下水道管が危ない!危機克服の切り札・塩ビ更生管の最新情報
低コストでエコロジカル。道路を掘り返さず新品並みに管路をリニューアル
我が国の下水道普及率は平成20年度末で72.7%。管路延長は累計で約40万kmに達します。私たちの生活を維持するこの貴重な社会資本が今、老朽化という危機に瀕しています。日本の下水道に何が起こっているのか。そして、危機克服の切り札と期待される塩ビ更生管とはどんなものなのか。管路更生事業に取り組む企業の取材も交えて、最新の動きをレポートします。 |
●老朽化の進行で多発する道路陥没事故
下水道管の老朽化に起因する道路陥没事故の発生件数は2007年の統計で年間4700件。ピーク時の2005年には6600件超という驚くべき数字を記録しています。
道路陥没の多くは老朽化した下水道管の腐食やひび割れなどによって発生します。国土交通省の調査によれば、下水道管の敷設後30年を経過した時点で陥没箇所が急増します。現在の管路延長40万kmのうち、50年経過管は約7千km、30年経過管でも約7万kmを占めます。特に、戦前戦後にわたって広く使われてきた鉄筋コンクリート管(ヒューム管)は、その多くが耐用年数を経過して老朽化の深刻化が懸念されています。
このまま現状を放置しておけば、今後全国各地で道路陥没事故が増加し続けるのは必至で、人々の生活や環境に重大な影響を及ぼしかねません。国も従来の普及率中心の考えから@計画的な改築の推進(既設管路の補修と長寿命化など)A地震対策の推進(施設・管路の耐震化)等に力を入れていく方針を示しています。
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管路の年度別整備延長(全国) |
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道路陥没箇所数の推移(全国) |
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経過年数別道路陥没箇所数(全国) |
● 急成長を続ける塩ビ更生管市場
しかし、下水道の更新にはひとつ大きな問題があります。それは管路のすべてが暗渠型の閉水路であることです。様々な地下埋設物が輻輳する道路での開削更新工事は、膨大なコストを要するばかりでなく、交通の混乱や生活への影響等の問題もあって困難をきわめます。国や自治体の財政事情が逼迫する中で、可能な限りコストを抑え、しかも手早く新品並みに管路をリニューアルする手はないか?
こうした問題を解決する切り札として開発されたのが塩ビ樹脂による非開削管路更生工法です。耐久性や耐腐食性から下水道管材としても広く普及している塩ビ材を使って、道路を掘り返さずに管路を更生する手法で、開削更新の場合に比べて、社会的なコスト負担は大幅に低減。工期も短く、下水機能を停止せず供用中施工が可能な場合もあります。しかも、CO2排出量は3分の1程度に抑えられる上、残土や使用済み管など廃棄物処理の手間も省けます。近年、塩ビ更生管の市場は年率15〜20%で急成長を続けています。次は、管路更生事業の主要企業2社の取り組みから、その具体的な工法と事業の現状を見ていくこととします。
積水化学工業(株) の「SPR工法」と「オメガライナー工法」
信頼を集める「管路更生事業25年」の実績。グローバル戦略にも本腰
積水化学工業は、25年にわたって管路更生事業に取り組んできた斯界のパイオニア。同社が展開する更生技術には、管路の口径の違いによりSPR工法とオメガライナー工法の2つのタイプがあります。
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更生前の管内(左)とSPR工法により更生された管内 |
● 塩ビが生み出す螺旋の力「SPR工法」
SPR工法は、900mm以上の大口径管の更生に用いられるもので、地上から供給される塩ビ製のプロファイル(帯板)を既設管内でスパイラル状にジョイントさせながら製管した後、既設管とプロファイル管の隙間に裏込め材(特殊モルタル)を充填して既設管路と一体化した強固な複合管として更生する、というのが基本的な施工方法。円形だけでなく矩形、馬蹄形等あらゆる断面形状の管路に自由に対応し、管強度も新管並みに復元します。
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SPR工法の原理 |
一方、オメガライナー工法は150〜400mmの小口径管用に開発されたもので、塩ビの特徴である熱可塑性を利用した「形状記憶」タイプの更生管。Ω状に折畳んだ塩ビ管を管内に挿入し蒸気で加熱して円形に復元した後、圧縮空気により既設管に密着させる工法で、施工時間が短く、既設管の曲がりや段差があっても美しい内面に仕上がるのが大きな特徴です(両工法の詳細は、普及団体SPR工法協会のホームページ参照。http://www.spr.gr.jp)。
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SPR工法とオメガライナー工法の累計施工実績 |
「SPR工法を世に出したのは昭和61年だが、本格的な普及は5〜6年前から。大口径更生管で当社は大きなシェアを占めている。接着力が強く、耐久性や成形性、耐摩耗性にも優れる塩ビは、下水管の更生には絶対だと思う」(同社環境・ライフラインカンパニー管路更生事業部の中川裕英開発企画部長の話)。
同社では、SPR工法の一体化強度などについて施工現場、研究室レベルで毎年確認を行っており、こうした努力の積み重ねが信頼性の確保につながっています。
● 日本オンリーワンの技術に世界が注目
国内での順調な動きを背景に、同社が進める管路更生事業のグローバル戦略にも本腰が入ってきました。2005 年にセキスイSPRアメリカ(ジョージア州アトランタ)を設立してアメリカでの事業に着手したのをはじめ、2008年には欧州を中心に豪州、中東などで管路更生事業を展開するシェバリエ・パイプ・テクノロジーズ(CPT社、ドイツ)を買収。アジアでも、シンガポールにセキスイCPTアジアを設立(2008年)するなど事業を加速させています。
また、昨年12月にはSPR工法がドイツの建設技術認定機関DIBtから異例の早さで認定を取得。「大口径で円形以外に対応する自由断面の技術は海外にはまだ存在しない。日本が誇るオンリーワンの技術」(中川部長)。日本の管路更生技術に世界の期待が集まっています。
クボタシーアイ(株) の「ダンビー工法」と「EX工法」
「2013年までに売上3倍増」を目標に事業拡大中。耐震性能も実証済み
クボタシーアイが展開するダンビー工法とEX工法も既に20年近くの実績を積み上げています。
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矩形の管路もこのとおり。更生前(左)とダンビー工法での更生後 |
●地震動に追従するSFジョイナー
ダンビー工法は800〜3000mmまでの中大口径管用の技術で、塩ビ製の帯板(同社での呼び方はストリップ)を既設管の内側に密着させながら嵌合用接合部材(SFジョイナー)を使って螺旋状に製管し、連続管体(以下、ストリップ管という)を形成する。このストリップ管と既設管の隙間に高流動、高強度の充填材を注入、既設管、充填材、ストリップ管を一体化させることで新管と同等の強度を持つ複合管を形成します。この中で同社独自の新技術となるのが、耐震対策として開発したSFジョイナーによる嵌合方法です。
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SFジョイナーの耐震機能 |
「当社ではストリップとストリップをSFジョイナーで繋ぐのが特徴。SFジョイナーそのものに伸縮機能があり、地震発生時にはSFジョイナーが地盤の変位に追従して伸張することで地盤変動を吸収する仕組みです」(同社管更生事業ユニットの西谷憲三技術担当部長の話)。
その耐震性能は2007年の新潟県中越沖地震で既に実証済み。震災の前年柏崎市内に施工したダンビー工法による管路更生の現場を、震災後第三者機関に委託して調査したところ、SFジョイナーが伸縮機能を発揮し流下機能が確保できていたことが確認されており、レベル2の大規模地震にも対応できる「耐震実績のある更生管」として注目を集めています。
● 「EX工法」に注力。施工端材のリサイクルも
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EX工法によるパイプの復元イメージ |
EX工法は100〜600mmまでの小口径管の更生に対応した技術です。塩ビ樹脂をベースとするEXパイプを折りたたんで現場に運び、蒸気と熱風で軟化させて既設管内に連続的に引き込みながら、蒸気圧を上げて既設管の内面に密着させる工法で、優れた品質を備えています。「小口径管の更生には熱や光で硬化反応させるFRP(繊維強化プラスチック)パイプも使われるが、EXパイプは現場で加熱・拡径させるだけで短時間で施工できる。我々はこうした塩ビの熱可塑性、施工性を商品の魅力としてPRしている」(西谷部長)(工法の詳細は普及団体EX・ダンビー協会のホームページ参照)http://www.ex-danby.jp)
また、EXパイプについては施工端材のリサイクルも進んでおり、全国の工事現場から出る端材を近隣のリサイクル施設に持ち込み、塩ビ系原料として再利用しています。
クボタシーアイでは、社会ニーズの高まりで管路更生事業が順調な伸びを示していることから、2009年10月に技術開発〜製造、販売まで一貫対応する組織「管更生事業ユニット」を発足。2013年までに売上高を現在の3倍に引き上げる目標で事業を強化していく計画です。
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EX工法(左)とダンビー工法の施工実績の推移(施工延長累計) |
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