品の工事用シートと同じで、35×25cm角の試験体を45度に傾け、その下からミクロバーナーで1分加熱した場合の残炎時間が3秒以下、残じん時間が5秒以下、炭化面積が30cm2以下等であるかがポイント。
※3 建築基準法では壁、柱、床などの構造物は、難燃・防炎性より非常に厳しい防火性能・不燃材料(通常の火災で加熱された時に、20分間不燃性能を保持することを防火試験で証明された建築材料のこと)が要求されています。
●『防炎ラベル』『防炎製品ラベル』の塩ビ製品
|
|
|
工事用シート(ターポリン)の燃焼比較 |
それでは、防炎性能を有する塩ビ製品にはどんなものがあるのでしょうか。
まず、『防炎ラベル』に認定されている代表的なもの(防炎物品)としては、工事用シートとタイルカーペットがあります。タイルカーペットが敷かれた部屋を注意深く探してみれば、片隅に『防炎』の表示が見つかるはずです。また、塩ビ壁紙は、消防法ではなく建築基準法において、石膏ボードとの組合せで不燃材料(※3)として認定されています。
一方、『防炎製品ラベル』の付いた塩ビ製品は、絨毯、テント・シート類、自動車・オートバイのボディカバーなど多岐に亘っています。
難燃・防炎性能は、火災のリスクを削減するための基本的な機能です。これを活かした塩ビ製品が広がっていくことは、火災被害の少ない、より安全な社会への決め手のひとつと言えます。
なお、消防庁では火災予防のPRのために、防炎ラベルと警報機設置に関するビデオをHP上で公開しています。以下のURLからご覧下さい。
・防炎ラベル(積極的に防炎品を取り入れましょう)
http://www.fdma.go.jp/media/bousaihincm_b.html
又は www.jfra.or.jp
・警報機設置(住宅火災で亡くなられた約70%が逃げ遅れです)
http://www.fdma.go.jp/media/juukeikicm_b.html
●火災の少ない社会へ、塩ビ業界の協力を期待/
(財)日本防炎協会 小川孝裕理事兼技術部長
|
|
|
小川部長(後ろは日本防
炎協会のPRポスター) |
2009年版の『消防白書』に、住宅火災における着火物別の死者数(放火自殺者等を除く)の内訳が載っています。着火物とは「発火源から最初に着火した物」のことです。これによれば、寝具類に着火した火災による死者が152 人(13.5%)で最も多く、次いで衣類86人(7.7%)、屑類69人(6.1%)、内装建具類55人(4.9%)、繊維類48人(4.3%)などとなっています。
もし、これらの着火物が、燃えにくいように防炎加工されたものであれば、際限なく燃え広がるのをくい止めて、深刻な火災被害を一軒でも減らすことができます。また、一秒でも長く避難のための時間を稼ぐことで、貴重な人の命を失うリスクをより小さくすることができるのです。
日本防炎協会は、昭和37年に日本防炎協議会として発足して以来、防炎品を世の中に広く普及させる取り組みを通じて、火災被害から人々を守る活動に携わってきました。防炎ラベルの交付などもその一貫ですが、防炎品の普及には産業界の協力を欠かすことができません。
塩ビは「燃えにくい」という特長を備えている上、樹脂の中ではコスト的にも優れており、タイルカーペットやシート類、テント類などの防炎品に広く使用されています。中でもシート類の防炎は非常に早く、昭和37年に東京消防庁で防炎シートの性能基準が制定されたのに続き、昭和39年には当時の建設省告示で工事用シートの防炎性能規制も始まっています。そういう意味では、防炎品は塩ビシートからスタートしたといっても過言ではないかもしれません。
塩ビ業界には今後とも、難燃性という特長を活かした、安くて良質な防炎品をどんどん社会に提供していただくよう期待しています。私たちも、より火災の少ない安全・安心な社会の実現に向け、産業界と一緒に頑張っていきたいと考えています。(談) |
|