2002年9月 No.42
 
(株) 神戸製鋼所が塩ビリサイクル事業に本格参入

ソルベイ社の「ビニループ・プロセス」を導入、日本初のマテリアルリサイクル

 

 (株)神戸製鋼所(本社=東京都品川区)は、ベルギーの大手化学メーカー、ソルベイ社(本社=ブリュッセル)との独占契約により、日本国内の使用済み塩ビのリサイクル事業に本格参入します。「ビニループ(Vinyloopd)プロセス」を用いて塩ビ混合廃棄物から塩ビだけを溶解・分離・回収する、我が国初のマテリアルリサイクルを行うもので、塩ビの有効利用に大きなインパクトを与えることになりそうです。

 

■ 東西各2万トン規模のプラント建設

 
 ビニループ・プロセスは、特殊な溶剤を用いて、塩ビ混合廃棄物(塩ビ電線被覆や塩ビ床材、塩ビ壁紙など)から塩ビ分のみを溶解・分離する技術で、物性的にバージン材と遜色のない高品質・高純度の塩ビを低コストで回収することができ、再生前の製品と同じ用途に使用できるという大きな特徴を備えています(次ページの囲み記事参照)。
 欧米では、塩ビ複合製品のマテリアルリサイクルを進める有力な技術として、既に関係業界の高い関心を集めており、今年2月には、イタリアのフェラーラ市でビニループ・プロセスを用いて使用済み電線被覆材のリサイクルを行うソルベイ社の商業第1号機(年間処理量1万トン)が操業を開始しているほか、現在フランス、ドイツ、スペイン、ベルギー、イギリスなどの欧州地域やカナダなどで10数件に上るプラントの建設計画が進行しています。
 神戸製鋼所の今回の取り組みは、ビニループ・プロセスによる日本国内初の塩ビリサイクル事業となるもので、来年度中に首都圏と阪神地区の東西2地域で各2万トン規模のプラントとそれを運営する合弁会社を設立した上で、当面、塩ビ電線被覆や塩ビ管、農ビ等のリサイクルを中心に、プラントの販売も含め、初年度30〜40億の売上を目指す計画です。
 

■ 「電線から電線」へのリサイクル

 
 神戸製鋼所は、一般都市ごみ焼却施設の分野では約30年の実績を有するトップ企業ですが、数年まえからは産廃処理の分野でもサーマルリサイクルを中心に事業を強化しており、昨年6月には、社内に環境ソリューション部を設立し、土壌・下水汚染浄化ビジネスや生ごみのバイオマス、廃プラスチック・使用済み家電・使用済み自動車などのリサイクル事業を展開しています。
 ビニループ・プロセスを用いた今回の塩ビリサイクルの取り組みは廃プラスチックリサイクル事業の柱に位置付けられるもので、電線被覆のリサイクルから着手するのは、各地のナゲット業者(銅線のリサイクル業者)を中心に回収システムが確立されているためです。電線の中でも直径1.6ミリ以下の細いナゲット電線がリサイクルの対象となります。
 塩ビ電線被覆のリサイクル率は全国平均で40%を超えていますが、年間12万トン程度が排出されているナゲット電線は、口径の大きいケーブル電線と異なって、銅線やポリエチレン被覆材との分離がしにくく、多くが埋め立て処分されているのが現状。比重分別などさまざまな技術が試みられているものの、品質基準の厳しい電線被覆に再利用するには品質面で限界が指摘されています。
 高品質の塩ビを高純度で回収できるビニループ・プロセスの利用は、「電線被覆から電線被覆へのリサイクル」を促進する決め手となる可能性を秘めており、廃棄量12万トンのうち4万トンのリサイクルが実現されれば、塩ビ電線被覆の有効利用に極めて大きなインパクトをもたらすこととなります。
 塩ビ工業・環境協会(VEC)や電線総合技術センター(JECTEC)の協力で実施した塩ビ系廃材(ナゲット電線、農ビ、自動車内装材など)のサンプルテストでは、再生された塩ビの物性について良好との感触を得ていますが、同社では今年度内にJECTECとの共同で試験的に再生電線を製造して、生産性、加工後の強度などで問題のないことを確認した上で、正式に事業をスタートさせる予定です。
 

■ 電線被覆以外の塩ビ製品も視野に

 
 環境ソリューション部の岡本圭祐統括部長は、今後の計画について、「プラントの建設は東西いずれの地域が先行するか未定だが、まず来年度中に1ヵ所立ち上げて、電線被覆材の他に一部農ビなども回収して電線被覆材向けにリサイクルしていく予定だ。合弁会社については、塩ビに関連する業界各社の参加も募りたい」としていますが、6月の新聞発表以降、各方面からの反響が大きく、「最近では、電線被覆以外の塩ビ製品も視野に入れている。一方、廃電線市場が銅の価格低迷をうけ、ナゲット業界にここ数年変化が見られ、もう一度扱う品目と施設のキャパシティの整理をする必要が出てきた」といいます。
 「塩ビ系廃棄物は年間100万トンと推計され、30万トンがリサイクルされている。塩ビはプラスチックの中では比較的リサイクルが進んでいる分野と言われているが、まだまだ余地は残されている。各方面からの問い合わせを受けた感触でも、電線以外で潜在的なリサイクルニーズが相当あることが確認できており、具体的には農ビ、塩ビ管、壁紙、床材、ターポリン(帆布)、自動車のワイヤーハーネスなどが有望になっている。第一段階では電線、塩ビ管、農ビ、ターポリンを主対象として事業を立ち上げるが、第二段階では壁紙、床材、自動車内装材や建設廃材、さらには、自動車シュレッダーダスト、家電シュレッダーダストに拡げていきたい。最終的には国内で4〜5ヶ所のプラントを建設して事業を進めていくことになるだろうが、関東、関西以外の地域については今後の検討テーマだ」。
 同社ではさらに、中国などアジア市場へも積極的に取組んでいく計画。また、塩ビを分離した後の塩ビ以外のプラスチックの有効利用についても、サーマルリサイクルのための研究を行っています。
 「電線被覆から電線被覆、塩ビ管から塩ビ管を実現するビニループ・プロセスは、静脈産業と動脈産業をつなぐことができる画期的な技術。マテリアルリサイクルではあるが、これまでとはまったく異なった新しいリサイクルであり、廃棄物処理ではなく、原料再生プロセスという認識で事業を進めていく」と、岡本部長は今後の事業展開に強い意欲を示しています。
 

■ビニループ・プロセスの処理フローと特徴

 ビニループ・プロセスは「ビニールがクローズド状態の円環(LOOP)の中でリジェネレイト(全く新しいコンパウンドとして再生)される」ことから名づけられたもの。処理フローは大きく、(1)溶解工程、(2)分離工程、(3)沈殿・回収工程の3つから成っています。
 まず、粉砕した塩ビ混合製品を有機溶剤で塩ビのみ溶解させた後、溶解しない他の素材をフィルターで取り除きます。次に、塩ビ溶液からスチームで溶剤を蒸発させ、塩ビを粒状に固化沈殿させて、300〜500ミクロン程度の均質な粒子として回収します。蒸発させた溶剤は冷却凝集し、99.9%以上が回収され溶解工程に循環再利用されます。また、可塑剤や添加剤も塩ビとともに回収するため、再利用する時に可塑剤、添加剤を加える必要がないという点もメリットになっています。