2003年9月 No.46
 

 動き出した、塩ビ壁紙のリサイクルシステムづくり

  日本壁装協会を中心にリサイクル実験中。使用済み品をセメント原料や熱源として有効利用

    塩ビ壁紙のリサイクルシステムづくりの動きが本格化しています。4月からは関係業界の共同体である日本壁装協会を中心にリサイクル実験もスタート、新築やリフォーム現場などから出る使用済み製品を回収してセメント原料や熱源などに利用する取り組みが、順調に進められています。  

 

塩ビ壁紙リサイクルを促す要因

 日本に塩ビ壁紙が登場して30余年。現在、その生産量は年間7億平方メートル弱、重量にしておよそ20万トンに達します。耐久性や施工性に優れ、燃えにくくデザインもしやすいなど、数多くの長所を備える塩ビ壁紙は、快適な住まいづくりに欠くことのできない建設資材として、現代の生活の中にすっかり定着したと言えます。
 一方、10年以上もの長期使用に耐える塩ビ壁紙は、まだ使用済み製品の排出量も少ないため、これまでリサイクルはほとんど行われてきませんでした。
 しかし、今後は、築数十年を経た住宅、ビルディング等のリフォームや解体工事の増加に伴って、塩ビ壁紙の廃棄量も徐々に増えてくるものと予測されており、平成11年のリサイクル法(再生資源の利用の促進に関する法律)改正でも、塩ビ管や床材などと共に壁紙も「指定表示品目」として「∞PVC」マークの表示が義務づけられるなど(実施は今年の4月1日製造分から)、壁紙リサイクルに対する社会的要請にどう対応するかが、業界にとって数年来の大きなテーマとなっています。

 

関係3業界共同でリサイクル実験

 今回のリサイクル実験は、こうした状況を受けて、壁紙の関係業界が共同して使用済み製品の有効利用に道を開こうとするものです。
 実験は既に4月からスタートしており、メーカー・問屋・施工の壁紙関連3業界で構成する「日本壁装協会」を中心に、塩ビ工業・環境協会(VEC)の支援なども含めて、リサイクルシステムの構築へ向けたモデル事業が積極的に進められています。
 リサイクル実験の概要を以下に整理しました。
・実験テーマ
 回収〜リサイクルまでの処理原価の把握、コスト低減・合理化のための各種データ収集
・実験期間
 指定表示がスタートした4月から9月までの6カ月間
・対   象
 東京23区内の新築、改修、解体工事現場から出る使用済み塩ビ壁紙および問屋系・工場系の端材など
・回 収 量
 計1,000トン(月平均170トン程度)
・窓   口(作業全体の統括)
 日本壁装協会リサイクル推進室
 (東京都新宿区大久保/電話03−3208−5018)
 

 

中間処理ではRPFの検討も

 具体的な作業の流れは別掲図(実験の枠組み)に示したとおり。施工業者によって分別された使用済み塩ビ壁紙(写真1)は、集積ヤードに一時保管された後、中間処理(破砕〜圧縮減容)を経て、福岡県北九州市にある光和精鉱(株)の戸畑製造所に輸送され、後に説明するとおり、産業廃棄物処理の熱源やセメント原料としてリサイクルされます。

 このうち、保管については、埼玉県東松山市の丸功興運(株)の集積ヤードにストックされて、一定量に達するごとにまとめて中間処理施設に搬出される仕組みになっていますが、公団住宅から解体された分については、公団住宅の維持管理などを行う日本総合住生活(株)の協力により、同社の建設廃棄物保管施設が利用されています(写真2)。
 また、中間処理については、建設廃棄物専門の処理業者・新和土木(株)の行徳リサイクルセンター(写真3)や、埼玉県川本町にあるクリーンサービス(株)の川本工場が拠点となっていますが、将来大量に使用済み塩ビ壁紙が発生した場合に備えて、固形燃料化(RPF)の採用も検討テーマに入っており、丸功興運(株)埼玉事業所でその作業が行われています。
 中間処理を経て、1個500kg前後に梱包された塩ビ壁紙は(写真4)、20トントレーラーで東京・有明埠頭のフェリーターミナルまで運ばれ、福岡県の新門司港に向けて出荷されます。このトレーラーと海上輸送を繋いだ物流システムは、他の交通機関と比較した結果、現段階で最も低コストの運搬方法として採用されたものです。

 

光和精鉱「塩化揮発法」の可能性

 今回の実験で、リサイクル処理を担当する光和精鉱(株)(本社=東京都中央区八丁堀)は、製鉄原料の製造、非鉄金属の精錬、産業廃棄物処理などをメインとする新日鐵の関連会社で、特に製鉄集塵ダストの中から塩素を使って鉄、鉛、亜鉛、銅などの有価金属を回収する塩化揮発法(金属を塩化鉄、塩化亜鉛などの塩化物として回収する方法)は、全く独自の塩素利用技術として全国的に知られています。
 戸畑製造所(写真5)に搬入された塩ビ壁紙は、他の廃プラスチックなどとともに産業廃棄物処理の熱源やセメント原料として利用されますが、同時に、このときに発生する塩素も塩化揮発法の中で有価金属の回収に有効活用されることとなります。
 このように、脱塩素装置などの技術やコストをかけずに熱源として塩ビを積極的に利用できるのは、現在のところ光和精鉱が日本唯一のプラントであり、同社との共同作業は今後の塩ビリサイクル全体にとっても大きな意味を持つ試みといえます。
 なお、使用済み塩ビ壁紙の再生用途としては、加熱成形してリサイクルボードやブロック材などに加工する技術も既に民間のリサイクル会社によって開発されており、今回の実験でも、一部はこうしたマテリアルリサイクルの原料としても活用されることになっています。
 日本壁装協会では、実験が終了した段階で処理コストなどの詳細なデータ分析を行うことにしていますが、一方で、近い将来、塩ビ壁紙が建設リサイクル法の対象となる可能性なども視野に入れながら、より効率的なリサイクルシステムの完成に実験結果を役立てていく計画です。

 

 

関係者からのコメント

 
日本壁装協会リサイクル推進室
 石渡将之室長
日本壁装協会顧問
 近藤亮介氏(環境経営コンサルタント)
 
 塩ビ壁紙のリサイクルは、もともと日本ビニル工業会のビニル建装部会(壁紙メーカーの組織)が検討に着手したもので、
3年以上にわたってマテリアルリサイクルの研究などが進められてきた。しかし、リサイクルシステムづくりという点では、メーカーだけの取り組みではどうしても限界があるということから、エンドユーザーとの接点を持つ問屋、施工業界の入った日本壁装協会に受け継がれることになった。移管後、ほぼ10カ月で今回の実験を立ち上げられたのは、狙いどおり、関係業界が連携した結果だと思う。実験は、経済産業省からもいろいろアドバイスを受けながら進めているが、協会の姿勢や取り組みの内容には行政からも非常に高い評価をいただいている。
 塩ビはリサイクルシステムさえ完成していれば、非常に有用で高性能な製品であり、塩ビ壁紙もきちんとリサイクルできるという状況を協会が責任を持って作り上げていけば、施主の方々に安心感を持って使ってもらえることになる。そういう点で今回の実験は非常に大きな意味を持つものだ。
 また、将来的には、リサイクルの受け皿としてNPO法人等を設立して、事業そのものを移していくといった展開も検討されるべきだと思う。特に、分別が困難な解体系の建材などは、各工業会が会費を納めてNPOにリサイクルを委託するという形で一本化できれば、みんなで使いやすいシステムになると思う。