2008年6月 No.65
 

JPEC開発の「マイクロチャンバー法」がJISに

DEHPなど建設資材の微量放散物質測定が可能に

 JPECが改良開発研究を行ったマイクロチャンバー法が、このたび財団法人建材試験センターでの3ヵ年にわたる審議および経済産業省工業標準調査会での審議を経て、J IS A 1904「建築材料の準揮発性有機化合物(SVOC)放散測定方法-マイクロチャンバー法」として発行されました。

●製品評価のための新たな試験方法

 室内空気質の確保のために厚生労働省が定めた室内濃度指針値(以下、指針値)設定物質のひとつであるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は、軟質塩ビ製品などに可塑剤として使用される材料で、塩ビに使われる可塑剤のおおよそ6割を占めています。指針値が設定された物質のうちホルムアルデヒドについては、その放散量測定法としてJIS A 1901「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)放散測定方法」が制定されていますが、その方法ではDEHPの放散量は測定できないことが分かりました。
  そのため、DEHPを含有している塩ビ製品については、製品評価のためのDEHP放散試験方法の開発が必要でした。

●マイクロチャンバー法の概要

マイクロチャンバー法の捕集工程

  そこでJPECは、製品からの可塑剤の放散測定方法として、東京大学生産技術研究所の加藤研究室で研究が進められていたガラス製チャンバー法に着目。それをより精度・感度の優れたものにしようと、(株)ダイヤ分析センターと共同で2002年から2年間をかけて改良を行い、マイクロチャンバー法と命名しました。測定法の概略は次のとおり(図参照)。
(1)放散捕集工程では、常温(28℃)において検体から図のチャンバー内に放散するSVOCを捕集管で捕集し、ガスクロマトグラフ/質量分析法(GC/MS)で分析定量する。
(2)加熱脱着捕集工程では、(1)の使用済検体をチャンバーから取り外して、220℃の加熱オーブン中でチャンバーを加熱し、チャンバー内壁に吸着したSVOCを不活性ガス(He)で揮散させて捕集、(1)と同様に分析定量後、(1)と(2)の結果を合算して放散量とする。

●2008年2月にJIS規格として公布

  シックハウス対策として公表された厚生労働省の室内空気中の化学物質の濃度指針、また建築基準法の改定に対応する建材の基準作りが経済産業省委託事業として(財)建材試験センターで進められることとなり、このマイクロチャンバー法を「建材からのSVOC放散測定方法」として提案しました。
  そして(財)建材試験センターのSVOC測定法部会(部会長 田辺新一早稲田大学教授)での2003年から3ヵ年に亘る各種SVOC放散評価方法の検証とスクリーニングの結果、この提案の方法を基にしたJIS原案が作成され、経済産業省工業標準調査会での審議を経て、2008年2月JIS規格として成立、公布されました。


 
早稲田大学 創造理工学部建築学科 田辺 新一教授のコメント
 厚生労働省がシックハウス問題に関して13の化学物質の室内濃度指針値を定めたが、DEHPなどのSVOCに関しては、建材などからの放散量を正確に測定する方法がなかった。一部の人の中には化学物質は全て悪いという誤解もあるようであるが、本質的にはリスクを考慮してうまくつきあうことが必要である。そのために、ホルムアルデヒド、トルエンなどのように放散速度を精度良く測定する方法が必要とされていた。工業界を含めて測定法の標準化に取り組めたことは大変意義深いと考えている。欧州でもSVOC測定法に関しては、良い方法がなくJIS A 1904をISO化できないかと検討が行われている。