一方、埋め立て処理の規制強化に関して、現在EUでは埋め立て指令の発行が検討されています。ヨーロッパでもごみ処理の基本はやはり埋め立てであり、ヨーロッパリサイクル都市連盟の調査では都市ごみの53%が埋め立て、焼却による熱エネルギーの回収が30%、リサイクル12%、コンポスト4%、その他が1%という状況です。
EUの埋め立て指令は、こうした現在の埋め立ての量を2006年7月までに、95年のレベルの25%、2009年は50%、2016年には65%を削減しようというもので、埋め立ての大部分を占める生ごみやシュレッダーダストなどの非安定型廃棄物は、基本的にリサイクルとコンポストを中心に処理していく方向となっています。
また、リサイクルもコンポスト化もできないものは、焼却で熱エネルギーを回収しながら、地層的に安定した形(灰)にしないと埋め立てられないことになります。
郡嶌教授は、こうした政策の変化がヨーロッパにおける日本の焼却技術の見直しにつながっていると言います。「最近、日本の焼却技術、特に熱回収やガス化溶融の技術を参考にしようと、オーストリアのごみ問題コンサルタントなどが多数日本に研究のために訪れている。日本は一生懸命ヨーロッパを見てリサイクルに取り組んでいるが、逆にヨーロッパは一生懸命日本を見て焼却技術を学ぼうとしているわけだ」
● より現実的な路線への転換
以上のヨーロッパにおけるリサイクル状況について、講演の最後に郡嶌教授は次のように総括しています。
「ごみ減量化のために、未然防止の原則や拡大生産者責任などに基づいて上流政策を追求するというのはヨーロッパの基本政策だが、下流対応としては、リサイクルやコンポストだけでなく、熱エネルギーを回収できる焼却処理を増やしていくという戦略に転換しはじめている。言い換えれば、ヨーロッパはより現実的になり始めたということだ。
率先してマテリアルリサイクルに取り組んできたヨーロッパは、それなりにリサイクル率を上げもしたが、その中でリサイクルのためにはかなりのコストが掛かることも分かり始めた。ドイツではリサイクルコストを100%商品価格に上乗せする形で市民が前払いしているが、このことは、リサイクルには大きな費用と努力が要すること、経済原則に則ったシステムを作らないとリサイクルは前に進まないということをドイツ市民に気づかせた。
経済原則の中でやっていくために、ヨーロッパの廃棄物政策はリサイクル中心に振れた振り子をもう少し現実的な地点に戻しつつある。埋め立てまでは戻らないにしても、ごみの有料化で発生量、埋め立て量を減らしながら、リサイクルと焼却による熱エネルギー回収、ガス化溶融による安定化を含めた流れになっている。数年後には再び逆の方向に振れるかもしれないが、今のところそういう方向がヨーロッパには見える。
一方、あまりにもに高いレベルの環境基準が独占的で談合的な非関税障壁になってきているという問題もある。ビールと清涼飲料の容器を72%リターナブルびんにしなければならないというドイツの容器包装廃棄物政令の条項は、その代表的な事例だ。ドイツの環境政策に一貫しているのは、他の国よりも高いハードルを設けて非関税障壁にするという姿勢だが、同様にデンマークもアルミ缶を禁止することで、ドイツからのビールの輸入を防いでいる。
つまり、ヨーロッパの環境政策が進んでいると言われるのも結局は自国の利益を守るためであって、だからこそ産業も従うわけだが、この点でもヨーロッパは経済原則と環境政策を調和させる方向に揺り戻しつつあるように見える。経済的に競争しながら環境を守っていくこと、これが2000年を通じてヨーロッパで最大の問題になるだろう。
ここ10年ほど、日本はヨーロッパの動きに惑わされ続けてきた。日本人がドイツを見る場合、依然として環境先進国という思い込みで、先進的なところだけを見てドイツはすごいという人が多い。しかし、現実は必ずしもそうではない。我々研究者も産業界も正確な情報発信を心掛けていかなければならない」。
※APME(Association of Plastic Manufacturers in Europe)の情報では、マテリアルリサイクルだけの議論はないとのこと
■プロフィール 郡嶌孝(ぐんじま たかし)
昭和22年福岡県生まれ。44年同志社大学経済学部卒。49年同大学大学院経済学研究科経済政策専攻(博士課程)修了。同大学経済学部助手。51年同専任講師、54年同助教授を経て、59年から同大学経済学部教授。平成3年〜5年同評議員、平成6年〜8年同経済学部長を務める。日本経済政策学会常務理事、環境経済・政策学会理事、公共選択学会理事、経済社会学会理事などを歴任。主な著書に『都市生活の経済学第2版』《ミネルヴァ書房》、『リサイクル時代のごみ行政』《自治体研究社》(いずれも共著)などがある。