2009年3月 No.68
 

塩ビリサイクル支援制度の新規採択案件決まる

真夏の福音となるか、塩ビのリサイクル材が作り出す人工の木陰

人工の木陰をつくるフラクタル日除け

 塩ビ工業・環境協会(VEC)が進める「塩ビリサイクル支援制度」の新規採択案件が、積水化学工業(株)の「塩ビリサイクル材を使ったフラクタル日除け」の開発に決まりました。樹木並みの涼しい木陰を塩ビリサイクル材で作り出そうという斬新な開発で、実現すれば真夏の暑熱対策に大きな福音となる可能性があります。


●外部有識者の評価委員会で検討

 塩ビリサイクル支援制度は、VECと塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)が平成19年5月に取りまとめた「リサイクルビジョン−私たちはこう考えます−」(塩ビのリサイクル拡充のための指針)に基づき同年9月に創設されたもので、塩ビのリサイクル技術やリサイクルシステムなどに関する開発案件を関係業界等から公募して、「実用化の可能性が高く社会的にも有用性が認められる案件」に協賛するのが事業の目的。公募は毎年1、4、9月末を締切日として実施されることになっており、既にこれまでの公募で選ばれた採択案件について、同制度による協賛の下で開発作業が進められています(本誌No. 65参照)。
 今回採択された「塩ビリサイクル材のフラクタル日除け」は、昨年9月末までに応募のあった案件の中から選ばれたもので、11月に開かれた外部有識者から成る評価委員会(委員長=中島邦雄化学技術戦略推進機構理事長)で、計画の実現性や事業化した時の効果などの検討を行った後、同委員会の意見を踏まえて最終的な決定に至ったものです。

●原料は硬質塩ビ製品のリサイクル材

これが塩ビの木陰

 “フラクタル”とは幾何学に用いられる概念で「どんなに微小な部分をとっても全体に相似している(自己相似)ような図形のこと」(広辞苑)。例えば、暑い夏、木陰が涼しく感じられるのは、無数の木の葉が立体的に重なり合って、風通しのいい優れた熱放散効果と遮熱効果を生み出すためです。パラソルなどの人工的な日除けでは、日除けそのものが日射を受けて気温よりもずっと熱くなってしまい、日陰部分でも日除けからの熱射が避けられません。また、木陰の場合、風によって木の葉の表面温度の上昇が抑えられる効果もあって、より爽やかで涼しく感じます。
 「フラクタル日除け」は、この木陰の涼しさを、塩ビの部材を立体的に組み合わせることで人工的に再現しようとする試み。原料には、パイプや板、巾木、樹脂サッシなど、様々な使用済み硬質塩ビ製品のリサイクル材料が利用されますが、耐久性が高く、複雑な構造の成形加工が容易で、しかも周囲の環境に合わせて様々なデザインも可能な塩ビには、まさに打ってつけの用途といえます。また、樹木と違って手軽に移動できるといった点でも、「フラクタル日除け」は大きな潜在的ニーズを秘めていると考えられ、このことも採択の評価ポイントとなっています。
 積水化学工業では、今回の応募に先立って、基本特許を持つ京都大学自然環境学科の酒井敏准教授の研究室と共同で2年前から基礎的な構造と効果について研究を行っており、今後はVECの支援を受けながら事業化へ向けた実証開発を進める計画。使用済み塩ビ製品が人工の木陰に生まれ変わる−文字どおりグリーンなリサイクル製品の実現にVEC支援制度が大きく役立つものと期待されます。