●動き始めた「国際的枠組み」
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昨年(2004年)は大変な猛暑で、40日間も夏日が続いたり台風が日本全国で10回以上も上陸したりと、これまでに経験したことのない天候でした。これが温暖化のせいだと断定はできませんが、「温暖化が進行すると異常気象が頻発する」ということは専門家の間でも議論になっているようで、国民も地球温暖化という問題に改めて懸念を覚えたのではないかと思います。
こうした中、温暖化防止へ向けた国際的な条約となる京都議定書が、今年2月16日に発効しました。1997年12月開催のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議=京都会議)で採択されてからほぼ8年、途中でアメリカが締約国から離脱するなどの紆余曲折はあったものの、ようやく発効までこぎつけることができたわけです。
日本としては、発効の有無に係わらず、COP3の議長国として世界に先駆けて温暖化対策を進めていくというのが従来からの方針ですから、議定書の採択以降、この方針に沿って、既に数々な努力を重ねてきました。1998年6月には、緊急に進めるべき地球温暖化対策をまとめた「地球温暖化対策推進大綱」を決定したのに続き、2002年には温暖化対策推進法の改正と議定書の批准、また、昨年は内閣の「地球温暖化対策推進本部」(本部長・小泉純一郎首相)において大綱の点検、見直しを行っています。議定書の発効により国際的な枠組みが動きはじめれば、我が国の温暖化対策推進にもさらに大きな弾みがつくものと期待しています。 |
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●「京都議定書目標達成計画」まとまる
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ご承知のとおり、京都議定書における我が国の公約は、1990年を基準として、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、代替フロン3ガス)の年間総排出量を、2008〜2012年まで基準年の6%削減するというものです。数量で言うと、90年の総排出量12億3700万tを11億6300万tまで削減することが必要となりますが、現状は2002年の排出量が13億3100万tと逆に90年比7.6%の増加となっているため、実際の削減幅は13.6%に拡大したことになります。
排出が増加している最大の要因は、我が国の温室効果ガス排出量のほぼ9割を占めるエネルギー起源二酸化炭素の量が大幅に増大した(90年比10.2%)ことで、こうしたデータから推測しても、現状のままでは6%削減の達成は非常に厳しい状況と言わなければなりません。
このため、政府の地球温暖化対策推進本部では、今回の議定書発効を受けて、約束を確実に達成するための必要措置を定めた「京都議定書目標達成計画」の最終案を3月29日にとりまとめました。同案は、パブリックコメントで国民各層から広く意見を聞いた後、4月28日に閣議決定されています。
この達成計画は、2004年に行われた地球温暖化対策推進大綱の見直し結果を踏まえて、6%削減実現のための強化策を追加したもので、ポイントは、対象となる温室効果ガスについて、削減目標値を含め対策の内容を大幅に組み替えたことです。
中でも、最大の問題であるエネルギー起源のCO2については、削減目標を90年比+0.6%の水準にまで削減するという設定になっています。今から対策を強化していっても0.6%まで持っていくというのは並大抵なことではありませんが、ともかくこのレベルなら努力次第で達成可能な数値だと思います。
代替フロンの目標値は0.1%、メタン等については▲1.2%で、いずれも大綱の見直し前の段階よりも大きく対策が進むことになります。この他、森林等の吸収源の利用が3.9%。京都メカニズム(途上国の温暖化ガス削減に協力した分を自国の排出権として削減量に組み込むことができる制度)の活用については、1.6%で済む計画となっています。
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●急増する民生部門のCO2排出量
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今回の達成計画では、部門別のエネルギー起源CO2の排出量についても、新たな削減目標を設定しています。我が国のエネルギー起源CO2の排出源を部門別に見ると、産業部門、民生部門(家庭部門と業務その他部門)、運輸部門、エネルギー転換部門の4つに区分できますが、産業部門は現状ほぼ横ばいなのに対して、民生部門からの排出は90年比で3割以上もの増加となっています。うち家庭部門は28%、業務その他の部門は37%近い伸びです。
従来、民生部門については−2%という高い目標値を設定していましたが、今現在急増している分野を削減していくというのは大変困難なことで、マイナスの目標設定をしても現実味が乏しく、大きな効果は期待できません。このため、今回民生部門に対しては、10.7%とプラスの目標値を与えることにしました。
一部マスコミの報道は「対策を緩めたのではないか」と疑義を呈していますが、これは大きな誤解です。決して手を抜いたわけではではなく、現実的にどこまで削減可能かという視点に立って、現状に即した適切な目標に変えたということです。
10.7%でも、民生部門全体で現状から22%もの削減になるわけですから、生易しい数値ではありません。ただ、我々としては、厳しいけれども、あくまで実現可能な目標として、計画を遂行していきたいと考えています。
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●樹脂サッシの断熱効果も期待
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達成計画の中には、こうした目標に沿って部門ごとに各種の具体的な対策を盛り込んでいますが、特に大幅増となっている民生部門については、3つぐらい大きな対策を提示しています。
ひとつは、家電製品、パソコンなど家庭機器類の効率アップ。これは省エネ法に基づく規制のおかげで既に成果がかなり上がってきています。ふたつ目が建物自体の省エネ性能の向上。ビル、戸建住宅を含めて建物の断熱性をいかに上げていくかは、民生部門のCO2を削減する上でたいへん重要な対策で、2550万トンという大きな省エネ効果が見込まれます。3つ目がエネルギーマネージメントの徹底普及。特に、オフィスや店舗、一般家庭における照明、空調などの運転を最適な状態に管理するエネルギー需要管理システム(BEMS=Building Energy Management SystemとHEMS=Home Energy Management System)をしっかり普及していかなければなりません。
この3つのうち、建築物の断熱性向上は塩ビ業界とも深く関わる部分です。達成計画の中では、「断熱資材の導入や太陽光発電システムの設置等を一体として行うモデル性の高い住宅の導入に係る支援等を行う」とした上で、「省エネルギー性能の高い窓ガラスやサッシの普及を図るため、製造事業者等による省エネルギー性能の品質表示制度を創設する」との対策が盛りこまれています。このサッシの中には当然塩ビ製の樹脂サッシも入ってきます。
樹脂サッシの普及はこれからの課題のひとつですが、業界としても今後の普及に向けて、その断熱性、省エネ性などの良さをもっと広く知らせるような対策が必要になってくるでしょう。また、製品のコスト削減も引き続きお願いしたいと思います。
なお、建築物の断熱性の向上策としては、2000平方メートル以上の集合住宅・施設の新築/改修について、どれだけの省エネ措置が実施されているかを届け出るよう義務付ける改正省エネ法を、今国会に提出しています。従来は業務用ビルの新築時のみの届出制だったものを、マンションなどの集合住宅、さらに改修時にまで対象を拡大したもので、今後、省エネを意識したビルやマンションの建設が一層加速してくると期待しています。(建築物の省エネ性能向上については京都議定書目標達成計画(首相官邸)のホームページ=http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/pc/050330keikaku.htmlを参照)
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●国民の総力で困難克服
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今後、地球温暖化対策推進本部では、毎年個々の対策について進捗状況を点検し、必要があれば施策を強化するなどの措置を取っていくことにしています。また、「地球温暖化対策推進大綱」のステップ・バイ・ステップ・アプローチの考え方は京都議定書目標達成計画の中にも引き継がれており、2007年には、翌年からの京都議定書の本文に向けて、再度本格的な見直しが行われる予定です。
現在の日本の状況からすると6%削減を実現することはかなり厳しい取り組みになると思いますが、今回の達成計画に示された各分野の目標設定に沿って、国、国民各層が総力をあげて努力していくことで必ず困難は乗り越えられると確信しています。 |
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■プロフィール 清水 康弘(しみず やすひろ)
1956年東京生まれ。東京大学で国際関係論を学び、1980年卒業。同年、環境庁に採用。1988年から1991年まで、外務省に出向し、在米日本国大使館で環境担当書記官。1991年に環境庁に戻り、温暖化問題の担当官として国連気候変動枠組条約の交渉に参加。1992年、リオの地球サミットに参加。その後、環境大臣秘書官、環境情報システム室長を歴任。2000年から2002年まで、通産省に出向し、東北通産局総務企画部長。2002年7月から現職の環境省地球環境局地球温暖化対策課長。 |