2007年12月 No.63
 

【World Vinyl Forum III】レポート

5年に1度の世界会議。
各国の塩ビ関係者が業界の最新動向などを報告


会議が開催されたボストンの街並み
  世界の塩ビ関係者が集って塩ビに関する最新動向を報告する「World Vinyl Forum III」が、9月26日〜28日までアメリカのボストンで開催されました。会議に参加した信越化学工業(株)の木下清隆氏による特別寄稿もまじえて、3日間の討議の模様をレポートします。

●塩ビ産業の成長率「年平均5%」を予測

  「World Vinyl Forum」は、「塩ビの最新動向について情報を発信し、関連産業界などに塩ビに関する理解を深めてもらうこと」などを目的に5年ごとに開かれるもので、今回は「我々の将来を持続性ある時代とするために」をテーマに、17カ国265名の 参加者が(塩ビ関連の企業・団体のほか、大学などの研究機関やNGO関係者も含む)、各国における塩ビ産業の現状や新製品開発状況、業界の持続的発展への対応などについて、活発な意見交換を行いました。以下、各国の報告から主な注目情報を紹介します。
・ 米国の市場調査会社(CMAI)からは、2007〜2012年における世界の塩ビ産業の成長率を「年平均5%」とする将来予測が示されました。成長の中心は中国、インド、中東欧、ロシアなどで、生産能力は世界全体で2012年には年間5000万トンに増加するとしています。このほか、「塩ビは建設産業におけるインフラストラクチャーのリーダーであり続ける」との予想も。
・ 塩ビの技術開発の例としては、塩ビにナノ粒子化した炭酸カルシウムを添加して強度を高めるPVCナノコンポジットの研究や、粘土を添加することにより透明度を保ちながら酸素や水の透過性を低下させ難燃性、熱安定性を高める技術研究などが紹介されました。
・ 米国化学工業協会(ACC)からは、フタレート規制の動きに関する経緯説明があり、「2007年に8つの州とニューヨーク市でフタレート使用禁止の法案が出されたが、審議が続いているカリフォルニア州を除く全ての州で廃案になった」ことが報告されました(※その後、カリフォルニア州の法案は成立しました)。

● VEC・関専務理事が講演「持続的成長に役立つ塩ビ」

・ 米国からの報告で注目されたのは、建築家の卵を育てるための支援活動の事例。米国では、塩ビ業界をはじめとする建設材料の業界が、建築専攻の学生を対象とした支援組織を設けて活動しているとのことです。
・「サステイナブルな将来のための正しい科学と実践LCA」というテーマで報告を行ったアメリカのNGO・USGBC(US Green Building Council) は、2007年2月にまとめた報告書の結論として、建材として使用される塩ビを他の素材に替えると多くの場合、環境に負荷を与えることになりかねないことを明らかにしたほか、「環境に対するインパクトを評価するLCAの課題は、殆どのデータが国際的に一致しないことだ」と指摘しました。
・ 日本からは、塩ビ工業・環境協会(VEC)の関専務理事が「持続的成長に役立つ塩ビ」と題して講演。気候変動緩和化への貢献が期待される塩ビサッシをはじめ、様々な有用性から建設材料として塩ビが幅広く利用されている現状を紹介したほか、VECと塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)が中心となって『リサイクルビジョン』を策定し、塩ビリサイクル推進のための活動を続けていることも報告しています。
・ また、国連大学プログラムアドバイザーの上野潔氏が、電化製品に塩ビ部品が使われてきた歴史とリサイクルの状況などを豊富な写真とともに紹介し、注目を集めました。




特別寄稿

【World Vinyl Forum III】に参加して

塩ビの「Sustainability」が焦点に。
環境問題、資源問題への対応をめぐって議論


信越化学工業(株)社長室 木下 清隆

●塩ビの明日は

会議風景
  9月26日〜28日まで「World Vinyl Forum III」がボストンで開催された。このForumは欧州・米国・日本の塩ビ関係者が5年毎に集い、時の諸問題について各代表が講演し論議する場であるが、今回は東南アジア諸国からの参加者も増え300名に近い盛況となった。
  今回のボストンForumでの特徴を一言でいえば、塩ビの「Sustainability」が問題にされ始めたと言うことである。この場合の「Sustainability」は一般に持続可能性と訳されているが、この場合「塩ビは生き残れるか」の意味合いも含まれている。そして、その意味は二つに分けられる。
  一つは、塩ビが社会的にその解決を要求されている多くの環境問題に対応できなければ、塩ビの明日は危ういとの危機意識である。鉛問題・添加物問題・廃棄物処理問題・地球温暖化問題等がその対象である。二つ目は、資源問題である。上記の諸問題が全て解決されたとしても、塩ビの原料たるオイル等の資源が枯渇すれば、塩ビの明日はどうなるのかということである。
  この二つ目の資源問題については、CMAI のStevenBrienと、ECVMの専務理事Jean-Pierre De Greveとが取り上げた。この内、Steven Brienは将来の塩ビ事業の懸念事項として、オイルと天然ガスの価格問題を論じた。そして、彼は2011年までの見通しとして、オイルは現状をピークとして値下がりする、ガスは現状のまま横這いを維持するとの見通しを示した。このことは彼の意識の中に、これら資源の枯渇問題などは全く無いことを示している。アメリカは既にオイルもガスも他国から輸入しなければ国内需要を満たし得ない他国依存型国家となっている。そのような状況にも拘らず、彼らが将来を余り心配していないように見えることは驚きである。更に彼らの国家に対する信頼の厚さを感じさせる。国はどんなことがあっても、エネルギー問題で国民に心配させることはないとの確信である。

●温暖化問題に対する欧米の認識差

  これに対しJean-Pierre De Greveはオイル等の資源のAvailabilityを問題にした。この場合のAvailabilityとは「入手可能性」とでも訳せよう。要するにオイル資源或いはその他エネルギー資源について、将来共に十分な供給が得られるのだろうか、との危惧の念を表明したということである。このように資源の将来における枯渇問題を視野にいれている点でJean-Pierre DeGreveの懸念はSteven Brienとは大きく異なり、より深いものとなっている。この両者の違いは地球温暖化問題に対する欧州と米国の認識の違い、即ちエネルギー資源への危機感の違いを図らずも反映していると言える。欧州諸国は、現在、石油も天然ガスもかなりの部分をロシアに依存しており、今後、その比重は益々高まる予想である。ロシアに彼らの生殺与奪の権は握られるということである。これに対し米国は、世界中からエネルギー資源を調達することが可能である。その違いが両者の違いに反映されているということである。
  Jean-Pierre De Greveは長いForumの最後の締めくくりとして講演したが、大変重みのある内容であった。5年後の「World Vinyl Forum IV」においては、今回懸念され始めた塩ビの「Sustainability」問題が更に大きく取り上げられることになろう。