2007年6月 No.61
 

“温暖化防止対策の切り札”
塩ビサッシのリサイクル始動へ

本年度中にモデル事業スタート。 普及拡大に備え資源循環の受け皿を準備

塩ビサッシのリサイクルモデル事業が本年度中にスタートします。温暖化防止対策、省エネルギー対策の切り札としての役割が期待される塩ビサッシですが、今回の試みは、今後の普及拡大に備えてリサイクルについてもいち早く受け皿となるシステムを準備することで、資源循環型社会への業界責任を担っていこうとするもの。事業の中核となる塩ビサッシリサイクル合同ワーキンググループでは、まず需要の多い札幌市周辺から手を着け、順次段階的に拡大していく方針です。

●将来のリサイクル義務化も視野に

  優れた断熱性と気密性で、建物の開口部から失われる冷暖房の熱エネルギーを大幅に低減する塩ビサッシ。京都議定書における目標達成(1990年比で温室効果ガスの6%削減)へ向け「チーム・マイナス6%」を主導する環境省も温暖化防止対策のひとつとして塩ビサッシの有効性に注目。昨年10月省内の窓の一部(中央合同庁舎5号館23階と26階)に内窓タイプの塩ビサッシ(別項)を採用したのに続いて、今年4月には大臣室をはじめとする幹部個室にも増設するなど(トップニュース1の記事参照)、率先してその普及を後押しする姿勢を示しています。
 塩ビサッシは、塩ビ本来の特長を生かした長寿命の製品である上、日本での発売開始(1975年)からあまり時間が経っていないこともあって、今のところ廃棄される量はそれほど多くなく、最も普及が進んでいる北海道でも、廃棄後はそのほとんどが埋め立てられているのが現状です。
  しかし、30年前に初めて塩ビサッシを施工した家屋が2007年前後から順次建替え時期に入っていくこと(図1参照)、さらには、近い将来建設リサイクル法に基づくリサイクル義務付けも想定されることなどから、早急にリサイクルシステムを確立することが業界にとって大きな課題となっていました。
  塩ビサッシメーカーの団体であるプラスチックサッシ工業会と(社)日本サッシ協会および塩ビ工業・環境協会(VEC)の3団体は、こうした将来予測と社会の動向を踏まえて、1999年10月、塩ビサッシリサイクル合同ワーキンググループ(以下、WG)を共同で組織し、連携してリサイクルシステム構築への取り組みを継続してきました。
  2002年には経済産業省の委託事業として塩ビサッシリサイクルシステム調査研究を実施、北海道内での使用済みサッシの再生処理のテストなどを行ったのに続き、2003年にはドイツに調査団を派遣して塩ビサッシリサイクルの先行事例を現地調査。その後、2004年から2006年にかけて、回収量の予測、再生品の品質評価とコスト試算、北海道庁・支庁との協議(北海道庁からは環境生活部環境局循環型社会推進課と建設部住宅局建築指導課が参加)など具体的な作業を続けてきました。
  また、これら一連の作業では、東京大学大学院・新領域創生科学研究科の清家剛准教授をアドバイザーに迎えてシステム構築の細部にわたって指導を仰いだほか、経済産業省住宅産業窯業建材課とも緊密な協議が行われました。

●「サッシtoサッシ」のマテリアルリサイクル

  今回のリサイクル・モデル事業は、基本的に「サッシtoサッシ」のマテリアルリサイクルをめざすもので、WGでは当面2011年度までを「初期段階」と想定し、対象地域を札幌市とその周辺(石狩・空知・胆振・後志の4支庁管内)に限定して事業を進めていく計画です。
  リサイクルモデルのフローは下図のとおり。現状では建築解体業者が集めた使用済みサッシを中間処理業者(江別市の角山開発(株))が切断して埋立て処分しているものを、今後は、(1)角山開発で1次処理(切断とガラスの除去)された部材を、(2)塩ビ建材のリサイクル業者(赤平市の潟[ニアテックス)が部品の解体と異物除去(金属や他の樹脂、汚れなど)を行った上で2次処理(粉砕)、(3)これを塩ビサッシメーカーが引き取って製品の原料に再利用する、という流れでリサイクルしていくこととなります。(社)日本サッシ協会とプラスチックサッシ工業会は全体の運営管理を担当します。
  初年度の目標処理量は約5トン。これは、前述したとおり、当面はまだ初期段階で使用済み塩ビサッシの排出量もそれほど多くないと予測されるためで、WGでは今後排出量の増加に応じて設備投資の充実や対象地域の拡大など、段階的にシステムの確立、展開をめざしていく方針です。
  再生原料については、これまでの実験からサッシの内部層など外観上問題にならない部分に20%程度利用できることがわかってきていますが、用途については基本的には各社それぞれの研究開発に委ねられることとなっています。

●安定したリサイクルへの第1歩

  「モデル事業への取り組みを通じて、(1)再生原料の品質向上、(2)再生処理作業のコストダウン、(3)各社におけるリサイクル用途開拓、という3つの課題を継続的に検討していく。まずは初年度の取り組みの中でどれだけのことができるか、その実績と反省を踏まえた上で、分別作業の機械化などシステムの改善を進め、少しでも早く自力で安定したリサイクルを維持できるようにしたい。6割の塩と4割の石油で作られる塩ビは、他の樹脂に比べて石油使用量も少なく、製造・加工工程で消費されるエネルギーも少ないエコロジー製品だが、同時に塩ビサッシには温暖化防止対策での役割という期待もかかっている。そうした有用な製品について、廃棄された後のリサイクルシステムまで将来に備えて準備しておくことは、業界にとっても社会にとっても非常に大きい意味を持つ」(プラスチックサッシ工業会・福田恵輝技術委員長)
  地球温暖化防止への貢献という要請に応えつつ、資源循環型社会にも対応した製品としてさらなる一歩を踏み出した塩ビサッシ業界の試み。その順調な進展が望まれます。


塩ビサッシとは−

塩ビサッシ(外窓タイプの断面図)

 塩ビ製の窓枠に二重ガラスを組み合わせた塩ビサッシは、約半世紀前ドイツで開発されました。日本でも1975年の発売以来、北海道・東北地方といった寒冷地を中心に着実に普及が進んでおり、特に北海道の新築住宅における普及率は90%に達しますが、全国レベルでの普及率は7%程度と推定され、ヨーロッパやアメリカの50%程度と比べるとまだ低いレベルにとどまっています。
 塩ビサッシには、アルミサッシと組み合わせた内窓タイプと単体で使う外窓タイプがあります。その省エネ効果によるCO2削減のメリットは大きく、 結露防止や騒音のシャットアウト効果も大きい塩ビサッシは、快適な生活を維持しながら環境対策を進めていく上で、社会に欠かせないエコ建材といえます。



塩ビはリサイクルできる材料

東京大学大学院・新領域創生科学研究科准教授 清家 剛 氏

  これまで本プロジェクトでは、実験室内での技術検討だけでなく、実際の改修・解体現場から200窓を集めて実廃棄物による実験を行い、リサイクルの可能性について研究してきた。このような実践的な検討をふまえて、いよいよ初期段階のスタートということで、個人的にも感慨深い。幸い樹脂サッシの普及が遅かったことから、実際の解体廃棄物として増えてくるのはこれからである。
  したがって今後運用上の課題のいくつかは、ここ数年のうちに十分な検討がなされ、解決されることと思われる。2003年度のEU調査でドイツのリサイクル関係者が語った「塩ビはリサイクルできる材料なんです。」という言葉が、日本でも現実のものとなることを期待している。


意義大きい、モデル事業のスタート

経済産業省住宅産業窯業建材課 技官 山本晃平 氏

   近年環境に対する取り組みが注目されており、塩ビサッシについても、平成13年度に資源有効利用促進法により、分別回収の利用促進のため表示製品に指定される等、リサイクルへの気運が高まってきた。そんな中、平成14年に当省支援のもと、「塩ビサッシリサイクルシステムの構築」への取り組みが開始された。
  この取り組みによって、再生原料をサッシの内部層など外観上問題にならない部分に20%程度利用出来ることがわかったが、再生原料の品質向上、再生処理作業のコストダウン及び再生原料の回収方法といった多くの課題が残されている。これらの課題を解決し、安定したリサイクルシステムを確立させることが重要であるため、本年度中に試験的に塩ビサッシのリサイクルモデル事業をスタートさせることは、大変意義のある大きな第一歩である。