2001年12月 No.39
 

 塩ビ被覆電線のリサイクルで新たな試み

  銅線、ポリエチレンが残っても床材に再生可能。VECと大阪ヒューズが共同研究

    銅線と被覆部分の分離に手間と、コストがかかる塩ビ被覆電線のリサイクルで、新しい試みがスタート。大阪ヒューズ(株)(大阪市中央区本町3―2―6。TEL.06―6241―1908)が販売する「ハイキレスシート」の技術を利用して、塩ビ被覆材をリサイクルする共同研究が、塩ビ工業・環境協会(VEC)との間で進められています。  

複合塩ビ製品の再利用に道

  ハイキレスシートは、大阪ヒューズがリサイクル協力会社のタカオ商会(大阪府八尾市)の技術を導入して開発した「地球環境に優しい21世紀のフロアシート」。
 ポリエステル、ナイロン、レーヨンをはじめ、麻、綿、スフ、ガラス繊維、紙などの様々な素材と混ざり合った複合塩ビ製品(壁紙や床材など)を、分別せずに、そのままリサイクルできるのが最大の特徴で、種々の材料が組み合わされた複合塩ビ製品の再利用に新たな道を開いた技術と言えます。
 ハイキレスシートの厚さは1.5ミリ〜5ミリまで(最高で0.5ミリまで可能)。古くなった製品を引き取って、二度、三度と繰り返しリサイクルできる点も特徴のひとつです。
 ハイキレスシートは既に自動車工場の製造ラインの床用シートなどに利用され、弾力性や歩行感、耐水性や耐薬品性などの点でも、ほとんどバージン製品と変わらない物性が証明されていますが、ほかにも、展示場や通路の歩行シート、屋上緑化用など様々な用途での利用が考えられています。

 

リサイクルコストの低減にも効果大

  この技術を塩ビ電線被覆材のリサイクルに応用しようというのが、現在進められているVECとの共同研究の目的です。
 研究では自動車のワイヤーハーネスのリサイクルもテーマのひとつになっていますが、最大のテーマはいちばん難しい電線被覆材のリサイクルが可能かどうかという点にかかっています。
 塩ビ電線被覆材のリサイクル率は全国平均で40%を超えていますが、口径の細い電線は銅線やポリエチレン被覆との分離がしにくく、いろいろな技術が試みられているものの、現在以上に分離精度を高めるのは困難な状況です。商品価値が高く徹底した分離が行われている銅線も、回収率98%が限界で、2%程度は異物として被覆材に混入することが避けられません。
 このため、残留銅分やポリエチレンが残ったままペレット化して床材にリサイクルする今回の試みが成功すれば、塩ビ被覆電線の更なるリサイクルの推進とコスト低減に大きな可能性が開けることとなります。
 現時点では、千葉県の電線リサイクル会社・ウスイ金属(株)(本誌第37号参照)の協力を得て、同社で粉砕湿式分離した使用済み電線被覆材(塩ビ含有率98%、ポリエチレン1.5%、残留銅分0.5%)を用いてテストが行われており、期待どおりの成果が確認されています。最終的には湿式分離前の塩ビ60〜65%のものをダイレクトにペレット化してバージンと同等程度の再生品を製造することが目標で、間もなくその実験が開始される予定です。

 

 

行政機関や民間企業でモニター中

  大阪ヒューズがハイキレスシートの販売を開始したのは今から2年前。同社はもともと電力会社にヒューズを納入するヒューズメーカーですが、同社の栂崎昭産業営業部長によれば、「当社では、以前から環境を時代のキーワードと捉えて積極的な事業展開を行っており、その過程でタカオ商会と出会ったことが、塩ビのリサイクルに乗り出すきっかけになった」と言います。
 一方、製造元であるタカオ商会の西原隆男社長は、塩ビ被覆電線のリサイクルに強い自信を見せています。
 「ハイキレスシートの基礎技術は21年前に開発していたが、その技術情報を社会に伝えることが難しく、大阪ヒューズの販売ルートを利用してようやく市場に出すことができた。この技術を使えば塩ビの電線被覆材も有効にリサイクルできる。塩ビを廃棄物などではなく、財産として扱うというのが私の基本的な考えで、そのためになら、できるだけのことは協力したい」
 現在、塩ビ電線被覆材をリサイクルしたハイキレスシートは、(株)フジクラ、三菱電線工業(株)、電線総合技術センター(JECTEC)などの電線業界、弘前市役所などの行政機関のほか、建設会社、ゴルフ場などの民間企業に敷設してモニターが行われています(下記掲載記事参照)。
 近い将来、電線が建材リサイクル法の対象になることも予想される中、そうした動きに備えてリサイクル技術を確立しておくことは塩ビ業界にとって極めて重要な仕事と言えます。

 

日高カントリー倶楽部がモニターに協力

塩ビ電線被覆材をリサイクルしたハイキレスシートのモニターが行われている日高カントリー倶楽部(埼玉県日高市)を訪ね、高橋功理事にこれまでの感触を伺いました。
 高橋理事から「キャディー室の外階段、約20平方メートルに敷設しているが、掃除しやすく使いやすい点は評価できる。雨の日や冬場の凍結時に滑りやすくなる点が心配されるが、戸外で使用するなら表面加工を改良して、透水性あるいは防滑性を高めれば用途が広がるだろう」とアドバイスをいただきました。