昭和電工(株)の廃プラスチックケミカルリサイクル事業
塩ビの分別も不要。廃プラのガス化処理により化学原料として完全再利用
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昭和電工(株)(本社=東京都港区)は、塩ビを含む使用済みプラスチックをガス化してアンモニアなどの化学品原料に再利用するケミカルリサイクル事業に参入します。廃プラスチック類から塩ビを分別せずにそのまま処理するのが最大のポイントで、操業開始は今年4月からの予定。事業の拠点となる同社の川崎事業所(神奈川県川崎市川崎区扇町5−1/TEL. 044−322−6810)に、今後の事業計画などを取材しました。 |
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■狙いは、アンモニアの原料対策
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昭和電工が着手するケミカルリサイクル事業は、日量195トン(年間約64,000トン)の使用済みプラスチックをガス化処理して、同175トン(年産約58,000トン)の液化アンモニアをはじめとする化学品を製造するもの。
年間約120,000トンのアンモニアを生産する業界の外販量トップ企業が新たに廃プラスチックのケミカルリサイクルに取り組む理由について、ガス・化成品事業部プラスチックケミカルリサイクルプロジェクトマネージャーの金井久男参事は、「廃棄物処理業への参入というよりも、プラスチックを処理したガスをアンモニアという基礎化学品の原料として安価かつ安定的に入手したいというのが真の狙いだ」と説明しています。
「現在アンモニアはナフサや石油精製系のオフガスなどで製造しているが、何度かのオイルショックのたびに、安価、安定的な原料入手が年々難しくなっており、国際競争力も低下している。こうした状況に直面する中で、当社では数年前から脱ナフサに取り組み次の原料を模索してきたが、一方で容器包装リサイクル法の制定によりプラスチックを燃やさずにリサイクルすることへの社会的な要請も強まってきた。こうした社内外の要因から、環境負荷の低減に貢献しつつ国際競争力を高める決め手として、プラスチックのリサイクルとアンモニアの原料対策を組み合わせた新しい事業が構想された」
昭和電工では、今回のケミカルリサイクルにより、アンモニア原料の約半分を廃プラで賄えるほか、原料コストもナフサなどの化石燃料に比べて相当圧縮することができるとしています。 |
■ 国内最大級のケミカルリサイクルシステム
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今回の事業は、川崎市が全国に先駆けて推進する「川崎エコタウン構想」に参加する形で進められるもので、処理対象としては容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系のプラスチックを主体に、一部産廃系の廃プラスチックも含まれる予定。
一般系廃プラスチックには平均5〜6%の塩ビが混入していると見られますが、同社では試験段階で「塩ビも基本的に問題なくリサイクルできる」ことを確認しており、「将来は設備の安定を確認しつつ農業用ビニルや自動車内装材などの産廃系塩ビも利用していきたい」としています。
一方、処理設備に採用されたのは、荏原製作所と宇部興産が共同開発し、共同出資会杜である株式会社イーユーピーで実証済みの加圧二段ガス化方式「EUPシステム」。このシステムは、廃プラスチックを破砕した後直径30〜40ミリ、長さ100ミリ程度のRPF成型品に加工する前処理設備と、RPFをガス化して水素や一酸化炭素などを生産するガス化設備の2工程からなるもので、特に、600〜800℃の流動床式低温炉と1,300〜1,400℃の高温炉の二段処理により高純度のアンモニア合成ガスを安定的に精製できるガス化設備がシステムの大きな特徴となっています。既にイーユーピー社自身がこのシステムで生成したガスをアンモニア原料として利用する実績(日量65トン)を持っていますが、日量97.5トンの炉2系列を備えた昭和電工の設備は、プラスチックのケミカルリサイクル施設としては国内最大の規模となります。 |
■ 塩素もリサイクル、多彩な事業展開
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以下に、事業の主なポイントをまとめてみました。
- 塩ビを分別することなく合成ガスが精製できる
- ガス中の塩素はアルカリ中和により工業塩として回収し、ソーダ電解原料としてリサイクルする
- ガス中に微量に含まれる硫化水素を硫黄として回収し重亜硫酸ソーダ原料にリサイクルする
- 不燃灰分は水砕スラグ化して路盤材やセメント原料に利用するほか、除去された金属類は有価物として販売する
こうした多彩な事業展開は、ソーダ製造設備とアンモニア製造設備を隣接して運転している川崎事業所ならではと言えるものですが、同社では「自らプラスチックの製造も行っている当社が自分の製品をリサイクルすることは化学メーカーとして当然の使命。我々は相当な緊張感と責任感を持ってこの事業を立ち上げるつもりだ」(金井参事)として、操業への強い意気込みを示しています。
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