いま、建材リサイクルに求められること
広域認定への対応、複合材問題の解消etc.
─ 異色の建設ウーマンが語る再利用促進への課題
鹿島建設(株) 安全環境部 次長
(社)建築業協会 環境委員会副産物部会 委員/米谷 秀子 氏
●日銀から建設業界へ
環境の仕事をしようと考えたのは、高校生の時、授業で水俣病の映画を見たことがきっかけです。とてもショックを受け、「二度とこのような悲惨を繰り返してはならない」と真剣に思いました。大学では経営工学を学びましたが、これは、行政や市民の立場ではなく、むしろ公害を出す企業の側に入って実質的に環境問題に関わりたいと考えたからで、今で言えばリスクコミュニケーションのような仕事をしたいとイメージしていました。卒論のテーマは下水処理です。その頃、中西準子先生の『下水道−水再生の哲学』に感銘を受け、半ば押しかけ弟子みたいな形で先生の指導を仰ぐようになりましたが、この時の先生との出会いは、私にとってとても大きな経験になったと感じています。 ただ、最初に就いた仕事は環境とは全く違うんです。日本銀行が初めて理系の求人をするということを聞いて、そういう変わった所に入ってみるのも面白いかなと、ついふらっと試験を受けたら採用されました。人間、初めから希望どおりの仕事に就けるとは限らないということかもしれませんね。日銀での仕事は一般の総合職で、札幌支店に勤務したりしましたが、その後、本店の調査統計局に戻って、企業間サービス取引の物価指数を開発するプロジェクトチームで産業廃棄物処理を担当することになりました。その際鹿島の人から建廃処理の価格情報を教えてもらったりしているうちに、「これこそ私がやりたかった仕事だ。私はやはり環境の仕事するために生まれてきたんだ」と、大げさに聞こえるかもしれませんが、本気でそう思えてきました。それで、思い切って平成3年の9月に転職したのです。まあ、ちょっと変わった経歴ではありますね。 環境運動をしている人の中には企業を対立的に捉える人もいますが、鹿島に入って改めて思うのは、企業活動は社会に必要な活動であって、その中でいかに環境影響を減らしていくかを考えることがとても大事だということです。むしろそのほうがより本質的な仕事だと私は考えています。
●建材メーカーと建設業界の仲介役
現在は鹿島本来の仕事のほかに、建築業協会(BCS)副産物部会の委員として建設業界全体に関わる仕事にも携わっています。私が所属している再生利用分科会では、環境省の広域認定取得業者への支援を行っています。(※広域認定制度=メーカーが自社製品廃棄物の処理を広域的に進めることにより適正処理が確保されると認められた場合、廃棄物処理業に関する自治体ごとの許可を不要とする特例制度) 建設副産物の再生利用を促進する上で広域認定は非常に重要ですので、制度の内容を業界に紹介したり、建材メーカーと建設業界との仲立ちみたいな活動を主にやっています。塩ビ床材業界が以前の広域指定や認定を取得した際も、いろいろ応援させてもらいました。建設業界としては産廃処理業界との連携も大事ですが、建材メーカーに自らリサイクルの部分で頑張ってもらうのもたいへん有難い話で、これからもできる限りのことをしていきたいと思っています。 環境省に対しても、なかなか認定が取れない業界がある場合は、リサイクル促進のためにもう少し弾力的な運用をしてほしいといったお願いをしています。いま強く思っているのは、広域認定をより使いやすい仕組みにするために、宅配便を利用した回収方法を実現できないかということです。建設廃棄物は小ロットで出されることも多いので、わざわざ高いコストとエネルギーを使って専用のトラックで運搬するよりも、宅配便のネットワークを利用したほうが余計な運賃もCO2も出さずにリサイクルできます。その辺りを弾力的に見直してもらえるよう環境省には強くお願いしています。
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BCSのベストセラー「特殊な廃棄物等処理マニュアル」第3版 |
また、今年7月に出版した「特殊な廃棄物等処理マニュアル」(第3版)の作成も充実した仕事でした。このマニュアルは、解体・改修工事などから発生する廃棄物のうち、主に処理困難物や有害物について、その適正処理の方法や適用法令、行政窓口、問い合わせ先などを整理したもので、1998年に初版、2002年に第2版を出していますが、その後、様々な環境関連法の改正や建設工事でのゼロエミッション活動の展開、建材メーカーによる自社製品の回収・リサイクルの進展といった新しい動きを受け、第3版では内容を全面的に見直しました。対象品目数も約50品目と大幅に増やしており、広域認定を取得した塩ビ床材についても新たに一項を割いて情報を提供しています。 有害物の適正処理やリサイクルのルートに関する情報は、建設業界でもあまり知られていないことが多く、この本はBCSの出版物としてはベストセラーのひとつになっているようです。
●ゼロエミッションへの取り組み
鹿島本体での仕事としては、有害物や土壌汚染のほか、ゼロエミッションの取り組みがあります。ゼロエミについては建設各社いずれも熱心に進めていますが、鹿島でも2007年度から東京建築支店の全現場でゼロエミッション活動を展開しています。 分別とリサイクルによりすべての現場を資源循環の発信基地にしようという簡単なシートを作成し、延床面積の規模別にステージ1(5000m2以下)、ステージ2(5万m2以下)、ステージ3(5万m2超)の3段階に分け、それぞれの規模ごとに分別品目と分別の時期(基礎工事、躯体工事、仕上げ工事のどの段階で分別するか)を示しています。最終的には混合廃棄物の排出量原単位を延床面積あたり5kg/m2以下にするのが目標です。
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ゼロエミッション活動による廃棄物低減効果(ステージ3の例) |
ただ、これはあくまで無理のない範囲で取り組むことが基本です。本当に廃棄物をゼロにするというのは、非常に特殊な処理が必要になったり処理業者に大変な負担をかけるようになったりして、現実的ではありません。それぞれの現場のできる範囲で無理なく分別をして、その先は優良な処理業者に委ねるというのが我々の基本方針です。 例えばステージ3の場合、分別品目数は19品目で、塩ビ壁紙やタイルカーペットも分別品目の中に入れていますが、これは塩ビ管などとは違って、必須ではなく現場の判断で選択項目にしています。
●リサイクルをめぐる地域間格差の問題
ステージ3のような大規模の建築物は多くが東京近辺に集中していて、19品目という細かな分別・リサイクルができるのも、その地の利があるからこそだと言えます。東京周辺とその他の地域ではまるで状況が違います。地方では現場で分別しようとしても、それをリサイクルする受け皿がなかなか見つからないということが非常に悩ましいところで、混合廃棄物の処理業者にしても処理内容のレベルには相当な差があります。地方ではあまり量も集まらないので、多額の設備投資ができないという事情もあるでしょう。広域認定にしても、ある程度メーカーの工場が近くにないと、運賃が掛かりすぎてしまいます。 これに対して、東京周辺は特殊なリサイクル施設も含めて実にいろいろな業者が揃っています。例えばタイルカーペットや発泡ウレタンの専門処理施設など、たぶん全国にまだ1カ所しかないのではないでしょうか。特にタイルカーペットをリサイクルしているリファインバースの処理フローなどは本当に面白いもので、ああいう施設ができたことにリサイクルの奥深さを感じます。結局はそれも東京という大きなマーケットだから成り立つわけですし、だからこそ我々も分別してリサイクルすることができるわけです。そうした意味では、ゼロエミ活動の内容も全国一律とはならないのが実情です。
●安全&環境こそ企業活動の基盤
建設廃棄物リサイクルの課題という点では、もうひとつ複合材の問題があります。たとえば、木毛板やサンドイッチパネルなど、異なる素材が合わさって1つの建材を形成している場合、容易に分けられないためにリサイクルできないケースがあります。また、接着剤なども厄介で、塩ビ建材についても、極力接着剤を使わないような形で施工できる製品なり施工方法なりをどんどん開発していってもらえればと思います。 いま進行中のあるプロジェクトの設計者は、解体するときにすべてがリサイクルできるような建材で建物を作りたいという考えの下で、Pタイルも接着剤を使わない置床式のものや嵌め込みタイプのものを、コストが高くても解体時のことを考えて使うという判断をしています。こうした考えが普及することにより、解体時にもリサイクルしやすい製品が増えていくことを期待しています。
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QCDSEのイメージ |
そのほか課題はいろいろありますが、環境への取り組みの重要性に対する意識が現場の人も含めて相当高まってきたことは間違いありません。建設工事ではQCDSE管理(Quality=品質/Cost=原価/Delivery=納期/Safety=安全/Environment=環境)ということを言いますが、私も社内研修などで、安全と環境こそが企業活動の基盤であり、現場運営の土台だという話をよくします。作業員の命と同様に未来の子供たちの命が大事であって、そのために環境に配慮した仕事をしなければならないという意味です。 企業人だけになってしまわずに、個人としての常識と企業人としての立場をバランス感覚を持って仕事をすること、これが常々私の心がけていることです。バランスは私のキーワードのひとつかもしれません。
略 歴 |
よねたに・ひでこ 鹿島建設 (株) 安全環境部次長。東京都出身 1984年東京工業大学経営工学科卒業。1986年東京工業大学経営工学専攻修了。1986年日本銀行入行。札幌支店、調査統計局などを経て、1991年退職。同年9月鹿島建設(株)入社。東京支店でISO14001、副産物対策、汚染土壌対策などを担当。2003年より本社勤務となり、各支店の指導等を実施。 (社)日本建設業団体連合会・建設副産物専門委員。(社)建築業協会・環境委員会副産物部会委員 |
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