2000年3月 No.32
 
 

 日本におけるガス化技術開発の最先端動向
   塩ビを含む廃棄物をガス化、有効利用。日本初の技術開発の現状をレポート

 

 

 次世代型リサイクルシステムとして、いまガス化技術が注目を集めています。塩ビを含む廃棄物をガス化して有効利用する日本初の二つの技術で(株)荏原製作所・宇部興産(株)が共同開発に取り組む廃プラリサイクル設備・加圧二段ガス化方式「EUPシステム」と、川崎製鉄(株)の川鉄サーモセレクト方式について稼働現場から、開発の最先端動向をレポートします。

 

 

1. 荏原製作所・宇部興産の加圧二段ガス化方式「EUPシステム」

塩ビ混入廃プラから水素ガスを生成

  荏原製作所と宇部興産が共同で開発に取り組む加圧二段ガス化方式「EUPシステム」は、容器包装リサイクル法に基づいて自治体が分別収集する容器包装廃プラスチックの有効利用を目的とした技術です。塩ビを含む廃プラスチックを熱分解することによって水素ガスを生成してアンモニアの原料として再利用するのがシステム開発の狙いで、世界的にも類例の少ないガス化技術と言えます。ちなみに、EUPというシステム名は両社の頭文字を取って命名されたものです(Pはプロセス)。
 両社は昨年11月30日、宇部市の宇部アンモニア工業(有)隣接地内に処理能力1日30トン(年間1万トン)規模のEUP実証プラント(〒755―0057山口県宇部市大字藤曲字昭和開作2575―6/TEL.0836-36-0605)を竣工させ、NEDOからの委託事業として、今年9月の終了を目標に実証試験を進めています。
 EUPシステムの主な特長としては、(1)塩ビなどのハロゲンを含むプラスチックの分別が不要で、廃プラスチックの種類を問わず処理できること、(2)ダイオキシンなどの有害物質を出さないこと、(3)スラグや金属類などを回収再利用できること、などが挙げられます。
 容器包装リサイクル法の完全実施により「その他プラスチック」の分別に着手する自治体にとって、その技術開発の意味は大きく、見学者の数も日増しに増加しているとのことです。

 

■ 塩化水素の回収・再利用も

  EUPシステムに採用されている加圧二段ガス化方式とは、処理する廃棄物の量に応じて炉内に一定の圧力をかけて温度を調節しながら、低温ガス化炉と高温ガス化炉を使って効率的にごみを熱分解する技術です。処理プロセスの概要は次のとおりです。
(1)まず、廃プラスチックを破砕して直径6センチ、長さ15センチ程度のシンプルな固形燃料(RDF)に圧縮成形します。ごみを圧縮成形するのは、プラスチックの均一性を高め、表面積を小さくすることでガス化速度を緩慢かつ平準化するためです。また、炉への搬入システムにおけるハンドリング性を向上させる意味も持っています。
(2)低温ガス化炉において第1段目のガス化(部分酸化)が行われます。炉内の温度は600℃〜800℃です。ここでは酸素と蒸気により廃プラスチックはガスとチャーなどに分解されます。低温ガス化炉には流動床式の炉が使われていますが、これは廃プラスチックに混入する金属類などの不燃物を分離するためであり、不燃物は砂と共に抜き出すことにより炉外へ排出されます。
 このように、EUPシステムでは、廃プラスチック中に混入してくる鉄やアルミなどの不燃物もそのまますべてRDF化して低温ガス化炉で分離する方法が取りられており、不燃物も一緒に処理できる点が特徴のひとつとなっています。
(3)低温ガス化炉で発生したガスは次の高温ガス化炉に送られ、酸素と蒸気により1,300℃〜1,500℃の高温下で更にガス化が促進されます。またダイオキシンも完全分解され、飛灰はスラグとなって回収され、セメントの原材料などに再利用されます。
(4)高温ガス化炉を出たガスは、炉の下部に設けられた急冷室に送られ、ダイオキシンの再合成を防ぐため、アンモニアを含んだ急冷用水にて一気に200℃以下にまで冷却されます。更に洗浄塔を経る過程でスラグが除去され、また塩化水素は塩化アンモニウムとして水中に固定され、次に洗浄塔を経て、炭酸ガスや塩化水素などが取り除かれ、水素と一酸化炭素及び炭酸ガスを主成分とするガス(いわゆる合成ガス)となります。この合成ガスは現在のところ隣接する宇部アンモニア工業に送られ再利用されることになっていますが、廃プラスチック30トンからアンモニア26トン分の原料に相当する水素ガスが得られるとのことです。
(5)急冷用などに使用された水は水処理設備で微粒スラグなどの固形分を取り除いて循環再利用されます。また、塩化水素をアンモニアと中和させ生成した塩化アンモニウムは本設備で回収され、化学肥料の原料となります。

■ 塩化水素対策にも様々な工夫

 

  以上のプロセスのうち、固形燃料化を含む前処理から低温ガス化炉までの技術開発が荏原製作所の担当、高温ガス化炉から水処理までが宇部興産の担当となっていますが、塩ビ業界として注目しているのは、ガス中に含まれる塩化水素に対応できるよう各工程で様々な設計上の工夫がなされていることです。
 例えば、低温炉、高温炉それぞれで温度を一定にコントロールできるようになっているほか、前述の塩化アンモニウムも、塩化水素の回収再利用という点で見逃せないポイントと言えます。荏原製作所環境エネルギー開発部の佐藤隆夫課長によれば、実証試験に使用している原料中の塩素分は約4%、塩ビ換算で8%程度とのことですが、実際にはこれよりも少な目であるとのことです。
 EUPシステムの実証試験が終了した時点で、荏原製作所・宇部興産の両社は容器包装リサイクル法に基づく再商品化事業者として自治体の廃プラスチック処理を受注していく計画です。また、合成ガスの利用についても、アンモニアのほかメタノール製造への利用、燃料電池への応用などいろいろ事業展開が想定されているようです。