動き始めた「塩ビリサイクル支援制度」
塩ビ業界『リサイクルビジョン』の実現に向けて、新規技術開発などを資金援助
塩ビのリサイクル技術やリサイクルシステム開発などに関するアイデアを公募して、資金面での援助を行う「塩ビリサイクル支援制度」を、塩ビ工業・環境協会(VEC)がスタートさせました。昨年(2007年)5月に、塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)とVECが共同してとりまとめた『リサイクルビジョン―私たちはこう考えます―』の実現をめざす取り組みの一環となるもので、既に第1回の公募を終了して現在選定作業中。世に埋もれたままの優れたアイデアを発掘、支援していくことで、塩ビのリサイクルに新たな道が拓かれることが期待されます。 |
●循環型社会のさらなる進展のために
塩ビは耐久性に優れ、長持ちすることから環境に優しい利点がありますが、それに加えてリサイクル適性に優れた持続可能性の高い素材です。塩ビのリサイクルについては、塩ビパイプや農業用ビニルフィルムなどのマテリアルリサイクル、高炉原料化に代表されるフィードストック(ケミカル)リサイクル、さらに塩ビを含む廃棄物のサーマルリサイクルと、その製品組成、排出形態に応じて様々な手法が開発、実施されていますが、循環型社会の構築をさらに進めていく上では、新たなリサイクル技術の開発やリサイクルシステムの拡充が依然として業界の大きな課題となっています。
昨年発表された『リサイクルビジョン』は、今後の塩ビリサイクルに対する業界の考え方と行動の方向などを示したもので、リサイクルの進展と業界のインフラ整備へ向けた具体策のひとつとして、塩ビのリサイクルシステム拡充と技術開発のために今後5年間で20億円の資金を投入する用意があることを表明しています(『リサイクルビジョン』の詳細は本誌62参照)。
● リサイクル技術、システム開発など3テーマで公募
今回の「リサイクル支援制度」は、こうした『リサイクルビジョン』の考えを実現するための取り組みの一環としてVECにより創設されたもので、「塩ビリサイクルに関する技術の開発やリサイクルシステムの構築等、関係企業・団体による先進的な取組を支援することによって、塩ビリサイクルの一層の進展を図ること」が目的。
具体的には、(1)塩ビリサイクルに関する技術開発、(2)リサイクルシステムの開発、(3)塩ビリサイクルに関わる実証試験、の3つのテーマについて、各業界の企業・団体からアイデアを公募し、実用化の可能性が高く社会的にも有用性が認められる案件を選定、一定の範囲内で資金援助(対象費用の50%、上限2000万円)していく仕組みで、選定に当たっては塩ビ業界の関係者だけでなく、リサイクルの技術、事業に精通した外部の有識者からなる評価委員会(別表参照)の意見を踏まえて、支援対象を決定することとなっています。制度の概要は次のとおりです。
・支援対象者の要件
1.支援対象案件を的確に遂行するに足る技術的能力を有すること。
2.必要な経費のうち自己負担分の調達が可能であること。
3 .廃棄物処理法その他の法令を遵守し、支援対象案件を的確に遂行する体制を有すること。
・支援対象案件の内容
1.塩ビリサイクルに関わる技術の開発
分離、選別、再生に関わるリサイクル技術、焼却・熱回収に関わる技術あるいは再生品の用途開発に関わる技術の開発であって、実用化の可能性が相当程度認められるもの
2.塩ビリサイクルに関わるシステムの開発
実用化を目指したものであって、分別、収集、物流の仕組みなど排出からリサイクルに至る過程に関わるシステムの開発・整備を行うもの
3.塩ビリサイクルに関わる実証試験
上記1または2に関連したパイロットプラント規模の設備、または既存の商業運転設備で実施される実証試験
・支援対象の選定基準
1.原則基準
(1)塩ビリサイクルの進展に寄与するとVECが認定したもの
(2) 開発または実証試験終了後、事業化検討に着手できるもの
2.個別案件基準
選定基準は支援対象案件毎に次のように定め、総合的に判断する。
(1)塩ビリサイクルに関わる技術の開発
・ 開発技術に有用性・新規性が認められ、開発所要期間も妥当なもの
・実用化が期待できるもの
・ 実用化されたときの処理数量が相当規模以上を見込めるか、あるいは当該技術を他に転用して相当規模の処理数量を期待できるもの
(2)塩ビリサイクルに関わるシステムの開発
・ 塩ビ排出物収集ネットワークの創設・整備、そのコスト削減等合理的な塩ビ排出・収集・物流システム構築・整備に寄与すると認められるもの
(3)塩ビリサイクルに関わる実証試験
・ 実証試験により確認されれば、当該排出物について直ちにリサイクル処理が進行することが期待できるもの
・支援対象期間と制度の運用期間
支援対象期間は2年以内とする。また、本制度は2007年度から2011年度末に至る5年間に申請された案件を対象として運用する。
評価委員会のメンバー
【委員長】 化学技術戦略推進機構 理事長 中 島 邦 雄 氏
【委 員】 東北大学大学院環境科学研究科 教授 吉 岡 敏 明 氏
〃 産業技術総合研究所 主任研究員 加 茂 徹 氏
〃 プラスチック処理促進協会 専務理事 井 田 久 雄 氏
〃 日本プラスチック工業連盟 専務理事 金 子 勇 雄 氏
〃 塩化ビニル環境対策協議会 運営委員長 小 林 俊 安 氏 |
● 個別企業の技術ではなく「社会技術」として展開(VEC)
アイデアの公募は毎年1、4、9月末を締切日として実施されることになっていますが、既に第一回目の公募は終了しており、この3月末までには最初の支援対象案件が決定される運び。今回の支援制度の意味と今後の展開について、VECリサイクルワーキンググループの阪内孚史リーダーは次のように述べています。
「デザイン・フォー・エンバイロメントという言葉が示すように、現代の社会ではリサイクル製品やリサイクル可能な素材・製品を使うことがグリーンだという考え方が強まっている。グリーン購入やラベル認証がリサイクル製品の使用を積極的に推進するために塩ビ製品についても拡充されてきている。さらに、様々な分野でリサイクルが可能な製品を使おうという動きが出ている。塩ビ製品の主用途の建築分野でも、設計・施工会社と施主との話し合いの中で、リサイクルできるものを極力使っていくことが検討される状況になっている。こうした流れから、様々な業界や企業には、今までリサイクルされてこなかったものを再資源化したいという意欲が出てきている。元来、リサイクルしやすい特性がある塩ビ製品にとっても、地球環境保全の一翼を担うという意味で誠に望ましいことだ。是非とも、塩ビがライフサイクルを通じて循環型社会や省エネ・省資源・省炭酸ガス負荷に役立つ素材であることを実感できる世の中にしていきたい。
しかし、塩ビのレジンメーカーの団体であるVECだけでそれを実現していくのは不可能で、おおもとのシーズを掴んでいるリサイクルメーカーや、中間処理業界、製品メーカーなどが一体になった形で進めていかなければならない。これらの業界の中には、塩ビのリサイクルに関して有用でユニークな技術やアイデアを持っているのに、実証する資金が不足しているために手をこまねいているところや、大きな会社でも予算を取れず逡巡しているところが少なくない。そうした埋もれたアイデアや技術を発掘して実用化していこうというのが今回の支援制度の狙いだ。ひとつの技術、システムができたら、それをモデルに横の展開をしていくことで、単に個別企業の技術ではなく、社会技術としてその成果を広げていきたい。新しいリサイクルの方法を開発することは大きなチャレンジだが、先導的取り組みへの強い意欲を持ったところとぜひ一緒にやっていきたいと思う」 |