2002年9月 No.42
 

 ソルベイ社のNEUTRECプロセス

    高性能、低コストの乾式排ガス処理技術。塩化水素もソーダ灰原料として再利用

 焼却炉から出る排ガスに重炭酸ソーダ(重曹)を主とした微粒子の薬剤を吹き込んで有害な化学物質を除去するとともに、塩化水素もソーダ灰原料としてリサイクル…。ベルギーの大手化学メーカー、ソルベイ社(本社=ブリュッセル)が開発したNEUTREC(ニュートレック)プロセスの秘密に迫ります。

 

 

● 重曹を主とした特殊な反応剤

 焼却炉の排ガス処理法には、大きく分けて湿式(排ガスと反応剤の水溶液を接触させる方法)と乾式(粉末の反応剤を吹き込む方法)の二つがあります。乾式排ガス処理の場合、反応剤として消石灰を直接排ガスに吹き込む手法が一般に用いられていますが、この方法は湿式に比べて反応効率が悪く、1回の処理に大量の消石灰が必要になるという難点を持っています。逆に、湿式処理の場合には、反応に苛性ソーダを使うために廃水処理の問題が出てきます。
 ソルベイ社のニュートレック・プロセスは、消石灰に代えて重曹を主とした特殊な反応剤を使うことによりこれらの問題を解決したもので、少ない量で湿式に匹敵する性能を発揮する上、乾式処理ですので排水で水質や土壌を汚染する心配もありません。また、塩ビ業界から見ると、塩化水素のリサイクルという点でも見逃せない新技術と言えます。
 ソルベイ社では、環境負荷の低減とランニングコストの削減に有効なシステムとして、去年から日本での本格的なマーケティングを開始しています。

 

●  反応性を高める「多孔質」の秘密

 焼却炉の排ガス中には、通常、塩化水素、窒素酸化物、二酸化硫黄などの化学物質と飛灰、重金属などが含まれています。ニュートレック・プロセスでは、まず電気集塵機に通してこの排ガスから飛灰を取り除いた後、グラインダーで細かくひいた反応剤と、ダイオキシンを吸着するための活性炭を投入します。
 排ガスに吹き込まれた反応剤は140℃で活性化し、速やかに多孔質の特殊な表面を持った炭酸ソーダ(ソーダ灰)に変化しますが、この多孔質の表面が薬剤の吸着性、反応性を高める最大のポイント。また、300℃までの高温でも高い除去率を維持するという反応域の広さも特長の一つです。
 ガス中の化学物質は反応剤と接触して塩化ナトリウムや硫化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのナトリウム化合物(残渣ナトリウム化学品と呼ばれる)になり、これを飛灰の一部、活性炭、重金属などとともにバグフィルターで除去して、クリーンなガスだけが大気中に排出されます。

● 食品にも使える高純度の塩水

 一方、バグフィルターで除去された残渣ナトリウム化学品などはそれに添加物を加えて溶解し、フィルターで濾過して重金属や活性炭、飛灰などの不溶性物質を分離すると、処理前の塩水と濾過残渣が得られます。
 さらに活性炭層で塩水から有機成分を除去した後、イオン交換塔を通過させて最後まで残っていた微量の重金属を除去して、完全に精製された塩水を回収します。この塩水は理論的には食品にも使える高純度のもので、ソルベイ社のソーダ灰製造プロセスに戻されて再利用されます。
 最終的な残渣は埋め立て処分されますが、その量は都市ごみ1トン当たりわずか2〜4kgと、最終処分場への廃棄量が大幅に低減できる点も、ニュートレック・プロセスの大きな魅力となっています。

●  循環型社会の完成にまた一歩

 ニュートレック・プロセスは、現在ソルベイ社の子会社、SOLVAL社(イタリア・ロシニャーノ)によって商業的に運営されており、塩化水素のリサイクルも行われています。
 また、日本では反応剤の販売について、焼却炉メーカーの(株)タクマがソルベイ社と独占契約を結び、「ビカール(BICAR)」の商品名で同子会社のタクマ汎用機械(株)が販売を行っており、既に産廃処理の分野などで使用されるケースも出てきています。塩化水素のリサイクルは日本ではまだ実施されていませんが、この技術が日本に導入されれば循環型社会の完成にまた一歩近づくこととなります。