2001年6月 No.37
 
(株)鐡原の使用済み農ビリサイクルシステム

農ビから塩酸を回収して製鉄の酸洗いや融雪剤に有効利用。脱塩後の炭化物は燃料に

使用済みの農業用ビニル(農ビ)から塩酸を回収してリサイクルする技術開発に、またひとつ新しい動きが出てきました。回収塩酸を製鉄の酸洗い(錆落とし)や融雪剤に利用するなどアイデア盛りだくさんのリサイクルシステムづくりに取り組んでいるのは、新日鐵の関連企業の(株) 鐡原(東京都千代田区)。同社の室蘭支店ガスコークス工場(北海道室蘭市仲町16番地/TEL.0143―22―6141)に開発の現状を取材しました。

 

■ 基礎実験を終了、実証段階に

 
  鐡原が開発を進めるリサイクル・システムは、使用済みの農業用プラスチック(農ビ・農ポリ)やその他の産廃系プラスチックを熱分解して発生する塩化水素を、20%以上の濃縮塩酸として回収し工業用に再利用する一方、脱塩化水素した後の炭化物は石炭の代替としてボイラー燃料などに利用する、というもの。開発テーマのうち、脱塩化水素と塩酸回収の部分については平成11年度に行った基礎実験で技術的に確立しており、現在は乾式での原料破砕と土砂の分離などの前処理工程について、処理能力1トン(1時間当たり)の装置を用いて実証試験が進められています。
 リサイクルの主なプロセスは、(1)原料を粉砕して、熱風で乾燥しながら撹拌して土砂や金属などの異物を分離する、(2)熱分解で塩化水素ガスを発生させる、(3)ガス中に含まれる添加剤などの不純物を除去する、(4)塩化水素を吸収、精製して高濃度塩酸として回収する、という流れで、排ガスもアルカリ洗浄と高温燃焼(1200℃)で処理されるのでダイオキシンの心配もありません。
 実証試験中の前処理設備は、破砕機、乾燥機、土砂分離機、集塵装置などで構成されていますが、乾式処理を採用したのは「できるだけ前処理にコストをかけないという方針」(コークス工場の牛田博克工場長)から。使用済み農ビなどには土砂が多く付着していて、湿式洗浄するのが一般的ですが、「乾式だと少量の土砂が分離しきれずに脱塩化水素工程を経て炭化物中に残るが、土砂も灰分と同じものと考えれば何ら問題はない。燃料としては許容範囲だ」といいます。
 この実証プラントは通産省(現経済産業省)の『新規産業創造技術開発費補助事業』の指定を受けています。
 

■ 農ビのリサイクルに大きな福音

 

  牛田工場長に、開発に取り組んだ経緯と事業の全体的な構想について説明してもらいました。
 「当社では、10年ほど前からコークスそのものより副産物であるガスの発生原単位を高める研究をして来た。その過程でプラスチックを炉に入れることにより質の良いガスを得られることがわかった。ただ、塩ビを燃やす場合は塩化水素を処理する必要がある。そこで脱塩化水素技術と回収塩酸のリサイクルについての研究に取り組むことになった。この事業のポイントは、第1に農ビや農ポリの処理事業として有望であること、第2に回収塩酸は新日鐵構内で、鐵原が設備を持っている酸洗(錆落とし)後の塩酸回収設備で利用することが出来ること、第3に炭化物はストーカー式ボイラー等の石炭代替燃料や原料として自社利用や販売が出来ることである」。
 北海道の環境廃棄物対策課などが行った調査によると、道内で1年間に発生する使用済み農業用プラスチックの量はおよそ2万トン(塩ビとポリが1万トンずつ)となっていますが、リサイクルされているのは17%程度で、残りはほとんど埋め立て処分されているのが実状。鐡原のリサイクルシステムが実用化されれば、農ビの処理に悩む農家にとっては大きな福音となります。

 

回収塩酸とホタテの貝殻で作る融雪剤

 
  さらに鐡原の取り組みで興味深いのは、塩酸回収と炭化物のリサイクルのほかにも、これまでの技術の蓄積や地の利を生かして様々なリサイクルのアイデアが考えられている点です。
 そのひとつが融雪剤原料としての塩酸の利用。回収塩酸の付加価値を高めるために考えられたこのアイデアは、適当な処理方法がなく問題になっているホタテ貝の有効利用にも役立ちそうです。
 「北海道はホタテの主産地だが、貝殻の処理が進まず多くが野積みされたままになっている。ホタテの殻は炭酸カルシウムそのものだから、塩酸を入れると簡単に融雪剤の水溶液ができる。一方、スパイクタイヤが禁止になってから道内では大量の融雪剤が必要とされている。ホタテ貝を利用した融雪剤の開発は漁業の手助けにもなる上、自治体の役にも立つ」
 このほか、製鉄の酸洗いから出る酸化鉄を磁石の原料として家電メーカーなどに供給したり、融雪剤を作る過程で発生する炭酸ガスを工業用の溶接ガスなどに再利用する計画もあり、現在その実験が併せて進められています。
 「事業化までには回収システムの構築が大きな課題になる。北海道では農業用プラスチックの回収システムはまだ作られていない。今後、行政だけでなくホクレンなどにも参加してもらって回収システムづくりに取り組みたいし、デポジット方式の導入なども検討していきたい。また、対象地域も北海道だけでなく、東北地方まで視野に入れて回収量をまとめたいと考えている」。
 鐡原では、前処理技術の実証が終了した段階で、今年度中に技術の核心である脱塩化装置や回収塩酸の濃縮・精製技術の実証試験に入り、平成15年度には事業化にこぎつけたい計画。
 まさに、骨ひとつ残さず使い切る徹底した鐡原の廃プラスチックリサイクル戦略。今後の動向に要注目です。