2004年12月 No.51
 

 開発進む、農ビリサイクルの「牛床マット」

  リサイクル業界と農ビ業界が連携。北海道における農ビリサイクルの切り札

 

    農業用ビニル(農ビ)をリサイクルした牛床マットの開発が北海道で進行中。リサイクル業界と農ビ業界のタイアップによるもので、農ビのリサイクル製品としては、既に商品化されている歩行用マットに続く第二弾の試みとなります。現在、農業試験場などに委託して性能テストも行われており、北海道における農ビリサイクルの切り札として、その完成に大きな期待が寄せられています。  

“酪農王国”ならではのリサイクル

  北海道では年間約1,500トン(平成15年度)の使用済み農ビが排出されますが、焼却や埋立処理が困難になりつつある中で、資源の有効活用を目的とした再利用の動きが加速しています。道庁も農ビのリサイクルを必須の行政課題と位置づけており、平成13年度現在23%のリサイクル率を2005年には50%まで引き上げて、最終的には完全資源循環型社会構築を目指す計画。使用済み農ビを牛床マットに再利用するという今回の取り組みは、こうした課題の実現に大きな道を開く、酪農王国・北海道ならではの試みといえます。
 開発は一昨年からスタートしており、北海道最大の農ビリサイクル会社で製造を担当する三桂?(三笠市)と販売担当のドーサンテック(株)(札幌市)、さらに農ビの業界団体である農ビリサイクル促進協会(NAC/農ビメーカー大手6社と全国農業協同組合連合会で組織)も随所で積極的な支援を行うなど、3者の緊密な連携で作業が進められてきました。
 また、農業資材のリサイクルを担当する北海道食品安全室、酪農家への指導を行う農政部普及センターなど行政の支援協力も重要な役割を果たしており、現在は、商品化に先立って、道の研究機関への委託により各種の性能評価試験が重ねられています。

 

工夫を重ねて難問をクリア

  牛床マットは、使用済み農ビと廃タイヤのチップの混合原料をウレタン系の固結剤で固めてプレス加工したもので、サイズは1枚1,200mm×1,800mm×50mm。これを必要な枚数だけつなぎ合わせた上に、ワラやオガクズなどを敷いて使用します。
 基本的には、先行開発された歩行用マット(商品名=ドーサンパネル/本誌No.46参照)の製造技術を応用した製品といえますが、乳牛用のマットに利用する場合、牛乳の脂肪分や酸、排泄物中のバクテリアなどの影響でウレタン系の固結剤が劣化してしまうといった、いくつかの難問を解決しなければならず、そのための技術的な改良が製品の大きな特徴となっています。
 例えば、ウレタンの劣化に関しては、特殊なコーティング剤で表面加工を施すことにより問題を解決しているほか、牛にストレスを与えない感触と柔軟性を確保するため、塩ビチップとタイヤの混合割合を調整、底面を山形に加工してクッション性と水抜き効果を高めるなどの工夫も加えられました。

 

 

牧草地なみのクッション性

  研究機関への委託試験では、まず道立工業試験場での8カ月におよぶ物性テストに続いて、現在は道立根釧農業試験場で実用性テストが行われており、これまでに牛床マットの有用性を実証する様々なデータが得られています。
 このうち、工業試験場で行われた耐圧テストでは、650kg〜750kgもある牛の体重がかかってもマットの破損、変形はほとんどなく、ほぼ5年相当の使用に耐えることが確認されました。これは合格ラインの2〜3年を大きくクリアする性能です。耐酸性試験でも、マットに施した表面処理が乳脂肪や酸の影響による劣化を抑えることが分かっています。
 一方、根釧農業試験場での実用性テストでは、マットの柔軟性を確かめる落下物試験のほか、実際にマットを牛舎に敷設して牛の行動・利用状況などを評価する作業が現在進行中。最終報告は来年になる予定ですが、同試験場研究部の堂腰顕研究員の話では、「牧草地とほぼ同等のクッション性があり、想像以上に柔らかいことが分かった。その点では従来のゴムチップマットより高く評価できる。改良すべき点も多少残っているが、それさえ解決されれば、酪農用資材として十分使用に耐える品質だ」とのこと。
 なお、牛床マットの実用性については民間の牧場でもモニターテストが行われており、こちらもまったく問題なく利用されています。

 

 

理想的“域内リサイクル”の完成

  牛床マットの開発は、北海道から出た使用済み農ビはすべて道内で再利用するという「域内リサイクル」の追求という点で、また、北海道の主産業である施設園芸と酪農をつなぐ「農業から農業へのリサイクル」という点でも大きな意味のあるモデルケースといえます。
 「要は、自分が使った貴重な資源の後始末を他人の手に任せていいのかということだ。ドーサンパネルの需要は公共施設などで順調に伸びているが、それだけでは1,500トンの使用済み農ビをリサイクルしきれない。このうちの約1,000トン(乳牛3万頭分)を牛床マットとして再利用するのが我々の目標で、これが実現すればようやくリサイクルの入口と出口のバランスが取れることになる。もちろん、使用済みのマットは責任を持って回収し、再び新しいマットとしてリサイクルする」(ドーサンテックの茂木弘営業部長の説明)
 牛床マットは、製品名〈農ビのびマット〉として平成17年中に発売される予定です。