2000年6月 No.33
 

 埋め立て規制で日本の焼却技術に注目

  転換期を迎える、ヨーロッパのリサイクル状況(同志社大学・郡嶌孝教授の講演から)

  去る5月18日の午後、千代田区半蔵門の東條インペリアルパレスにおいて当協議会主催の講演会が開催され、同志社大学経済学部の郡嶌孝教授が、最近のヨーロッパのリサイクル状況について報告を行いました。リサイクルコストの上昇と埋め立て規制強化の中で転換期を迎えつつあるヨーロッパの廃棄物行政。その最新情報をまとめました。

 

 

● 混合収集、自動選別の動き

  郡嶌教授の報告によれば、最近のヨーロッパでは、増え続ける廃棄物の量とリサイクルコストの上昇から容器包装のリサイクルなどをめぐって様々な動きが出はじめており、EUの容器包装指令についても改訂の議論が進んでいます。一方、二酸化炭素の削減や用地不足への対策として、生ごみをはじめとする非安定型の有機物系廃棄物については、基本的に埋め立て禁止の方向にあり、日本の焼却技術、特に熱回収やガス化溶融技術に対する関心が高まっているとのことです。
 リサイクルコストの上昇は主に分別回収の難しさに起因します。例えば、ドイツのDSDの調査では、DSDが回収する容器包装廃棄物の中にかなりの量の生ごみが混入しており、その処理費がコストの上昇を招きました。生ごみの混入が多いのは、市民がごみ処理費の負担を低く抑えようとして、容器包装の回収ルートに生ごみを乗せてしまうためです。
 さらにDSDの場合は、政府が唯一認可している独占的な組織であり価格競争がないことも、高コストを維持する要因となっています。
 こうした状況の中で、ヨーロッパではドイツを中心に、中途半端に分別して余計な選別コストをかけるよりも、混合収集して機械で自動選別することによりコストを抑えようという動きが広がっており、そこにビジネスチャンスを求める企業も登場しています。
 ランドベルというスイスのリサイクル業者は、ドイツのヘクセン州ランディーン郡で生ごみ、プラスチック、缶類を混合回収し、生分解や機械的な処理によってDSDの半分のコストで回収物の97%をリサイクルしており(生ごみは発酵させて路盤材に、プラスチックは生ごみの発酵熱で乾燥した後、固形燃料として利用)、生ごみの埋め立て禁止の方向を先取りしていることもあって、ヘクセン州以外の自治体からも支持を集めました。
 現在、ランドベルのやり方は連邦政府環境省の承認を得ていないことなどを理由に、違法とされ同社の操業も中止状態となっていますが、そのインパクトは非常に大きく、新たに自動分別に取り組む企業が増えているほか、DSDも自動分別のための機械を作って対応を始めているとのことです。


 

●  EU容器包装指令改訂へ

  EUの容器包装指令改訂の議論はこうした流れの中から出てきたものです。これは、2001年6月30日までに現在のリサイクル率の目標(ケミカル、マテリアルを含め最低限50〜60%、そのうちの25〜45%はマテリアルリサイクル)を見直すというもので、具体的には2種類の改訂案が議論の俎上に上がっています。
 そのひとつは、2006年までに重量で包装廃棄物の90%を回収して、各素材60%のリサイクルを行うという案。もうひとつは、回収目標は設定しないで回収した分の最低60〜75%をリサイクルする(各素材の目標はガラス75%、紙・段ボール65%、金属55%、プラスチック20%)という案で、いずれも現状に即してリサイクル率を緩和する方向で見直す内容となっています。
 郡嶌教授によれば、現在のところこの第2案のほうが有力とのことですが、この案にはプラスチックはマテリアルリサイクルしか認めないという厳しい条件も付いており(※)、ヨーロッパのプラスチック業界では、プラスチックのマテリアルリサイクルは最大限15%しかできないとして、EUに反対意見を提出しています(この議論については、去年の11月に出た中間報告がホームページで公開されています。
http://www.europa.eu.int/comm/environment)。
 なお、プラスチックについてはマテリアルリサイクル推進のために種類別のマーク表示の実施も検討されていますが、プラスチック業界はこれについても費用の過重を理由に反対を表明しています。


 

● 日本に学ぶ、熱回収・ガス化溶融技術

  一方、埋め立て処理の規制強化に関して、現在EUでは埋め立て指令の発行が検討されています。ヨーロッパでもごみ処理の基本はやはり埋め立てであり、ヨーロッパリサイクル都市連盟の調査では都市ごみの53%が埋め立て、焼却による熱エネルギーの回収が30%、リサイクル12%、コンポスト4%、その他が1%という状況です。
 EUの埋め立て指令は、こうした現在の埋め立ての量を2006年7月までに、95年のレベルの25%、2009年は50%、2016年には65%を削減しようというもので、埋め立ての大部分を占める生ごみやシュレッダーダストなどの非安定型廃棄物は、基本的にリサイクルとコンポストを中心に処理していく方向となっています。
 また、リサイクルもコンポスト化もできないものは、焼却で熱エネルギーを回収しながら、地層的に安定した形(灰)にしないと埋め立てられないことになります。
 郡嶌教授は、こうした政策の変化がヨーロッパにおける日本の焼却技術の見直しにつながっていると言います。「最近、日本の焼却技術、特に熱回収やガス化溶融の技術を参考にしようと、オーストリアのごみ問題コンサルタントなどが多数日本に研究のために訪れている。日本は一生懸命ヨーロッパを見てリサイクルに取り組んでいるが、逆にヨーロッパは一生懸命日本を見て焼却技術を学ぼうとしているわけだ」

● より現実的な路線への転換

  以上のヨーロッパにおけるリサイクル状況について、講演の最後に郡嶌教授は次のように総括しています。
 「ごみ減量化のために、未然防止の原則や拡大生産者責任などに基づいて上流政策を追求するというのはヨーロッパの基本政策だが、下流対応としては、リサイクルやコンポストだけでなく、熱エネルギーを回収できる焼却処理を増やしていくという戦略に転換しはじめている。言い換えれば、ヨーロッパはより現実的になり始めたということだ。
 率先してマテリアルリサイクルに取り組んできたヨーロッパは、それなりにリサイクル率を上げもしたが、その中でリサイクルのためにはかなりのコストが掛かることも分かり始めた。ドイツではリサイクルコストを100%商品価格に上乗せする形で市民が前払いしているが、このことは、リサイクルには大きな費用と努力が要すること、経済原則に則ったシステムを作らないとリサイクルは前に進まないということをドイツ市民に気づかせた。
 経済原則の中でやっていくために、ヨーロッパの廃棄物政策はリサイクル中心に振れた振り子をもう少し現実的な地点に戻しつつある。埋め立てまでは戻らないにしても、ごみの有料化で発生量、埋め立て量を減らしながら、リサイクルと焼却による熱エネルギー回収、ガス化溶融による安定化を含めた流れになっている。数年後には再び逆の方向に振れるかもしれないが、今のところそういう方向がヨーロッパには見える。
 一方、あまりにもに高いレベルの環境基準が独占的で談合的な非関税障壁になってきているという問題もある。ビールと清涼飲料の容器を72%リターナブルびんにしなければならないというドイツの容器包装廃棄物政令の条項は、その代表的な事例だ。ドイツの環境政策に一貫しているのは、他の国よりも高いハードルを設けて非関税障壁にするという姿勢だが、同様にデンマークもアルミ缶を禁止することで、ドイツからのビールの輸入を防いでいる。
 つまり、ヨーロッパの環境政策が進んでいると言われるのも結局は自国の利益を守るためであって、だからこそ産業も従うわけだが、この点でもヨーロッパは経済原則と環境政策を調和させる方向に揺り戻しつつあるように見える。経済的に競争しながら環境を守っていくこと、これが2000年を通じてヨーロッパで最大の問題になるだろう。
 ここ10年ほど、日本はヨーロッパの動きに惑わされ続けてきた。日本人がドイツを見る場合、依然として環境先進国という思い込みで、先進的なところだけを見てドイツはすごいという人が多い。しかし、現実は必ずしもそうではない。我々研究者も産業界も正確な情報発信を心掛けていかなければならない」。


※APME(Association of Plastic Manufacturers in Europe)の情報では、マテリアルリサイクルだけの議論はないとのこと

 

プロフィール 郡嶌孝(ぐんじま たかし)
昭和22年福岡県生まれ。44年同志社大学経済学部卒。49年同大学大学院経済学研究科経済政策専攻(博士課程)修了。同大学経済学部助手。51年同専任講師、54年同助教授を経て、59年から同大学経済学部教授。平成3年〜5年同評議員、平成6年〜8年同経済学部長を務める。日本経済政策学会常務理事、環境経済・政策学会理事、公共選択学会理事、経済社会学会理事などを歴任。主な著書に『都市生活の経済学第2版』《ミネルヴァ書房》、『リサイクル時代のごみ行政』《自治体研究社》(いずれも共著)などがある。