新日鐵のコークス炉化学原料化法
独創的なアイデアで、塩ビを含む容器包装プラを丸ごとリサイクル
一般家庭から出るさまざまな容器包装プラスチックを、製鉄用のコークス炉を使って熱分解し、再生油やコークスとして丸ごとリサイクル−。新日本製鐵(株)(本社/東京都千代田区、以下新日鐵)のコークス炉化学原料化法は、長年の製鉄技術の蓄積から生み出されたまったく新しいプラスチック・リサイクル技術です。資源循環型社会の構築と温暖化防止への貢献へ向けて、着実に実績を積み重ねる同社の取組みを、最大の拠点となる君津製鐵所(〒299−1196 君津市君津1 TEL. 0439-52-1209/FAX. 0439-54-6631)に取材しました。 |
●世界に例のないオリジナル技術
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茨城部長(右)と小関常雄氏(プラスチックリサイクルグループリーダー) |
鉄鋼製造の燃料、還元剤として欠くことのできないコークスは、石炭(微粉炭)を高温・無酸素状態のコークス炉の中で蒸し焼き(乾留)にして作られます。また、石炭を乾留するときに揮発するガス分(コークス炉ガス)も貴重な資源で、鉄鋼メーカーでは従来から、ガスを回収・精製して製鉄のエネルギー源や化製品原料として有効活用してきました。
新日鐵のコークス炉化学原料化法は、このコークス製造の原理を廃プラスチックの再資源化に応用、進化させたもので、世界的にも例のないきわめて独創的な技術といえます。「塩ビを含むさまざまな種類の容器包装プラスチックを混合状態のまま1200℃の高温で熱分解し、コークス炉ガスと炭化水素油(以下「再生油」)を回収する一方、カーボン残渣はコークスとして再利用する」ことにより、プラスチックをほぼ100%リサイクルすることが可能で、2002年には、「コークス炉による廃プラスチックリサイクル」のモデル事例として、(財)日本産業デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞の金賞を受賞しています。
「プラスチックのリサイクルにコークス炉を利用するというアイデアは、コロンブスの卵というか、思いついたことそのものが発明だったと言えるが、考えてみれば容器包装プラスチックのリサイクルにこれほど適した技術は他にない。というのも、雑多な混合体で排出される容器包装プラの場合、分別して単一素材でマテリアルリサイクルするのは現実には不可能であり、乾留という手法で元の原料の形に戻すことで初めて効率的かつ安全なリサイクルが可能になる。欧米や日本で一般的な高炉還元法(コークスと一緒に廃プラを直接高炉に吹き込む方法)に比べて歩留まりも高い。塩素対策としても優れており、塩ビを分別する手間をかけることもなく問題なくリサイクルできる」(君津製鐵所環境資源エネルギー部の茨城哲治部長)
新日鐵では、2000年4月の容器包装リサイクル法施行を機に、名古屋製鐵所と君津製鐵所で、コークス炉化学原料化法を用いたプラスチックのリサイクルに着手。その後2002年には室蘭と八幡、2005年には大分の各製鐵所へと事業を拡大し、現在では全体で年間約25万トンの処理能力を有するまでに至っています。中でも君津製鐵所は、処理能力約9万トン(3ライン)、処理実績7万トン余り(2006年度)と、文字どおり日本最大級のプラスチックリサイクル施設のひとつです。
●塩素の影響は予想以下のレベル
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君津製鉄所の前処理設備 |
君津製鐵所のプラスチックリサイクル施設は、前処理工程と熱分解工程の2つで構成されています。前処理工程は、プラスチックをコークス炉で処理しやすい形に加工する工程で、粗破砕→手選別による異物除去→磁力選別による金属類の除去→2次破砕→減容整形という順序を経て、単一乾電池サイズの造粒物(25mm×60mm)に整形されます。
一方、熱分解工程では、この造粒物を定量の石炭と混合してコークス炉中心の炭化室と呼ばれる密閉空間に投入し熱分解が行われます。揮発したガスはガス冷却装置で約900℃から80℃まで一気に急冷した後、アンモニア水により塩素を取り除きます。こうしてプラスチックは最終的に40%の再生油(軽油とタール)と40%のコークス炉ガス、そして炭化室内に残った20%のコークスの3つに分解され、コークスは高炉還元剤として利用されるほか、軽油分は各種プラスチック製品の原料に、タール分はテニスラケットなどのカーボンファイバー製品やエポキシ樹脂塗料などの原料にリサイクルされます。また、水素とメタンを主成分とするコークス炉ガスは、所内の発電設備や加熱炉の燃料として再利用されます(以上は下図参照)。
「コークス炉化学原料化法では、基本的に前処理工程で取り除かれた異物以外はすべて再利用される。これが100%リサイクルと謳っている所以だ。容器包装リサイクル技術の中では最も歩留まりの高い技術であり、貴重な資源は絶対に無駄にしないという我々の思いは、この技術によって支えられている」(茨城部長)。
前述したとおり、コークス炉化学原料化法では塩ビも分別することなく一体処理されますが、塩素の影響について茨城部長は、「塩素は塩ビだけでなく容器に付着した醤油や塩からも発生するが、すべて合わせても2〜3%ぐらいの濃度で、現在の脱塩素処理で全く問題はない。当初は塩ビを分別することも考えたが、実際にやってみると予想に反して設備の腐食などの影響もなく、再生油やコークス炉ガスにも塩素は殆ど残らない。燃料として使用される部分においても、コークス炉ガスを使った発電設備は発電効率は47%と、普通の都市ごみ発電(16%程度)に比べて圧倒的な高効率になっている」と説明しています。
鉄鋼業界では京都議定書に基づく地球温暖化防止策のひとつとして、廃プラスチックを2010年までに年間約100万トン有効利用(炭素換算で約70万トン削減)する自主行動計画を策定しており、新日鐵でも今後、「業界計画100万トンの3分の1分担」を最終目標に、年30〜40万トン処理に向けて体制の整備増強を図っていく考えです。
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