2003年6月 No.45
 
実用化間近、塩ビを含む廃プラの「小型脱ハロゲン油化プロセス」

リサイクルの選択肢を広げるコンパクトな地域分散型。岡山大などが共同研究

 塩ビを含む廃プラスチックを熱分解した後、塩素・臭素などのハロゲン物質を取り除いて分解油を回収する小型油化プロセスの研究が、地域分散型のリサイクル技術として注目を集めています。分解油は既設の石油精製プラントを利用して、石油ナフサや石油系燃料に変換することも可能。実用化を間近に控えた研究開発の現状を、研究チームの総括研究代表を務めた岡山大学工学部・阪田祐作教授の案内で取材しました。

 

●産官学10者が連携

 
 この研究(廃プラスチック分解油の深度脱塩素・脱臭素精製触媒および油化プロセスの実用化研究)は、平成12年度〜14年度までの3年間、経済産業省の「地域コンソーシアム研究開発事業」の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成のもとに進められてきたもの。
 研究には、岡山大学、広島大学、倉敷芸術科学大学の3校をはじめ、公設の研究機関として岡山県工業技術センター、独立行政法人・産業技術総合研究所中国センター(呉市)、企業からは日陽エンジニアリング(株)、戸田工業(株)、川鉄マシナリー(株)などの5企業が参加、産官学10者の連携による文字どおりのコンソーシアム(共同研究)事業として取り組みが続けられてきました。
 既に今年の3月末で研究期間は終了しており、現在は、事業化に向け装置のコスト低減など最終的な課題の検討が行われています。
 

●地域に適したリサイクル技術

 
 この技術の特長は、脱ハロゲンプロセスを組み込んで塩素や臭素系難燃剤などのハロゲン物質を含む廃プラスチックの油化処理に対応していること、また、回分式(バッチ式)のためコンパクトで操作も簡単な小型の装置となっていること、の2点。札幌市や新潟市など大都市圏で先行している大型の連続式油化プロセスとは異なり、特に中小都市を中心とした地域分散型の油化装置として有望視されており、地域に適したリサイクル技術として新たな選択肢となる大きな可能性を秘めています。
 「リサイクルを進める上で地域性の問題は重要だ。ある地域では有効な廃プラスチックの高炉原料化技術が別の地域にも適合するとは言い切れない。近隣に高炉原料化の設備があるところはそれを使えばいいが、60万人以上の都市が広島、岡山、倉敷の3市だけで、人口密度差の大きい中国地方などは収集、運搬、再利用のコストのかからない小型の装置が不可欠だ。それぞれの地域の事情に応じて社会コストミニマムを念頭に置いた最適技術を選択できることが大切だと思う」(阪田教授)。
 得られた分解油(A重油相当)は、装置自体の燃料やボイラー、ディーゼルエンジン用などに利用できるほか、後述するように、さらに精製して石油ナフサなどの工業品原料として利用することも可能です。

 

●特殊な触媒でハロゲン物質を分解

 
 実験に使われた装置を例に、処理プロセスの概要を見てみます。装置の処理能力は1バッチで250?。まず、原料の廃プラスチックを圧縮減容して分解槽に入れ、約350℃で熱分解すると、ハロゲン化水素ガスと生成油が発生します。このうち、ハロゲン化水素ガスは水酸化カルシウムに接触させて中和します。一方、生成油中の有機系ハロゲン物質は脱ハロゲン槽において特殊な精製剤の働きにより分解、無機化され、JIS規格の前段階であるTR(テクニカルレポート)原案の規制値「全塩素分100ppm(1ppmは百万分の1)以下」をクリアするレベルまで取り除かれます。
 精製剤には、酸化鉄と多孔質炭素の複合触媒(有機塩素化合物分解触媒)のほか、主に無機塩素を取るための収着剤(カルシウム系化合物と多孔質炭素の複合剤)の2種があり、この精製剤の開発も今回の研究のポイントのひとつです。
 また、加熱温度は最終的に550℃程度に達するため、処理残渣は通常の油化プロセスと異なってほぼ乾燥した状態で排出されます。このため、金属、アルミ箔などは残渣から直接回収でき、異物除去の手間を省くことで操作の簡便性を高めています。排ガスは、現在は800℃以上で完全燃焼されています。
 以上の工程を経て、一般都市ごみ系の廃プラスチックであれば原料の55%、原料が均質化している産廃系廃プラの場合はさらに90%程度まで分解油として回収することができます。
 実験を担当した川鉄マシナリー(株)(倉敷市水島)によると、「最初の年は塩ビを含まない工場端材などの産廃系廃プラスチック、2年目は塩ビを含む産廃系廃プラスチック、3年目は容器包装リサイクル法で集められた一般都市ごみ系廃プラスチックで実験を行ったが、油の質はほとんど変わらない」とのことです。
 

●石油精製の中間処理装置としても可能性

 
 今回の小型油化装置は、市町村など自治体の一般廃プラスチック処理を基本的な目的に開発されたものですが、同時に、原料が均質化している産廃系の廃プラスチック処理でも大きな効果が期待されており、阪田教授は「初めは建材、食品関連など産業廃棄物の分野からこの装置をアピールしていくほうが現実的」としています。企業のほうからも、「脱ハロゲンにまで対応した初めての小型装置」ということから、高い関心が寄せられているといいます。
 また、技術の展開という点では、脱ハロゲン装置だけを他の油化プラントに設置する利用法も考えられますが、装置の位置づけを「廃プラスチックをざっくり熱分解して100ppm以下までハロゲンを落としておく減容技術」と捉えれば、既設の石油精製プラントを利用して、分解油をさらにナフサや石油系燃料に変換するための地域分散型中間処理装置としても新たな可能性が広がることになります(別項「阪田教授のコメント」参照)。
 

●日陽エンジが実用システムの受注開始

 
 研究チームでは、今後、平成15年度中に各研究班の事業化計画を作成し、16年度から本格的な事業展開を開始する予定で、油化プロセス改善のための基礎試験事業化支援研究の継続、精製剤の寿命延命と再使用などコスト低減の検討、など各班ごとに課題を設定して研究が進められることになっています。
 一方、これに先んじて、研究チームの一員で、ジャパンエナジー関連会社の環境装置メーカー・日陽エンジニアリング(埼玉県戸田市)は、今回の研究成果をもとに処理能力1日1トンの実用システムを開発し、既に企業を中心に受注活動を開始しています。
 同社では、産廃系の廃プラスチックを中心に、自治体の廃プラ再資源化需要も掘り起こして、2008年度までに年間20億円規模の事業に育てる計画で、
 「再生用途の面で大きな問題を抱えているマテリアルリサイクルに対して、分解油を燃料や電気として使えるケミカルリサイクルは、用途の心配がなく、下流が保証されている。今回の小型油化装置は、塩素などのハロゲン物質が混入した場合の問題を解消したという点で大きな意味を持つ。また、ダイオキシン問題を背景に小型焼却炉への規制が強化されたため、廃プラスチックの処理に困っている企業や中小の自治体も多い。こうした状況を考えると、小型油化装置への需要は数年先に一廃系を狙うが、当面産廃系だけでも相当数のオーダーが見込まれる」(日陽エンジニアリング・鈴木要常務)
 と今後の事業展開に強い意欲を示しています。
 
【阪田教授のコメント】

 これまで、塩ビなどが混入した廃プラの油化は、大型装置では実用化例があるものの、小型装置を使った例は見られなかった。今回我々が開発した地域分散型の小型油化装置は、塩素などのハロゲンが混ざっていても十分対応できるもので、塩ビ処理を真正面から受け止めた技術と言える。
 また、この装置は、各地域の廃プラスチックを減容化するのための中間処理技術としても位置づけられる。第一段階で粗分解レベルに処理し、ある程度ハロゲンを抜いた後、次の段階で石油精製工程に持っていって完全にハロゲンを落とし、原油やナフサに戻す。
 つまり、粗分解油として効率よい輸送コストで既設の石油精製プラントへ集荷し、分留など細かいことは既存のリファイナリー設備を使ってやってもらうというのが、小型装置としての利点を生かす上でも、また、石油資源の有効利用の観点からも最も望ましい形だと考える。
 そういう意味では、今回の我々の研究は、プラスチックのリサイクルというより、石油資源の大循環システムの要求技術であると理解してもらいたい。