2001年12月 No.39
 
世界初の本格的エコセメント製造工場・市原エコセメント(株)

焼却灰などの廃棄物をセメント原料にリサイクル。省資源、CO2削減にも貢献

 

 世界初の本格的エコセメント製造工場が今年の4月から千葉県で営業運転を開始しました。完全資源循環システムとゼロエミッションの確立をめざして太平洋セメント(株)が設立した市原エコセメント(株)(千葉県市原市八幡海岸通1―8/TEL.0436―42―8881)に注目。

 

■ 全く新しいタイプのセメント

 

  エコセメントとは、石灰石や粘土、珪石、鉄原料などの一般的な天然原料の代わりに、清掃工場から出る焼却灰や飛灰、汚泥などの廃棄物をリサイクルして作る全く新しいタイプのセメントで、これまで埋立処分されるしかなかった廃棄物を建設資材として蘇らせると同時に、天然資源の節約や二酸化炭素の削減にも役立つというエコロジカルな特性が製品名の由来となっています。
 太平洋セメントでは、廃タイヤをセメント原料に有効利用するといった経験から、平成3年にエコセメントの研究開発に着手。平成5年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、クリーンジャパンセンター(CJC)、荏原製作所、麻生セメントと5年間の実証試験を行った後、千葉県エコタウンプランの中核施設として国、県の補助を受けながら市原エコセメントの建設を進めてきました。
 千葉県では、県内の80市町村から1年間に排出される218万トンのごみの85%(185万トン)が焼却され、24万トンの焼却灰が埋立処分されていますが、最終処分場の不足でそのうちの約6万トンは県外処分となっています(平成10年度実績)。
 市原エコセメントでは今後、県内各地の清掃工場から都市ごみの焼却灰を年間6万2,000トン、産廃系の焼却灰や汚泥などを2万8,000トン受け入れ、これを原料に11万トンのエコセメントを製造する予定で、千葉県さらには国の廃棄物行政に大きく貢献することが期待されています。

 

■ 普通型と速硬型の2種類

 

  エコセメントには、普通セメントとほぼ同様の品質を持つ普通型と、早く固まって強度の発現が極めて迅速な速硬型の2種類があり、普通型エコセメントは生コンクリート(骨材をセメントと水で練ったもの。セメント需要の大半を占める)として鉄筋コンクリート建築をはじめ、地盤改良材や土木用、コンクリート製品など普通セメントと同様の用途に使われます。
 速硬型エコセメントは主に無筋系の分野に使用されるもので、代表的な用途として、歩道などに敷かれるインターロッキングブロックや消波ブロック、建築外壁材などがあります。
 こうした両者の特性の違いは、主に原料に含まれる塩素分の違いから生まれます。
 一般に都市ごみ焼却灰の中には、食塩や塩ビなどに由来する塩素が4〜5%含まれますが、鉄筋の腐食の原因となることを防ぐため、普通型では0.1%以下(0.04%程度)に調整されます。
 これに対して速硬型は、原料の中に塩素分も取り込んで有効利用するという狙いから開発されたもので、塩素が灰中の酸化アルミニウムと合成してできるカルシウムクロロアルミネートの固まりやすい性質を利用するため、塩素分は1%程度に調整されています。
 なお、余分な塩素分は、灰の中に含まれる鉛や銅、亜鉛などの重金属と一緒に塩化物の形で回収されるほか、塩化物にならない分は炭酸ソーダなどを加えてNaClとして排出されます。

 

■ 製造工程―排ガス対策にも細心の注意

 

  エコセメントの製造工程は次のとおり。

  1. 前処理工程で、原料に混ざっている金属類を選別した後(金属類は別途リサイクル)、石灰石などの天然原料と原料ミルの中で粉砕し混ぜ合わせる。
  2. セメント原料として一定の化学成分になるよう、均質化タンクでさらに混合・調合する。
  3. 原料をロータリーキルンに送り、1,350℃以上の高温で焼成してクリンカと呼ばれる中間製品を作る。塩素分の調整もこの段階で行われる。また、ダイオキシン類もキルンの中で分解・無害化される
  4. クリンカに石膏を加え、製品ミルの中で粉砕し混ぜ合わせる→エコセメントの誕生

 一方、冷却塔によるダイオキシン類の再合成防止(200℃以下に急冷)、バグフィルターによる窒素酸化物や重金属類の回収・無害化など、排ガス対策にも細心の注意が払われており、回収された銅、鉛、亜鉛などの重金属類は、精錬工場に出荷され、精錬原料として再利用されます。

 

■ 将来は塩ビ・廃プラの利用も

 
  市原エコセメントの安齋達男社長に事業の現状と今後の展望について話を伺いました。
 「都市ごみについては、今年中に清掃組合20団体と契約できる(現在18団体)予定でほぼ順調に進んでいる。産廃関係については6月に産廃処理業の許可を取ったばかりなのでこれからだが、臨海工業地帯の工場などから煤塵処理の要望が多く、現在、煤塵処理の許可を追加申請中だ」
 「製品の需要については、県内の灰で作ったセメントは県内で使うという千葉県の基本方針もあって十分確保できると自信を持っている。太平洋セメントは県内のセメント需要(年間250万トン)のうち110万トン程度を供給しており、その中で1割程度のエコセメントを消化する計画だ。ともかく、できるだけ早くフル操業に入って循環型社会構築へ向けて十分な役割を果たしたい」
 また、市原エコセメントでは、代替燃料としての廃プラ利用にも積極的な姿勢を見せています。
 「今すぐではないが、いずれは都市ごみや産廃系の廃プラスチックも処理したい。廃プラの利用でロータリーキルンに使うA重油の30%程度は代替できると思う。この場合、塩ビが混ざっていても製品の品質には問題にならないことは実証プラントでも既に確認済みだ」
 現在、東京都の三多摩地区でもエコセメント化計画が進められている(平成17年度稼働予定)ほか、来年にはJIS規格化も見込まれるエコセメント。グリーン購入法における調達品目の追加指定も申請中となっているなど、同社の登場を機にその急速な普及拡大が予想されます。