2004年6月 No.49
 
 

 徳島県・大洋電工(株)の農業用ビニルリサイクル事業
   困難乗り越え20年、県内の使用済み農ビを一手にリサイクルするパイオニアの近況

 

    大洋電工(株)(柏木秀博社長/徳島県名西郡石井町高原字関1−6:TEL. 088−675−1225)は、四国地域における農業用ビニルリサイクルのパイオニア。数々の困難を克服して20年、今も「循環型社会への貢献」を目指して活躍を続ける、同社の近況をレポートします。  

 

電線被覆材などにリサイクル

 
  ミカンやナス、メロンなどの産地として知られる徳島県では、トンネル栽培やハウス施設にたくさんの農業用ビニル(以下、農ビ)が使われています。
 県内で排出される使用済み農ビの量は年間およそ2,000トン程度とみられますが、県の農業用廃プラスチック適正処理対策協議会を通じて実際に回収されているのは約600トン。それらの使用済み農ビを一手に受け入れて再生処理を行っているのが、今回ご紹介する大洋電工です。
 同社で加工された再生原料は、電線の被覆材や防水シートなどの原料として県内外のメーカーで有効利用されており、「これまで埋め立てられたり燃やされたりしてきた使用済み農ビを資源として生き返らせる取り組み」として、各方面で高く評価されています。

 

船舶関連機器製造からリサイクルに転進

 
  本来、大洋電工は船舶関係の電装・電気機械製造メーカーとして昭和25年に設立された会社ですが、昭和48年の第一次オイルショック以降の状況から“資源小国・日本”を痛感した柏木社長は、昭和53年、使用済み農ビの資源リサイクルを確立するため再生プラントの研究開発に着手。昭和56年には「農業用廃ビニール再生装置プラントTK-8602」を完成し、国内外へのプラント販売を手がける一方、昭和61年からは本社に隣接して現在の石井工場を操業させて、自ら本格的な使用済み農ビの再生処理事業に乗り出しました。
 「使用済み農ビのリサイクルに携わって20年。初めはばかなことに手を出してしまったと後悔して、何回やめようと思ったかしれない。当時は研究開発に対する公的な補助金もないし、モデルになる企業もなかった。とにかくまったくの素人だったので、化学の勉強も一からはじめて、結局再生コンパウンドの配合割合も自分で考えた。回収の面でも県の協議会のような組織がまだなかったので、モノが集まらず、自分で県内の農協を回って協力をお願いしなければならなかった。何度も失敗を重ねながら、執念でやってきたようなものだ」(柏木社長)
 同社は平成5年、回収量の減少、バージン製品との価格競合などが原因で一時的に工場閉鎖に追い込まれたことがあります。しかし、平成8年に県とJA徳島、農業関連業者らが農業用廃プラスチック適正処理対策協議会を設立して組織的な回収事業がスタートすると、「適正処理の徹底には大洋電工の再開が不可欠」との声が上がり、協議会の要請を受ける形で営業を再開。平成9年、協議会との間で徳島県内の使用済み農ビを一括して収集再生処理する契約を結んでいます。
 この間、同社は農ビ再生技術の開発により、?クリーン・ジャパン・センター会長表彰、?日本産業機械工業会会長賞を受賞(いずれも昭和63年)したほか、柏木社長自身も科学技術庁長官賞功績賞(平成2年)や勲5等雙光旭日章の受勲(平成5年)など、数々の栄誉に輝いています。

世界初の水流式超音波洗浄機

 
  大洋電工の再生処理プラントで技術的なポイントとなっているのは、同社が開発した世界初の「水流式超音波洗浄機」です。
 船舶の測深器や魚群探知機に使われる超音波の技術を洗浄に応用したこの装置は、船舶電装で培った同社の技術力の成果であり、水流の中で超音波洗浄を行う技術は現在でも世界で唯一のもの。既に日本国内だけでなく、アメリカや韓国でも特許を取得しています。この装置の開発により、破砕から再生加工までの一連の工程を連続的に処理することが可能になったと言えます。
 以下、主な工程に沿って再生処理の流れを見てみます。

(1)前処理破砕工程
 まず金属探知器で使用済み農ビから異物をていねいに取り除き、1m程度の大きさにカットします。

(2)粗洗浄粉砕工程
 勢いよく回転する水の中でドロ落としのための一次洗浄を行った後、破砕機で3〜5?の大きさに破砕します(フラフ)。破砕機には常に水が供給されていますが、これは水の中で破砕することで機械の摩耗を防ぐためです。

(3)超音波洗浄工程
 水切供給機で濁り水と分離されたフラフは、超音波洗浄機に送られ、バージン原料と比べても遜色ないまでに完全に汚れを洗い落とします(2次洗浄)。
 農ビに限らず、マテリアルリサイクルでは「きれいにすること」が基本ですが、超音波洗浄機では「タワシでこすっても取れない汚れまで完全に落とす」ことができるため、再生品では難しいとされるアイボリーなど、どんな色にでも加工することができます。

(4)脱水・乾燥工程
 洗浄したフラフを脱水装置で0.5%程度まで脱水した後、回転気流式の乾燥機に投入します。水分を完全に取り除くことも大切なポイントです。

(5)粉砕選別回収工程
 乾燥したフラフは、異物分離装置で再度金属などを除去した後、高速攪拌機により粉状化され、グラッシュとよばれる再生品に生まれ変わります。

(6)ペレット製造工程
 最後に、グラッシュに薬品や顔料を加えたコンパウンドでペレットを作ります。溶融押し出し機から細長いひも状になって出てくる原料は、冷却され、直径数mmの粒状に加工されます。

   

塩ビこそ持続型社会に最適

 
  現在、大洋電工で処理される使用済み農ビはほぼ全量がペレット出荷となっていますが、品質に対するユーザーの信頼は高く、「多少値段が高くても大洋電工のペレットがほしい」というメーカーも多いということです。
 「当社では、まず農家から回収する段階で選別を厳しくしている。予め農家にできるだけドロを落としてもらうなど協力をお願いして品質のいいものを回収するようにしているため、回収量の80%はリサイクルできる状態のものだ。すべての農家とはいえないが、協議会や県の指導もあって、農家の協力意識は以前とは大きく変わってきている」(柏木社長)。
 前述したとおり、大洋電工の再生原料は電線被覆材としても利用されていますが、最近では大洋電工と電線業界、塩ビ業界との連携の動きも進んでいます。
 平成14年には、(社)電線総合技術センター(JECTEC)、農ビリサイクル促進協会(NAC/農ビメーカー6社と全国農業協同組合連合会とで設立)、塩化ビニル環境対策協議会が取り組んでいた「使用済み農ビ再資源化のための電線被覆資材への適用調査事業」に参加、4者共同の研究が行われました。翌年には研究評価結果のとりまとめも終了しており、大洋電工の使用済み農ビリサイクル事業はさらなる展開を見せようとしています。
 「現在世界が直面している地球環境の危機を克服するには、資源循環型の持続的社会を確立することが避けられない。農ビも含めて塩ビ製品は他の樹脂よりもリサイクルしやすく、その点で塩ビほど持続型社会にふさわしい素材はない」という柏木社長の言葉からは、使用済み農ビのリサイクル一筋20年の経験と自信が感じられます。