2003年3月 No.44
 
 レポート/《world vinyl forum 2》の講演から

  5年に一度の情報交流。18ヵ国の参加者が塩ビの最新動向に注目

 

 世界の塩ビ最新動向を報告する《world vinyl forum 2》が、昨年の10月30日、11月1日の2日間、ワシントン郊外のウエストフィールズで開催されました(主催=米国塩ビ協会〈VI〉)。会議には世界18ヵ国から、塩ビ関連産業や塩ビユーザー産業を中心に約200名が参加(日本からは塩ビ工業・環境協会〈VEC〉の佐々木専務理事、木下広報部会長、堀海外部会長の3人)、「Innovation」をキーワードに、塩ビの用途・技術開発の現状や、各国の需要・行政動向などについて活発な報告が行われました。

 

● 世界の塩ビ市場は堅調

 《world vinyl forum》は、「塩ビの最新動向について情報を発信し、関連産業界などに塩ビに関する理解を深めてもらうこと」などを目的に5年ごとに開かれるもので、1997年、「Vinyl 2020」を発表した米国VIの提案により、オハイオ州のアクロン(Akron)で第1回目のフォーラムが開催されています。
 「Vinyl 2020」は、2020年までの世界の塩ビ産業の行方を、市場の動向から産業界としての対応策までを含め様々な角度から展望したものですが、発表後5年間の環境変化に対応して内容の見直しが進められており、米VIでは現在、その改訂版となる「Vinyl 2020 ?」のとりまとめ作業に着手しています。
 今回の報告によりますと、97年時点との大きな違いとして、テロや金融などを含む経済環境の変化、可塑剤などに対する新たな規制動向、炭素税論議や「予防原則」の適用などをめぐる新たな政策動向などが挙げられる中、塩ビ市場は北米、アジア、欧州それぞれで堅調な伸びを維持しており、特にパイプなど建材の分野で優位に立っています。
 このため、世界の塩ビ製造能力は2001年の3,170万トンから、2010年には約4,000万トンに達するとの推定が報告され、欧米では生産性を高めるためのプラント統合が進むものの、全体にきわめて前向きな見通しが示されています。
 なお、予防原則の適用については、「定義が不明確」であることを理由に米国は基本的に反対の立場を取っており、感情論でなくリスクアセスメントなど科学的知見に立脚した議論を行うべきだとの認識を示しています。


 

●  欧州塩ビ協「自主行動計画」の影響

 VECの佐々木専務理事ら米欧亜の代表4人によるパネルディスカッション「5年間の発展、挑戦、展望」では、97年に欧州委員会から出されたHorizontal Initiative(塩ビに関する多面的評価)への対応をめぐって議論が交わされました。
 欧州ではHorizontal Initiative以降、ユーザーの非塩ビ宣言が続いたものの、近年はほぼ沈静化した状態となっています。しかし、ECVM(欧州塩ビ製造者協会)では、こうした行政の動きに対処するため、2010年を最終年度とするVoluntary Commitment(自主行動計画)を策定し、今年から「パイプ、窓枠等のリサイクルシステム構築」「製品のLCAについての報告」「中間及び最終目標の明確化」などの活動を開始する予定で、この取り組みにより「塩ビの利用に関するすべての制約の排除」「塩ビの生き残りに対する事実上の認定」などを目指す計画です。
 これに関してパネリストからは、欧州のVoluntary Commitmentが「排出物低減」や「リサイクル」などの面で各国の塩ビ業界に大きな影響を与えるであろうことが指摘されたほか(既にカナダ塩ビ協も独自のVoluntary Commitmentを策定)、リサイクルについては算定基準のあいまいなリサイクル率ではなく「リサイクルすべき量」を示すべきではないかとの提言も出されました。
 討論ではこのほか、今後5年間の塩ビ市場を展望するとコストパフォーマンスで勝負できる市場は伸びが期待できること、特に自動車部品材としての塩ビがアメリカなどで復権基調にあること、なども話し合われています。


 

● 塩ビ建材普及など、各国で様々な活動

 以下に、各国の報告の中から主な注目情報を拾ってみました。

  • まず、塩ビ建材をめぐる情報としては、カナダのRoyal Plastics社が、すべての部材に塩ビを使用した「塩ビハウス」の試作などを通じて塩ビ建材のプロモーションに取り組んでいることを報告。自動車洗車場の水周り用品など、塩ビ建材の新たな用途の可能性も紹介しています。また、同社は塩ビ建材普及のため、3,000人以上の建築家、1,000人以上のデザイナーと面談するなど、塩ビ建材のデザイン性について積極的な普及活動を展開しています。
  • 広報活動では、メディア、産業界に対する塩ビの有用性啓蒙を目的に、「PVC+(プラス)」というキャンペーンを展開しているAgPU(ドイツ塩ビ環境協会)の事例や、インテリア、日用雑貨品のデザインに新進デザイナーを起用して塩ビ製品への注目度、好感度向上に取り組むECVMの活動(製品が昨年欧州にてデザイン賞受賞)などがあります。
  • 塩ビ樹脂の改良・改質の研究では、安定剤の動向についていくつか報告があり、世界的に鉛安定剤が代替の方向にあることをうかがわせました。ヨーロッパではドイツ、ノルウェー、オランダ、オーストリアなどで有機カルシウム系安定剤への代替が進みつつあるとのことです。
  • 新規用途開発では、革新的なアイデアに対する報奨制度を設けて、幅広く塩ビおよび塩ビ産業の発展に寄与するアイデアを募集しているイタリアSolvin社の取り組みのほか、日本からもVECの木下広報部会長が、日本の住環境の変遷から塩ビ窓枠普及の可能性について紹介し、好評を博しました。

【堀海外部会長談】
 各国の報告から、塩ビの有用性に対する理解は世界的に向上していることをあらためて実感した。ダイオキシンや環境ホルモン問題を直接的に塩ビ忌避に結びつけるような動きは既に沈静化している。塩ビは、感情的な議論を排除して「使うべきところに使う」というのが世界の評価であり、今後も建材分野を中心に着実に伸びていくことを確信した。