2004年6月 No.49
 

 JFEスチール(株)、塩ビ高炉原料化リサイクル技術を事業化

  塩ビ業界との共同研究を終了。世界初の塩ビ高炉原料化プラント稼働

    JFEスチール(株)(本社=東京都千代田区)と(社)プラスチック処理促進協会、塩化ビニル環境対策協議会および塩ビ工業・環境協会(VEC)が共同で開発に取り組んできた「塩ビ高炉原料化リサイクル技術」が、実証試験段階を終了してこの5月から本格的な事業化を開始。循環型社会の実現に大きなインパクトを与える世界初のリサイクルプラントが、およそ7年の歳月をかけて、いよいよ本領発揮へ―。  

 

炭化物と塩化水素をリサイクル

  プラスチック廃棄物の高炉原料化については、近年内外で取り組み事例が見られるものの、技術的、設備的な問題からいずれも塩ビを除外したシステムとなっています。JFEスチールの塩ビ高炉原料化リサイクル技術は、塩ビ100%までの高濃度塩ビ廃棄物を処理対象にするという点で世界にも類のない試みと言えます。
 具体的には、使用済み塩ビをロータリーキルンで熱分解して炭化物と塩化水素ガスに分離、炭化物はコークスに替わる鉄鉱石の還元剤として製鉄工程でリサイクルするほか、塩化水素ガスも塩酸として回収し製鉄や化学工業などに100%再利用するというもので、マテリアルリサイクルが難しい他素材との複合製品や、劣化の激しい塩ビ製品の有効利用を飛躍的に高めるばかりでなく、鉄鋼製造時における二酸化炭素の排出抑制にも大きな効果が期待できます。
 技術開発に向けての共同研究は、JFEスチールの前身であるNKKを中心に平成9年8月からスタートし、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて、まず試験設備での基礎的なチェックを終了した後、平成12年2月には、実証プラントを川崎市の旧NKK京浜製鉄所(現JFEスチール東日本製鉄所京浜地区)内に設置して、(1)高濃度塩ビからの脱塩素技術、高炉原料化技術の確立、(2)高純度塩酸の回収・利用実用化技術の確立、(3)一貫設備による連続操業技術の確立、などのテーマに沿って、実用化に向けての検討が進められてきました。

 

環境・安全面でも万全の備え

  事業化への最終段階となった2003年度の実証試験では、塩ビ壁紙、農業用ビニル(農ビ)、塩ビ管、電線被覆材など、市中から集められた産廃系の使用済み塩ビ製品約1,500トンを処理して最終的な課題の検討が行われました。この結果、炭化物の高炉原料化、塩酸の回収ともに全く問題なく処理できることが確認されています。
 1,500トンの処理で回収された炭化物は600トン、塩酸は35%の濃度で660トン製造され、いずれも東日本製鉄所京浜地区などで全量消費されました。
 また、JFEスチールでは事業化に向けて新たに脱硝設備を設置するなど、プロセスの改善も実施しています。これは、本プラントが焼却施設に区分されることもあり、NOXなどの排出低減に十分対応したもの。このほか、塩酸の貯蔵用のタンクも1基増設されました(別掲処理プロセス参照)。さらに、回収塩酸の取り扱いにおいて、毒物劇物製造業の登録も行い、環境や安全面では万全の備えがなされています。
 一方、課題として浮き彫りになったのは、分別面での異物混入の問題です。
 「特に使用済みの壁紙に混入したカッターの刃が破砕機出口の搬送用ベルトコンベアに突き刺さったりしてトラブルの原因になった。これは現場の施工業者が切れなくなった刃を壁紙に包んで捨てるためと推察されるが、試験当初に塩ビ業界から提供してもらった試料(未使用の工場排出品など)と、排出事業者から集めた実際の使用済み製品との品質のギャップは予想以上に大きかった」(JFEスチール総合リサイクル事業センターの家本勅課長)。
 この問題については、排出事業者や中間処理業者に直接協力依頼を行ったり、JFEスチール総合リサイクル事業センターの営業窓口から関係各社に情報を流すなどの対応により分別レベルの向上を図っていますが、将来的には、排出者に過度の負担とならないレベルでの受け入れ基準の設定も検討テーマとなってきそうです。

 

 

初年度3,000トンの処理計画

  JFEスチールでは事業化初年度の目標として、農ビを中心に塩ビ管、壁紙などを合わせて、年間3,000トンの処理を行う計画ですが、農ビの場合、季節によって排出量に差があるため、集荷品目や処理量などを適宜調整しながら、年間の安定操業を目指したいとしています。
 また、先に述べた排出事業者への分別要請や分別基準の設定の問題などにも取り組んで、より分別精度の高いものを増やしていく計画で、今後の事業展開が大いに期待されるところ。塩ビ工業・環境協会も、関係業界に対する種々の情報の提供などにより、塩ビのリサイクル促進に向けて引き続きJFEスチールとの協力関係を積極的に進めていくことにしています。

 

●5大樹脂すべてをリサイクル
(JFEスチール(株)総合リサイクル事業センター 資源リサイクル部東日本リサイクル室・石坂祥室長の話)
 塩ビ高炉原料化リサイクル技術は、プラスチック処理促進協会と塩ビ工業・環境協会の全面的な協力により研究開発が行われてきたものだが、実証試験の終了によりこの5月から正式に当社の事業としてスタートすることとなった。
 2003年度の実証試験では、異物混入の問題など初期の試験研究段階では分からなかった現実的な問題が明らかになったが、こうした操業上の問題点が洗い出されたことで改善のためのノウハウが蓄積されたことは、今後の事業に向けて非常に意義のある成果だったと言える。
 当社ではこれまで、塩ビ以外のプラスチックを対象に高炉利用を進めてきたが、今回の事業化により塩ビを含む5大樹脂はすべてリサイクルできる方向が確立されたことになる。将来は産廃系だけでなく、幅広い対象物の処理も検討されることになると思うが、こうした取り組みにより塩ビのケミカルリサイクルの確立へ、積極的に参加していきたいと考えている。

 

【この件に関する相談窓口】

▲JFEスチール(株)総合リサイクル事業センター
 TEL. 044−322−1674/FAX. 044−322−1523

▲塩ビ工業・環境協会(VEC)
 TEL. 03−3297−5601/FAX. 03−3297−5783