2006年3月 No.56
 
光触媒(酸化チタン)が可能にした、「テント革命」の驚き

酸化チタンのコーティングで汚れを化学分解。省エネなど環境効果も期待

 

 日本生まれの最先端技術を利用した塩ビテントが話題です。セルフクリーニング機能など、テントをはじめとする膜構造物の世界に革命をもたらした、驚きのテクノロジーに迫ります。

 

●長期に渡り美しさをキープ

 
 コストパフォーマンスに優れ、加工性、光透過性が高いなど、様々な特長を持つ塩ビは、テント(膜材)に使われる最も主要な素材です。しかし、屋外で長年使っていると、汚れが付着して美観が損われる上に光の透過率も落ちてくるという難点があり、メーカーにとって大きな悩みの種となってきました。光触媒テントの登場は、この問題を一挙に解決する文字どおり革命的な出来事でした。光触媒テントは、酸化チタン光触媒をテントの表面にコーティングすることにより、汚れを化学的に分解してしまおうという全く新しい発想から生まれた製品で、このセルフクリーニングの機能が備わったことで、従来のメリットをそのままに、長期に渡って美しさを保つことが可能となったのです。光触媒テントには、塩ビテントのほかに、フッ素樹脂テントを用いた製品も開発されていますが、現時点では塩ビテントがメイン。昨年の愛知万博でも、参加企業のパビリオンや各種施設に利用されて、ビッグイベント成功の一翼を担っています。
 

●ヒートアイランドの緩和効果も

 
 光触媒テントを開発したのは、テント・膜構造物のトップメーカー・太陽工業(株)(本社=大阪市淀川区)と日本曹達(株)(本社=千代田区大手町)。5年間におよぶ試験研究を経て、1999年から本格的な販売が開始されるや、画期的な製品として多くの話題を集めました。技術企画室の親川昭彦技術補によれば、技術的に最も苦労したのは、柔らかく変形しやすい塩ビテントに均一に酸化チタンをコーティングする方法と、光触媒から膜を保護する接着剤の開発だったといいます。
 「有機物を分解する光触媒は塩ビそのものも分解する。これを防ぐには何かのバリア層を設けなければならない。我々は、塩ビテントと光触媒の間に特殊な保護接着層を挟むことでこの難題を解決した」
 光触媒テントには、セルフクリーニング機能を基点として、さまざま環境効果も期待されています。そのひとつが、白いテントの白さを維持する事が可能になったことで、日中は照明が不要なほどの光量が得られ大幅な省エネが可能となること。また、高い日射反射率で冷房の使用を抑えヒートアイランドを緩和する効果も期待できます。
 このほか、打ち水効果で室内の熱を奪うテントなどいろいろな環境機能を付加した製品の開発も進行中とのことで、やがては、塩ビテントの環境住宅ができる日が来るかもしれません。
 

光触媒とは? 1960年代に日本で発見された光触媒反応『ホンダ・フジシマ効果』から生まれた最先端技術。触媒に太陽光(紫外線)や蛍光灯の光などが当たると、表面に強力な分解作用を受け、有機化合物やカビ、細菌などを分解する。触媒には一般的に酸化チタンが用いられる。酸化チタンは、白色顔料として昔から使われてきた金属酸化物で、現在でも歯磨き粉、繊維、塗料、化粧品などのほか食品添加物にも使われている。