2002年6月 No.41
 
 

 日立電線(株)の電線リサイクル事業
   独自のネットワークで塩ビ被覆材も再資源化。他社システムとの協調にも意欲

 

   全国の建築現場などから排出される使用済み電線を独自のルートを使って回収、再資源化する日立電線(株)(本社=東京都千代田区大手町1−6−1大手町ビル)のリサイクルネットワークが一昨年6月に完成、産廃系電線リサイクルのモデル事例として関係者の注目を集めています。同社電線事業本部の榎並俊一事業企画部長(兼テクノセンター長)に事業の現状を取材しました。  

1年半で約500トンを回収

 
 我が国における電線リサイクルの先駆的存在としても知られる日立電線。その取り組みは工場廃材のリサイクルを中心に、既に30年以上も前からスタートしています。
 「当社では、自社工場の製造工程で発生する電線くずや、NTT、JRなど大口需要家から持ち込まれる廃電線・ケーブル線について従来から積極的にリサイクルを進めており、銅・アルミはほぼ100%、被覆材についても塩ビ、ポリエチレンを含め95%以上のリサイクル率を達成している。その量は1ヶ月当たり400〜500トン。うち50%を占める被覆材については、品質上どうしてもリサイクル不可能で埋め立て処分に回す分を除き、ほとんどを電線被覆材として再利用している」(榎並部長)。
 一方、建設リサイクル法の制定など建築資材の有効利用に対する社会的要請の高まりを受けて、建設系を中心とした一般産業分野の使用済み電線についても早くから注目。業界他社に先駆けてリサイクルの仕組みづくりに着手し、平成12年6月に現在の全国リサイクルネットワークを立ち上げています(実稼動は同年10月から)。
 既に、「この一年半で全国の建設工事や解体工事の現場から件数にして約150件、約500トンの使用済み電線を回収、リサイクルしている」とのことで、こうした同社の取り組みに対して、今、国土交通省を始め、各地の自治体、ゼネコン業界などから高い評価が寄せられています。

 

■ 被覆材のリサイクル率は90%以上

 
 日立電線のリサイクルネットワークは、同社を中心にグループ会社の日立電線メクテック(株)(茨城県日立市)と協力会社の國長金属(株)(東京都江東区)の3社によって構築されています。
 全国6カ所の受け入れ拠点に各地の建設現場などから集められた使用済み電線は、いったん日立電線によって回収された後、國長金属と日立電線メクテック社によって比重分離(湿式、乾式)にかけられ、銅、アルミなどの金属分と塩ビ、ポリエチレンなどの樹脂が高精度で分別されます。このうち、銅、アルミは國長金属でリサイクルされる一方、被覆材は樹脂別に精製、ペレット化して再生原料として日立電線に戻されるというのが全体のシステム。回収品のリサイクル率は銅・アルミで100%、被覆材についても90%以上に達しています。
 リサイクルの用途としては、電線やケーブル線の被覆材への再利用のほか、杭、床材、シート(自動車内装材)、路盤材、マンホールの蓋の緩衝材などの製品が開発されていますが、マテリアルリサイクルが困難なものについては、木屑や紙屑などとともにRDF(固形燃料)化して、発電やセメントキルンなどの燃料としてサーマルリサイクルされます。このため、日立電線では豊浦工場に自前のRDFリサイクルプラントも設置しています。

■ 建設リサイクル法の動向にも注目

 
 榎並部長に今後の課題と事業の見通しなどを伺いました。
 「月100トンという当初の予想に比べて、量的にまだ思ったほど伸びていない。その理由としては、地理的な問題やリサイクルに対する地域の考え方の違いなどから西日本の回収が進んでいないことがひとつ。また、昔から有価物として取引されている廃電線は市場が出来上がっており、長い間廃電線の再利用に携わってきた各地のナゲット業者(銅線のリサイクル業者)を押しのけてまで集めるわけにはいかないという事情もある」
 但し、ナゲット業者の多くは被覆材の殆どを産廃として埋め立て処分しているのが現状で、「この分が我々電線メーカーに戻ってくるシステムづくり」が課題のひとつにあげられます。
 「これについては、建設リサイクル法の動向が最大のポイントになると思う。電線は今のところ特定建設資材に入っていないが、将来指定されれば電線メーカーに法的なリサイクル責任が課されることになる。それと、安定型から管理型への移行が進むと考えられる埋め立て処分のコスト問題などとの関係で、今後の動きが決まってくると思う」

   

■ 塩ビ被覆材リサイクル促進の決め手は?

 
 また、塩ビ被覆材のリサイクルについて榎並部長は、
 「塩ビ被覆はメーカーによって原料(難燃剤や可塑剤など)の配合割合が異なるため、これをそのまま混合して被覆材に戻すことは現状では非常に難しい。特に、電線の命であり高度な品質が求められる絶縁部分への使用は不可能で、現在は、電線の特性にあまり関係のない、600ボルト以下の低電圧電線のシース(外皮)などへのリサイクルが中心になっている。シースは外傷保護が主な役割で電気的な特性は求められないが、絶縁部分の被覆材はJISによって非常に高い特性が要求されているので、それを100%満足できる製品でないと使えない。塩ビがリサイクルしやすい素材であることは確かだが、電線ケーブルの被覆材としてリサイクルするという点では、相当に高度な特性が要求されるという点を考えてもらいたい」
 と指摘した上で、「シートや床材に再利用するというだけであれば現状でも十分だが、被覆材としての利用を広げていくためには、リサイクル品でも高い電気特性が得られるような分別・精製技術の開発、それもできるだけ低コストの技術開発が決め手になると思う」と述べています。
 「将来はメーカーの枠を超えた業界全体のリサイクルシステムの確立や事業化にも挑戦していきたい。当社のほかに独自にシステム構築を進めているメーカーもあり、こうした動きとどう協調していくかが今後の課題だ」
 意欲的な言葉からは、「電線リサイクル分野の先駆者」としての強い自信がうかがわれます。