2003年12月 No.47
 

 特集/屋上緑化と塩ビ壁紙のリサイクル

 1. 塩ビ壁紙リサイクルブロックの物性試験結果

  ヒートアイランド対策に塩ビがひと役。物性試験でも緑化資材としての適合性を確認

    ヒートアイランド対策として期待が高まる屋上緑化の分野で、塩ビ壁紙のリサイクルブロックの普及が進んでいます。塩ビ業界と工学院大学・阿部道彦教授らによって行われた共同研究でも、軽くて丈夫な特性が科学的に裏付けられ、屋上緑化部材としての高い適合性が改めて確認された格好。都市の環境問題に貢献する塩ビ壁紙リサイクルの今を特集しました。  

 

塩ビ壁紙リサイクルの新たな選択肢

  デザインしやすく、現場での施工性や耐久性、難燃性にも優れる塩ビ壁紙は、住宅分野を中心とした内装仕上材として欠くことのできない建設資材です。その生産量は平成14年度で6億平方メートル強、壁紙総出荷量のおよそ90%を占めます。
 一方、住宅、ビルディング等の解体やリフォームの増加に伴って、塩ビ壁紙の廃棄量も今後徐々に増えてくるものと予測されることから、塩ビ業界によるリサイクル技術開発の取り組みも本格化してきています。平成15年度からは資源有効利用促進法に基づく「指定表示品目」として「∞PVCマーク」の表示がスタートしたほか、壁紙メーカーの団体である日本壁装協会を中心に、使用済み壁紙を回収して製鉄原料製造の熱源などに有効利用するリサイクル実験が進められていることは、前号(平成15年 9月号/No.46)でご紹介したとおりです。
 こうした中、塩ビ壁紙リサイクルの新たな選択肢として登場したのが、日本ビニル工業会のビニル建装部会と塩ビ壁紙メーカーのトキワ工業(株)(大阪市住之江区)が共同開発した塩ビ壁紙リサイクルブロック(商品名はパイン・ブロック)。使用済みの塩ビ壁紙とセメントを混ぜ合わせて固めたもので、花壇の縁材などに使われるれんが型と、コンクリートのインターロッキングブロックのように敷石など使われる板型の2つのタイプがあり、平成13年以降、軽量で施工が簡単といった特性から、屋上緑化用部材として利用されるケースが広がっています。
 去る9月に名古屋市で開かれた日本建築学会では、塩ビ工業・環境協会(VEC)とビニル建装部会、トキワ工業が工学院大学建築都市デザイン学科の阿部道彦教授の協力で実施した物性テストなどの共同研究結果が報告され(日本建築学会大会学術講演梗概集〈東海〉、講演番号151)、関係者の注目を集めました。

 

多くの自治体が採用の動き

  回屋上緑化は、都市のヒートアイランド対策として近年急速に期待が高まっている最新の環境対策です。省エネルギー、建築物の保護などでも大きな効果が望まれることから、取り組みを強化する自治体も多く、その施工事例は、首都圏の公共施設やビル・マンションなどを中心に、福岡、仙台、長野、沖縄などの地方都市まで全国的な広がりを見せています。
 特に、平成27年までに1,200haの緑化計画を条例化している東京都では、23区だけで見ても、渋谷区、大田区、墨田区、千代田区、豊島区、台東区など計22の自治体が区役所の屋上に展示スペースを設けたり助成制度を実施したりして屋上緑化の推進に力を入れており、その多くのケースで塩ビ壁紙のリサイクルブロックが採用されています(トップニュース(3)のレポート参照)。

 

 

抜群の軽さ、強度は普通れんがに匹敵

  屋上緑化用の資材は、その用途の特性から何よりも軽量であることが必須条件となりますが、リサイクルブロックは、塩ビ壁紙が複合されているため比重1.2という軽量化を実現しているのが大きな特徴で、今回の共同研究では、JIS(日本工業規格)およびJASS(日本建築学会建築工事標準仕様書)等に基づく試験方法により、普通れんが(赤れんが)、植生用インターロッキングとの物性を比較評価した結果、
  1. 普通れんがとの比較で、リサイクルブロックは平均吸水率で普通れんが4種の規格を、また圧縮強さで普通れんが3種の規格をクリア
  2. インターロッキングとの比較では、曲げ強度で透水性インターロッキングを上回り、圧縮強度はやや弱いものの、軽歩行には対応可能
  3. 凍結と融解を繰り返して、屋外使用時の寒暖温度差にどの程度耐えるかを確認する凍結融解試験では、300サイクルに合格
  4. 接着剤による乾式施工が可能で、湿式施工と比較し工期が大きく短縮され、労務費は湿式の5分の1以下
  5. 無機物、有機物の混合原料であるため、無機系顔料による着色が可能で、屋外曝露も約2.5年経過した結果で褪色劣化がない

 など、屋上緑化部材としての高い適合性が確認されました。
 リサイクルブロックの販売を担当するトキワT.E.C(株)(東京都大田区)の石坂昌之社長は、「現在の屋上緑化は自治体主導による啓蒙期だが、いずれ一般家庭にまで拡大していくことは間違いない。その流れの中で塩ビ壁紙のリサイクルブロックも大切なポジションを占めていくことになる」と、今後の動きを予測しています。

 

工学院大学・阿部道彦教授のコメント

 塩ビ壁紙リサイクルの技術開発として、屋上緑化部材に特化して研究を行った。この市場は住宅を含めた既設建物をも視野に入れると特殊な条件にかなった材料であることが必要となるが、塩ビ業界が開発した壁紙のリサイクルブロックは、れんがやインターロッキングブロックと比較した結果、軽量化、施工性、着色性、耐久性などの点で屋上緑化に適した材料と評価できる。今後は経年での耐久性や雨水の影響等の確認が必要となろう。
 循環型社会への適用条件としてリサイクルは重要な課題だが、塩ビ壁紙は商品寿命が5年~20年という耐久製品であることから、できるだけ長期間使用される材料への再生がふさわしい。今回のリサイクルブロックはその点でも課題に対応した用途と言える。
 安全性、耐久性が高い屋上緑化用の基盤材として、低コストでの供給が可能になれば、市民のニーズが高いマンションのベランダなどの屋上菜園用としての普及も期待できると思う