2001年3月 No.36
 
 

 話題の移動式農ビリサイクル・システム
 
少量処理の新技術、太洋興業(株)の「アグリサイクルシステム」。常設拠点のない県に朗報

    農業用ビニルフィルム(以下、農ビ)リサイクルの新技術が注目を集めています。農ビ販売の太洋興業(株)(本社=東京都中央区日本橋)が開発した移動式「アグリサイクルシステム」。“少量排出県”の悩みを解消するこの新技術を、同社の東北支店(宮城県仙台市若林区卸町2−5−10/TEL.022−232−3791)に取材しました。  

 

農ビリサイクルの「決め手」

 

  現在農ビのリサイクル率は、平成11年度の実績で51%。平成11年7月からは、農ビリサイクル促進協会(NAC)もスタートし、自治体や農協などで設立する適正処理協議会(以下、協議会)と連携して、将来的には100%リサイクルを目指して活動を展開しています。
 一般に、回収された使用済み農ビは、処理を委託する産廃業者のリサイクル施設で再生原料に加工されますが、常設型の工場を経済的に運営していくためには最低でも年間5,000トンの使用済み農ビが必要と言われるのに対して、それだけの量を確保できる県はごく少なく、現状では四国や九州など施設園芸の大産地を除くと、ほとんどの県が2,000トン以下にとどまっています。
 太洋興業の「アグリサイクルシステム」は、こうした2,000トン未満の少量処理に対応する設備として開発されたもので、システム自体が集積場所に出動して、その場で粉砕、洗浄、梱包(フレコン詰め)までを完了できるため、常設の処理拠点を持たない少量排出県からは、農ビリサイクルの有力な決め手として期待を集めています。
 「大産地だけでなく、小さなところの津々浦々まで陽が差さないと、この先農ビのリサイクルを大きく前進させることはできない。循環型社会を完成する上で『アグリサイクルシステム』の効果は大きく、稼働以来、全国から問い合わせが来ている」(農材新規事業推進部の小室悟課長)。

 

■ 水処理など環境対策に配慮

 

  「アグリサイクルシステム」の処理能力は日量4.8トン。日量を5トン以下に設定したのは「廃棄物処理法上の特定施設外の扱いになって自由に動くことができるから」(小室課長)で、5トン以上だと、法の規制が掛かって移動式の特徴を生かせない上、「設備費、処理コストの上昇につながってしまう」と言います。
 設備は大まかに、粗砕機、ベルトコンベア、本体のアグリサイクルマシン(破砕および洗浄)、スクリューコンベア、排水装置(排水槽と凝集沈殿槽)など8つのパートに分かれていて、これを10トントラックに積み込んで移動し、現地で組み立てを行います(下図参照)。
 作業場には主に農協の敷地が使われますが、近くに水源があれば60坪くらいの広さで十分とのこと(使用済み農ビの置き場を除く)。組み立てに要する時間は約2時間で、太洋興業および現地雇用の作業員4人で操業します。
 農材新規事業推進部の菅原三代治課長によれば、システムの設計で最も注意を傾けたのが水処理工程の部分です。作業に使われる水(約4トン)は、アグリサイクルマシンと水槽の間をフィルターで土砂を濾過しつつ循環し、最終的には凝集沈殿槽で無害化されて排水されます。
 「この設備は水質汚濁防止法の対象にはなっていないが、同法の全40項目に準拠した自主管理基準を定めて運営している。土砂は専門の業者に処分を委託している」。
 このほか、騒音、振動対策などへの配慮からも、「環境対策のハードルを高くしている」同社の姿勢がうかがわれます。

■ 「移動式」の発想は10年前

 
  太洋興業は、もともと農ビを中心とした農業用資材の販売会社で、日常の業務の中から、少量処理への対応の必要には早くから気づいていたと言います。
 移動式リサイクルシステムのアイデア自体は既に10年前に発想されていますが、実際の稼働は平成11年10月から、東北地方で事業をスタートしています。
 現在、宮城、福島、山形、岩手の4県で産業廃棄物の中間処理業としての許可を取得しており、秋田県については、現在申請中です。
 東北地方から事業を展開したのは、施設園芸が盛んな割に、比較的埋立地に余裕のあることなどから農ビのリサイクルがほとんど進んでいなかったためです。
 例えば、キュウリ、トマト、イチゴの大きな産地である宮城県は東北地方では最大の農ビ需要地域ですが、「リサイクルの実績は3年前まで統計上はゼロ」(小室課長)。
 しかし、埋立処分は新規増設の規制など東北地方でも確実に限界に近づいており、こうした事情を背景に、農ビの処理は東北の園芸農家にとっても次第に大きな問題になりつつあるようです。

   

■ 行政も積極的に支援

 
  使用済み農ビの回収に当たっては、まず、太洋興業と各地区の協議会が契約を交わした上で、回収日、集積場所などを決め、協議会がチラシなどを各戸に配布して事前の広報を行います。農家は予め回収に出す予定量を報告し、当日、計画に沿って集積場所に農ビを持ち込みます。
 「我々としては、1日4.8トン処理で週5日稼動として、1カ所で24トン集まれば理想的な量だと考えている。現実にはなかなか理想どおりには集まらないが、適正に処理しなければならないという農家の意識は高くなっており、それに伴って徐々に集まる量も増えてくると思う」(菅原課長)。
 これまでの処理実績は、平成11年度は21カ所で計70トン、12年度は4月〜1月の10カ月で既に140トン(31カ所)を超えており、同社では13年度はさらに倍増するものと予想しています。
 こうした中、各県の行政も協議会が作成する広報チラシに補助金を出すなど、農ビリサイクルへの応援態勢を強化しています。特に、使用済み農業用廃プラスチックの処理の基本方向を「再生処理」として「宮城県農業用廃プラスチック適正処理基本方針」を定めている宮城県では、宮城県農業用廃プラスチック適正処理推進協議会が適正処理の推進母体となり、各協議会の調整を図ることで「アグリサイクルシステム」の効率的活用を実施しています。「農ビをリサイクルできるシステムが一つでも見つかったということは農家にとって大きな意味がある。現時点で他に少量処理の方法を見出せない限り、県協議会としては積極的にこのシステムを利用したい」(県農業振興課)と、意欲的な姿勢を示しています。

 

■ 安心して農ビを使ってもらうために

 

  なお、「アグリサイクルシステム」で処理された再生原料は、フレコン詰めにして関東地方の加工業者に販売され、土木用、農業用のシートに再生されます。
 注目したいのは、太洋興業自身でもこの再生シートを利用して、「アグリサイクルシート」という商品名で販売していることです。
 「農ビの再生品はやはり農業用に使いたい。我々が使用済み農ビのリサイクルから再生品の販売までにタッチしていることで、安心して農ビを使ってもらえるための一貫体制ができたということを、施設園芸農家に分かってほしいと思う」(小室課長)。
 自ら販売した農ビを、自らリサイクルし、再生品も自ら販売するという「完全リサイクル」の珍しい事例と言えます。