2009年6月 No.69
 

廃棄物対策のこれから
  ─ 循環型社会の構築に向けて

ごみ問題の解決が不可欠。
熱回収が低炭素社会への決め手に

鳥取環境大学教授/岡山大学名誉教授(工学博士) 田中 勝 氏

 

●循環型社会への日本型アプローチ

 循環型社会とは、一言で言えば環境を守り資源を大切にする社会のことです。いま世界の国々がそうした社会を目指して頑張っているわけですが、では本当に化石資源は保全できているのか、環境は良くなっているのかと問われれば、実態は全然良くなっていないし、世界はますます崖っぷちに向かって走っていると言わざるを得ません。いま地球全体で見れば、資源の消費もCO2の排出量も増え続けています。
 その最大の原因は人口の増加が止まらないこと、そしてGDPは高いほうがいいという物差しが未だに是認されていることです。特に開発途上国では、人口もGDPも大きく伸び続けています。世界の人口は現在の65億人から2050年には100億人に達すると予想されており、人々は経済的にもっと豊かな暮らしを追い求めて資源を消費し続けています。これを止めることができない限り、CO2は増え続けるし、膨大な量の廃棄物が排出され続けることになります。世界の廃棄物の量は、50年後には一般廃棄物、産業廃棄物を併せて、130億から270億トンへ倍増すると私は予測しているのです。
 こうした状況を放置したままで循環型社会を構築するのは不可能であり、中でもごみ問題の解決は重要な意味を持っています。なぜなら、ごみ問題というのは環境や資源の問題と非常に複雑に絡み合っているので、廃棄物対策に取り組むことが必然的に資源消費の抑制や生活様式の転換を促すことになるからです。言い方を変えれば、循環型社会構築には、ごみ問題の解決が不可欠なのです。
 特に日本における循環型社会へのアプローチは、もともとごみ問題を解決するためのアイデアとして提案されてきたもので、廃棄物対策の視点から物事が発想されています。
 つまり、より低コストで効率的に廃棄物を処理してほしいという住民の意向がまずあって、これに応えるために自治体は最大限ごみを減らす計画を作って適正処理と施設の整備を進める、市民も分別やリサイクルなどで協力するという役割分担ができ、その流れの中から、発生抑制などの3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進、生活様式の転換といった発想が生まれてきました。そういうストーリーです。
 こうした日本のアプローチは、海外からは非常にユニークで日本特有のものと見られることもありますが、一方で高い評価も寄せられています。私は日本の廃棄物対策は世界に展開すべきレベルに達していると考えています。最近ではG8サミットなどでも3Rが世界共通の重要議題として取り上げられるようになっていますが、こうした世界の人々との協力、とりわけ途上国との連携という点で日本の廃棄物対策が果たす役割はとても大きいと思います。

●廃プラスチックは「埋立不適物」

 これからの廃棄物対策を進めていく上で、サーマルリサイクルの再評価は重要なポイントです。焼却によって廃棄物を減量化し高効率ごみ発電などのエネルギー回収を進めることは、地球温暖化防止へ向けた低炭素社会づくりの決め手といっていいでしょう。環境省の「廃棄物処理施設整備計画」(2008〜12年度までの新5ヵ年計画)でも、ごみ発電能力を現在の1630メガワットから2500メガワットに引き上げるという極めて意欲的な目標を設定しています。
 こうした高効率ごみ発電を実現していくためには、プラスチック廃棄物も大きな位置を占めています。私は2004年5月に東京都廃棄物審議会の会長として「廃プラスチックの発生抑制・リサイクルの促進」に関する答申を取りまとめましたが、この中では廃プラスチックを「貴重な資源」と位置づけて、「焼却不適物ではなく埋立不適物」とする方向を示しています。
 何しろ、1973年の東京都の決定以降、「廃プラスチックは焼却不適物」とする時代が30年以上も続いた後ですから、この方向転換には委員の中にもかなり抵抗があったし、マスコミなどでも大きな反響を呼びました。都民の中にも、石油から作られたプラスチックを燃やすとCO2が出て怪しからん、プラスチックは燃やさないでマテリアルリサイクルすべきだといった考えは依然として根強く残っていますが、製品としての役割を終えて廃棄物となったプラスチックを、焼却してエネルギーとして活用することが絶対にいけないというのはおかしな考えで、むしろマテリアルリサイクルのほうが破砕、洗浄、加工などのために結果的に余計なCO2を発生させることだってあり得るわけです。
 もちろん、すべてのプラスチックをエネルギー回収すべきだと言うのではなく、例えば、一廃系ならペットボトル、産廃系でも塩ビ管のように同質のものがまとまっていてマテリアルリサイクルのほうが相応しいプラスチックがあることも確かです。しかし、家庭から出るその他の細々した汚れのひどいプラスチックまで水道で洗ってマテリアルリサイクルすることが本当に正しいのかどうか。いろいろなリサイクル手法(マテリアル、ケミカル、サーマル)を同等に評価して、より良いほうを選びましょうというのが答申の考え方なんです。
 それに、現在の焼却炉はダイオキシンも塩化水素も除去できるし、NOx、SOxもダストも大幅に基準を下回っています。少々塩ビが入ってもちゃんと塩化水素を除去できる装置がついているのだから過剰に心配する必要はないのです。プラスチックは大切だといって徹底して分別回収した結果、焼却量は減ったけれどそのカロリーも下がって助燃オイルを使わなければならなくなったといったことが起こらないように、品質のいいものだけを回収して、残りは焼却に回して欲しい。分別は“もっともっと”より“ほどほど”のほうが望ましいのです。

●廃棄物も再生可能エネルギーのひとつ

 私は廃棄物は再生可能エネルギーとして扱ったほうがよいと考えています。「再生可能」の定義は、簡単に言えば「使ってもなくならないこと」であって、太陽光を使っても太陽の光が減るわけでないのと同様、ごみを燃やしたら明日からなくなるということにはなりません。いま世界の国々が低炭素社会に向けて風力や太陽光などの再生可能エネルギーの開発に取り組んでいますが、むしろ、気象条件に左右される太陽光や風力より、必要な時に必要な量を出せるごみ発電のほうが有効だともいえます。
 困るのは、再生可能エネルギーの割合を増やして石油の消費量を減らそうといっているのに、日本国内でも海外でもしばしば枝葉の議論に陥ってしまうことです。例えば、プラスチックごみを燃やすときに出るCO2はよくないが、プラスチック以外のごみを燃やすときのCO2は問題がないというのは間違っていると思います。いったんごみになってしまったものはごみとしての値打ちを最大限引き出すような使い方をすべきだと思います。
 大切なのは、ごみのエネルギーを最大限に活用して電力を効率よく作ること、そして発電したものを無駄に使わないでできるだけ売電すること、このふたつの努力です。特に、効率を高めるという点では、従来の「自区内処理原則」を「超広域処理」に切り換え、日本に多く見られる100トン/日以下のような小さな焼却炉は規模を大きくすることが必要でしょう。欧米はだいたい1000トン/日前後のものが多く、アムステルダムでは4500トン/日という世界最大級の焼却炉が稼動しています。
 あとは見栄のために余計なエネルギーを使わないことです。例えば煙突の蒸気を見えなくする白煙防止のためにエネルギーとお金を使うといった無駄は止めなければなりません。自治体に過剰な注文を出して処理コストが上がれば、結局は住民の経済的負担が増えるだけです。煙のように見えるのはただの水蒸気なんだということを住民に納得してもらうリスクコミュニケーションが必要なので、行政にも住民にも、無駄なものと無駄でないものを識別する能力が求められているのです。

●戦略的廃棄物マネジメント支援ソフト(SSWMSS)の有用性

 岡山大学が開発した戦略的廃棄物マネジメント支援ソフト(SSWMSS)は、こうした課題に応えるためのツールです。この事業は、文部科学省の研究拠点形成等補助事業である21世紀COEプログラムの一環として取り組んだもので、SSWMSSを使えば、廃棄物ライフサイクルアセスメント(WLCA)の考え方を基に、廃棄物の排出から処分までのルートの中で使われる様々な3R技術・施策について資源面、環境面、経済面の特質を定量的、科学的に評価して最も望ましい方法を選択することができます。
 わかりやすく言えば、循環型社会を作るためにやっている政策や技術が本当に資源や環境を大切にすることになっているのかが簡単に比較評価できる手法ということで、評価の物差しとしては資源消費(電気の消費量)、環境負荷(CO2排出量)、コスト(ごみ1トン当りの処理費用)の3つが使われます。
 例えば、わずか1トンのごみを集めるためにガソリンを使って何十キロもトラックを走らせ、電気を使って破砕したり洗ったり水処理したりして、ほんのわずかしか物質回収できないとしたら、例えば、このシャツがこのペットからできました、どうですリサイクルはいいでしょうといっても、その後ろに莫大な電気やガソリンが使われていて無駄だらけということになってしまいます。
 これに対して、じゃあ1トンのごみのリサイクルにどれだけエネルギーを使って、どれだけCO2が出るのか、コストはいくら掛かるのかといった数字を出した上で、どちらがいいかはあなた方が選んでくださいというのがSSWMSSの考え方で、マテリアルリサイクルがいいとか悪いとかは一言も言っていません。ただ、結果的にお金を出すのも環境影響を受けるのもあなた方なんですよ、資源が無駄になって困るのは次の世代ですよ、だから本当に資源を無駄にせず環境を大切にできる方法を選びましょう、経済的にもあまり負担にならないようにしましょう、ということなのです。
 そうした判断もなしにあの方法がいい、このリサイクルがいいというのは、ファッションのブランド志向と同じレベルの話です。「私は自分の目で見ます。素材は何なの。これはニセモノじゃないの」と識別できる能力を持つことが大事なのです。資源の保全につながらないリサイクルにリサイクルという言葉を使ってはいけません。行政も市民もそこをしっかり判断してほしいと思います。

(取材日/2009年3月23日)

略 歴
たなか・まさる
 1941年岡山県生まれ。京都大学工学部衛生工学科卒。1970年米国ノースウェスタン大大学院博士課程(環境衛生工学)修了。工学博士。米国ミシガン州立ウェインステイト大学助教授、国立公衆衛生院廃棄物工学部長、岡山大学環境理工学部教授、岡山大学大学院環境学研究科教授などを経て、現在鳥取環境大学教授(環境マネジメント学科)。(株)廃棄物工学研究所所長。
 廃棄物工学の第一人者であり、第6代廃棄物学会会長、東京都廃棄物審議会会長などを歴任。現在、環境省中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会長、有害・医療廃棄物研究会会長などを務める。また、2003年〜2008年まで21世紀COEプログラム「循環型社会への戦略的廃棄物マネジメント」の拠点リーダーを務め、廃棄物支援ソフトSSWMSSを開発。2004年環境保全功労者環境大臣賞、2006年環境岡山大賞受賞。主な著書に「循環型社会評価手法の基礎知識」(技報堂出版)、「循環型社会構築への戦略」(中央法規)、「戦略的廃棄物マネジメントー循環型社会への挑戦」(編著、岡山大学)など。現在、日本経済新聞社が運営するウェブサイト日経エコロミーに連載中のコラム「ゴミ対策が地球を救う」が話題(http://eco.nikkei.co.jp/column/clean_tanaka)。