2006年12月 No.59
 

積水ハウスのモデルハウスの一例
積水ハウスが挑む、
サステナブル時代の住まいづくり


「4つの価値」(環境・経済・社会・住まい手)のバランスの上で持続型社会実現へ

環境問題への対応が迫られる中、住宅建設の世界でも持続型社会への貢献は大きなテーマ。「サステナブル」を基軸に据え、「4つの価値」と「13の指針」を道しるべに、ハウスメーカーの大手・積水ハウス梶i大阪市北区)が取り組むサステナブル社会の住まいづくり、まちづくりとはどんなものなのか、現状を取材しました。

●「サステナブル宣言」と「4つの価値」
  積水ハウスでは、1999年に環境憲章と環境基本方針を制定して以来、「人・街・地球の調和」をめざし全社を挙げて環境対策に取り組んできました。
  2004年には、CS(顧客満足)SS(株主満足)ES(従業員満足)の三位一体の向上により企業の社会的責任(CSR)を果たす企業グループの中期経営ビジョン「S-Project」を策定。続く2005年には、<環境価値><経済価値><社会価値><住まい手価値>という「4つの価値」のバランスの上に持続型社会の実現をめざす「サステナブル宣言」を掲げ、その活動の一環として「アクションプラン20」(2010年における住宅からのCO2排出量を1990年比の20%削減、サステナブル社会構築に向けた新技術研究開発の推進、など)への取り組みに着手するとともに、従来の環境推進部に加えCSR室を新設するなど、事業に合わせて大幅に組織を整備しています。
  一方、情報公開への対応も積極的で、2005年のCSR・環境対策の状況をまとめた『サステナビリティレポート2006』について第三者評価を行った国際NGOナチュラル・ステップ ジャパン(スウェーデンに本部を置く環境教育団体)は、「この報告書には、積水ハウスの環境と社会的側面におけるパフォーマンスとチャレンジとコミットメントの的確な要約が記載されており、積水ハウスの重要な課題について必要と思われる情報が記載されている」とした上で、広い視野で持続型社会への構築に取り組む「積水ハウスのチャレンジに期待する」とのコメントを寄せています。

●「4つの価値」実現の具体策「13の指針」
  その「積水ハウスのチャレンジ」を実践していく上で具体的な設計図となるのが、前述した「4つの価値」と、これに基づいて2006年に策定された「13の指針」です。
  「4つの価値」の考え方は、持続型社会を実現するためのグローバルスタンダードとして近年定着しつつある「トリプル・ボトムライン」というコンセプト(企業は<経済><環境><社会>のバランスのとれた経営を行うべきだとする考え方)を踏まえたものですが、この3つの価値に加えて、居住者の側の視点を重視した<住まい手価値>を設定し、それぞれの価値のバランスと相互作用の上に21世紀の住まいづくり、まちづくりを進めていこうという姿勢に、住宅メーカー・積水ハウスとしての独自性を見ることができます。
  一方の「13の指針」は、この「4つの価値」を具体化するためにどんな対策が必要となるのかを、1年掛かりで関係各部で検討した結果をまとめたもので、ひとつの価値要素につき3〜4つの指針が定められています。同社環境推進部の森谷守部長のお話。
  「4つの価値を深く掘り下げた13の指針は、当社の活動を持続可能な方向へ導いてくれる道しるべとなるものです。極端な言い方をすれば、住まい手の快適さを追及すればするほどエネルギーを使って環境価値は下がってしまうことになるわけですが、13の指針には、そのバランスを調整しつつ、無駄なく速やかに持続型社会に進んでいくには何が必要かがわかりやすく示されています。現在、各セクションの取り組み状況に対する評価について、セクションごとに指標を検討しているところです」

●<環境価値>を実現する4つの指針
森谷守部長
 ここでは、「4つの価値」のうち<環境価値>を中心に詳しく見ていくこととします。
  <環境価値>については、【エネルギー】【資源】【化学物質】【生態系】の4つの指針が示されていますが、【エネルギー】対策としては、省エネルギーと断熱性能の向上による化石燃料への依存度の低減がテーマとなります。このため同社では、住宅全体を断熱材で包む(樹脂サッシと複層ガラスによる開口部の断熱性向上を含む)など最高レベルの断熱対策と高効率給湯器の装備などを全戸に標準化しているほか、太陽光発電も特別に低価格で提供するなど、「省エネルギーと創エネルギー」を組み合わせた対策を推進しています。
  一方、【資源】について最も力を入れているのが住宅の長寿命化と新築現場でのゼロエミッションです。同社の住宅建設には1棟当たり計約100トンの資源が使われますが、長寿命化対策では、約30年程度と言われる現在の住宅の平均寿命を、50年以上に引き上げていく計画。
  また、新築現場のゼロエミッションについては、建築材料の加工端材や使用済み梱包材など、現場から出るさまざまな廃棄物を現場で27品目に分ける分別ルールを採用。さらに、これらの廃棄物をすべて工場に持ち返って品目ごとの排出量と減量対策を分析する手法を導入した結果、同社の住宅1棟当たり平均3トン排出されていた廃棄物を、1.8トンにまで減らすことに成功しています。
  「一般のゼロエミッションでは、出てきた廃棄物を主に中間処理業者に委託して処理してもらいますが、それではどんなものがどれだけ出ているかが我々には全くわかりません。すべて工場に持ち帰って分析すれば、『石膏ボードは37%ある、次はこういう手を打とう』といった対策を27品目ごとに手当てできます。それと、現場だけでなく資材調達、設計など、より上流の対策を併せてやっていくと非常に減量しやすいことがわかりました。最終的には800キロまで減らしたいと考えていますが、理論的には十分実現可能です」(森谷部長)
  積水ハウスでは、リフォーム工事から出る廃棄物についても同様の取り組みを進めているほか、メンテナンスなどのアフターサービスから出るものについてはシステムを完成しています。  なお、27品目の中には塩ビ管、雨樋などの塩ビ建材も含まれており、それぞれのルートでマテリアルリサイクルが進められていますが、壁紙などの複合製品についてはサーマルリサイクルが中心。
  「パイプや雨樋などのように塩ビ単体で回収でき、しかも性能、コスト面でそれに優る材料がないものについては、できるだけ塩ビを使っていきたい。壁紙のように塩ビだけ剥がすことができない製品は、現状では熱回収するしかありませんが、加工性や耐久性に優れているので、新しい技術によりマテリアルリサイクルが可能となるならば、継続して使用することを検討していきたいと思います。リフォーム、解体時にできるだけ脱着、分別しやすくリユースしやすい製品について業界の研究開発を期待しています」

「4つの価値」と「13の指針」
       

●化学物質の管理ガイドラインづくりも
新・梅田シティの一画に造成された「新・里山」
  【化学物質】の対策としては、建築系で使う約8000物質について一昨年、使用量の調査を実施しており、このデータに基づき現在、どこにどれだけの量が使われているかの洗い出しを行っている最中。この作業が終了した段階で、減量化へのロードマップの検討に入る予定で、約100種類の化学物質を選び、(1)完全に禁止するもの、(2)減量するもの、(3)管理しつつ様子を見ながら減らしていくもの、の3つに分けて来春頃までにガイドラインが発表されることとなっています。
  【生態系】ついては、2001年から取り組んでいる「5本の樹」計画が年間約1500棟の建売住宅に標準採用されています。この計画は、日本の自然を育んできた里山を手本に庭づくりやまちづくりを進めようというもので、気候や植物の適応性などに応じて日本を5つの地域に分け、それぞれに適した樹木(日本の原種や自生種、在来種)を植栽することにより生物多様性を育むことが目的。年間約30万本の樹木が植栽されており、(財)日本産業デザイン振興会の2006年度のグッドデザイン賞を受賞するなど、CSR活動としても高い評価を受けています。また、この一環として積水ハウス本社のある新・梅田シティの一画に造成した「新・里山」(約8000m2)も、市民の憩いの場として親しまれています。
  なお、積水ハウス独自の<住まい手価値>については、【豊かさ】【快適性】などの対策として免震住宅の提案やユニバーサルデザインの標準採用などが進められていますが、<住まい手価値>は他の3つの価値と複雑にリンクする要素が多く、前述したようにバランスの取り方が難しい部分でもあります。このため同社では、東京都国立市に新たな住まいの研究施設として「サステナブル デザイン ラボラトリー」を建設、環境技術的なデータの蓄積はもとより、人間の暮らしが将来の地球環境にもたらす影響、それに伴う新たな住まいづくりとライフスタイルのあり方などについての実証実験なども積極的に進めています。