2001年6月 No.37
 

 ソルベイ社(ベルギー)の「ビニループ・プロセス」

  廃棄物中の塩ビを溶解し、新品並みのコンパウンドを再生する注目の新技術

ベルギーに本拠を置くヨーロッパの大手化学メーカー・SOLVAYが開発した塩ビの再生技術「ビニループ(VINYLOOP)・プロセス」が話題です。先頃来日した同社のビニループ・プロジェクトリーダー、パトリック・クルーシフィックス氏を日本ソルベイ(東京都北区田端/TEL.03―5814―0851)に訪ね、システムの概要と事業の展望などをうかがいました。

 

 

● 複合製品の処理に威力

  「この技術はいわゆるリサイクルとは完全に異なる。あくまで塩ビをリジェネレイト(全く新しいコンパウンドとして再生)する技術であると理解してほしい」と、クルーシフィックス氏はビニループの新しさを強調します。
 ビニループは、特殊な有機溶剤を使って廃棄物中の塩ビだけを溶解し、他の素材と分離、再生する技術です。このため、どのような形状の塩ビでも処理可能で、特に、他の素材と強力に接着していて機械的に分離できないような複合製品、例えば壁紙や床材、サッシ、電線、塩ビコーティングした紙製品や繊維などのリサイクルに大きな威力を発揮します。
 また、そのネーミングのとおり、ビニールがクローズド状態の円環(LOOP)の中でリジェネレイトされるため、物性的には新品とほとんど変わらない品質の塩ビコンパウンドが得られ、再生前の製品と同じ用途に使用できることも大きな特徴です。「熱安定性や絶縁性、伸長度などは既に実証済み。ビニループで再生された塩ビコンパウンドはどのような用途にも使えるが、特にニッチな用途に向いている。例えば、ヨーロッパの自動車業界は、ビニループで完全にリサイクルできるということで、ダッシュボード用に塩ビの使用を増やす動きを見せている」(クルーシフィックス氏)。


 

●  随所にオリジナルな技術が

  ビニループの処理工程は次のとおり大きく3段階に分かれます(図参照)。

    前処理(粉砕)〜原料投入→(1)最初に廃棄物の中の塩ビを溶解する→(2)次に塩ビ以外の素材(異物)を分離する→(3)最後に溶剤の中に溶解している塩ビを沈殿、回収する

 このうち、溶解工程では、溶解層に有機溶剤を添加し、原料の状態に合わせて100〜140℃の温度、10〜15分というごく短い時間で溶解します。一方、溶解しない他の素材はフィルターで取り除かれます。
 ソルベイ社が「ビニループの中で最も重要でオリジナルな部分」と自信を示すのが、沈殿の工程です。ここでは、溶剤を蒸発させるために沈殿槽に直接スチームが吹き込まれます。溶剤が蒸発していくにつれて、最初に1ミクロン程度の微小な塩ビの粒子が現れますが、さらに適度の撹拌条件下で溶剤の蒸発が進むと、やがてそれらは300〜500ミクロン程度の均質な粒子に凝集します。また、この段階で必要に応じ添加剤を加えることができるのも特徴のひとつです(添加剤の内容は、再生塩ビの用途によって異なる)。
 以上の工程を経て再生された塩ビコンパウンドは、最後に乾燥工程を経て回収されることになりますが、溶剤も99.9%以上が回収され再利用されます。
 なお、前処理では汚れのひどい原料の洗浄、溶解速度を速めるための破砕、混合処理などが行われるほか、塩ビの濃度の調整が行われます。これは、「原料中の塩ビ濃度を85%まで高めた状態で処理するのが最も経済的なポイント」となっているためです。

● 技術の特徴と今後の課題

  ビニループ・プロセスの特徴をまとめてみると次のとおり。

  1. 廃棄物の組成を問わず処理できる
  2. 再生塩ビの粒子のサイズと組成が均一化されている
  3. 新品と同等の塩ビコンパウンドが得られる
  4. 添加剤を加えることができる
  5. 塩ビコンパウンドを再生前と同じ用途に使用できる
  6. 塩ビの回収ロス(他の素材の中に残る分)は2%以下

 一方、ソルベイ社では今後の技術的な課題についても率直に情報を開示しています。
 「再生された塩ビコンパウンドが再生前と同一の組成を持つため、重金属類や顔料などもそのまま残ってしまう。特に顔料の問題は、複数の色を使った塩ビ製品を処理した場合、再生塩ビの色が黒ずんで商品価値を低下させてしまうという影響があり、解決が急がれる。重金属類や顔料の除去については現在研究を継続しているところだ」

 

● 進む、海外での事業展開

  ソルベイ社がビニループの開発に着手したのは97年の12月。以後、98年11月に小型のパイロットプラントをブリュッセルの研究所に建設して各種の試験を重ねた末、2000年7月には、イタリア北部の都市フェラーラに電線リサイクルのためのジョイントベンチャーを立ち上げ、年間1万トン(再生塩ビ8,500トン)規模の処理を行う商用プラントを今年の11月から稼働させる計画で、施設の建設を進めています。
 このほか、カナダのケベック州でもプラスチックリサイクル会社とのジョイントで年1万〜1万5,000トン規模の施設を建設する計画が進行中で、クルーシフィックス氏は、「埋立地に十分な余裕があり敢えてリサイクルの必要に迫られていない北米でこうしたプロジェクトが実現していることからも、ビニループが経済的にメリットをもたらす技術であることが証明できる。我々は再生塩ビの販売価格をバージン価格の70〜80%に設定しておりカラーリング上の弱点はあるものの、バージンと同等の物性を持つことで十分競合できるものと考えている」と自信をのぞかせています。
 また、日本においても、今後設備の建設や技術ライセンスを含め積極的に事業展開していく計画で、「ジョイントベンチャーのパートナーを見つけ、できるだけ早い時期に商用のパイロットプラントを建設したい」としています。