2005年9月 No.54
 
JPEC講演会「容器包装リサイクル法の考察」から

  同志社大・郡嶌孝教授が、海外の最新動向、
  容リ法改正の論点などで講演
 

    容器包装リサイクル法改正に向けた検討が進む中、JPEC主催の講演会「容器包装リサイクル法の考察」が6月15日午後、東京港区の虎ノ門パストラルで開催され、経済産業省の産業構造審議会容器包装リサイクルWGで座長を務める同志社大学経済学部の郡嶌孝教授が、容器包装をめぐる海外の動きと日本における法改正の論点などについて講演を行いました。話の中で教授は、「回収〜リサイクルまですべてを製造者の責任で行うという単純なEPR(拡大生産者責任)では、廃棄物のリデュース、リユースに役に立たず、ドイツではその限界から様々な問題が発生している」「その結果、総合的製品政策(Integrate Product Policy)という新しい考え方が出てきており、製品の製造から廃棄に至るライフサイクル各段階での環境負荷を国民各層の責任分担で減らしていこうという動きが主流になりつつある」などヨーロッパの最新動向を紹介。その上で、こうした動きを日本の容リ法見直しに生かしていくには、「義務的な規制ではなく、経済的なインセンティブで産業界の自主的取り組みを促すようなEPRに変えていくことが必要」との考えを示しました。以下に講演のポイントをまとめました。  

■ 指摘され始めたEPRの限界

  • EPRについて、日本では環境団体、市民団体が強く主張しているが、EPRは本来目的でなくひとつの手段であって、独善的に目的化することは慎まなければならない。ヨーロッパでは既にEPRの限界が指摘されはじめている。また、リデュース→リユース→リサイクルという優先順位についても、LCA(ライフサイクルアセスメント)的な視点から「場合によってはリサイクルのほうが環境負荷を減らせる」という評価も出てきており、イギリスを中心にLCAに基づいて、総合的な評価から優先順位を決めるべきという声が広がっている。これは「統合的廃棄物管理政策」(Intimated Waist Management Policy=IWP)として提唱されているもので、例えば生ゴミはコンポストでなく熱回収すべきだといった手法の見直しが進んでいる。
  • ドイツのDSD(デュアルシステム・ドイチェラント)を例に取ると、当初は、回収〜リサイクルまでメーカーに責任を負わせれば、メーカーはコストを下げるために生産段階で何らかの工夫をして減量化を図るようになり、結果としてリデュース、リユースの方向に進む、ということが想定されたのに、容器包装廃棄物についてそういう状況は全く見られない。むしろ、リサイクルコストを消費者に負担させて大量のリサイクルが進むということになってきた。
  • 一方、生ゴミのほうも、容器も生ゴミもすべてを自治体がやっていた頃に比べて処理コストが下がるはずだったのに、回収が有料化されたこと、(容器がなくなって)焼却・埋立施設の稼働率が下がったことなどのために、逆にコスト高になってしまった。
  • つまり、自治体に出すゴミの量が減ったにもかかわらず、自治体の生ゴミ回収料金は上がり、一方で容器包装のリサイクルコストも負担しなければならないということになった。その結果何が起こったか。市民はDSDの容器包装回収ボックスに生ゴミを投棄する、つまり「ただ乗り」の急増という事態が出てきた。DSDの調査では、農村部で20%、都市部で50%生ゴミが混入している。最悪のデュッセルドルフではDSDのボックスの中身の98%が生ゴミという結果だ。ある意味で、これは市民として当然の防衛手段ともいえるわけで、ドイツ市民の環境意識が取り分けて高いというわけでは決してないということだ。国内の経済が悪いこともあって、環境問題は既にドイツ国民の主要な関心事でなくなっている。

  

■ ランドベル社の挑戦に注目

  • こうした中、DSDのコストが余りに高いということで、競合相手も出現してきた。ケッセン州ラーンディル郡に誕生したランドベルという会社だ。この会社は容器の中に生ゴミが混入することを前提にシステムを組みなおすという戦略で勝負に出た。具体的には、ブルーバックという青い回収袋を使ってスチール缶、アルミ缶、シート状のプラスチック、そして生ゴミを一緒に回収し、缶類を磁選別した後、残ったプラスチックと生ゴミを一緒に発酵させて、その発酵熱でプラスチックを乾燥させる。そして、生ゴミはコンポストに、プラスチックはRPFとしてサーマルリサイクルする、という方法だ。
  • 同社はこの方法でDSDの50%のコストでリサイクル率98%を実現した。このため、ハンブルグなどケッセン州以外の自治体でもDSDから乗り換えるところが増えてきている。コストを下げながらバイオケミカルな処理法を利用してリサイクル率を上げるというランドベルのやり方は、3RからIWPへの変化を促すものとして注目される。

 

■ ガラス瓶を駆逐したデポジット

  • 一方、ドイツではデポジットに関しても問題が出てきている。ドイツには72%が再使用容器でなければならないという72%条項というものがあって、2年連続で72%を割るとその容器に対してデポジットを課すことになっている。2000年前後から実際に72%を割るところが出始めたが、ある場所で買ったものを別の場所で返すと精算に混乱が起きるということで、シールを貼ったりコインを渡したり、レシートを確認したりと、いろいろな工夫が図られた。その中で最良の方法と考えられたのは、容器の形をメーカー、販売店ごとに変えるというやり方だ。例えば、ダイエーで売るコカコーラは瓢箪型、イオンで売るサントリーの飲料は角型、と決めておけば小売店ごとに精算がうまく行く。但し、それには成形性のいい樹脂素材でなければならない、ということで飲料容器が全部ペットボトルに変わってしまって、ガラスびんが駆逐される結果となった。
  • このように、72%条項はうまくいっていない。さらに、デポジットの結果として氾濫したペットボトルの大半は、スーパーと契約しているリサイクル業者により回収されて中国に有価で輸出されているが、その分、DSDに集まる分が少なくなってその役割が縮小し、ペットボトルの再生業者が苦戦を強いられるという問題も出ている。

 

■ EPRからIPPへ

  • いずれにしても、本来のEPRが目的とした使い捨て容器の減少と処理コストの全体的低減という、EPR本来の目的は達成されなかった。しかし、ヨーロッパ全体でリデュース、リユースを諦めてしまったわけではない。そこで出てきたのが、総合的製品政策(Integrate Product Policy=IPP)という考え方だ。つまり、製品の廃棄段階以降のことだけを考える容器包装対策ではだめだから、製品の生産から廃棄に至るライフサイクル各段階での環境負荷を減らしていこうということだが、そうなると生産者だけに責任を負わすというEPRでは事は済まない、それぞれの段階で国民各層の責任分担が求められる。EPRの限界から次第にIPPへという流れの中で、廃棄物になったものをリサイクルするのでなく最初から廃棄物にしないことを考えていくことになる。

 

■ 日本における容リ法見直しの方向

  • こうした海外の事例を見ていくと、これをどう日本の容器包装リサイクル法の見直しに生かしていくかが問題になる。残念ながら現在の見直しの論点の中にはそういう視点はあまり出てきていない。ただ、ひとつ変わりはじめたのは、「リサイクルを続けていくことは依然必要だろうが、重要なのはそれをどう高度化していくかだ」という視点が出てきたことだ。リサイクルを高度化するためには、(1)量から質への転換、(2)資源政策の転換(廃棄物としてではなく資源として静脈のサプライチェーンの中でどう有効利用していくか)、(3)ライフサイクル各段階での環境負荷低減(例えばワインのシールに鉛を使わないなど)、といったことが求められる。そういう形でリサイクルの高度化へ向けた政策見直しができるかどうかが日本の大きな問題だ。
  • もうひとつは、リデュース、リユースのほうへ、より未然防止的な上流対策をしていかなければならないことは確かだが、これはEPRではできないということはヨーロッパの動きではっきりした。では、どうやってそれを実現するか。リユースについては、メーカーに自主的な目標を決めさせるという手もあるが、もうひとつ、使い捨て容器には課税、リユース容器には補助金を出してメーカーの努力を促す、という手も考えられる。
  • リデュースについては、唯一急浮上してきたのがマイバッグの促進、つまりレジ袋の有料化による削減策だ。ただ、経済産業省は独禁法の観点から法制化は難しいと判断している。できるとすれば努力義務、訓示規定というかたちだろう。
  • もうひとつ、リデュース対策として自動販売機に関して面白い事例がある。ドイツなどの小さなオフィスでは今、自販機を利用する際にマイバッグならぬマイカップを使って飲料を購入する動きが広がっている。自分のカップを使えばその分値段が安くなる。この方法は、全国的な展開は難しいとしても、限られた地域、クローズドシステムの中では効果的であり、合理的なシステムとして一度検討する価値があると思う。

 

■ EPRの限界を克服するには

  • 以上のように、(1)リユース・リデュースの推進をどうやっていくか、(2)リサイクルの高度化をどう進めていくか、この2点が容器包装リサイクル法見直しの大きな目標であって、リデュース、リユース、リサイクルの多様化を図りながら少しずつ意味のあるシステムを検証していくというのが今後の作業だ。市民団体は業界に対して義務的な規制をしろというが、我々としては、決め手は欠けるけれども、経済的なインセンティブ、産業界の自主的な取り組みをできるだけ法律の中に入れていこうと努力している。
  • その点では、韓国が実施した、世界的にも珍しい予置金制度が参考になる。この制度は、仮にすべての容器がゴミになった場合の処理コストを試算して、その金額を予め政府、自治体が徴収する。そして、メーカーがリサイクルに努力した分だけ返還するというものだ。リサイクルコストを低くできれば少ない金額を、コストが高ければ多い金額を取られるわけで、これによってメーカーの自主的な取り組みが促されることになる。
  • 地方自治体が主張するように、「回収にこれだけ金がかかったから、その分をメーカーが負担しろ」というのは、単なる費用の付け替え、福祉政策の範疇であって資源政策ではない。資源政策として見た場合に必要なのは、補助金ではなく奨励金だ。頑張ったところに奨励金を出して経済的インセンティブを働かせることで全体のコストを下げていく。単なるEPRではなく、経済的なインセンティブの中でのEPRに変えていかないと、EPRの限界は乗り越えられない。