1999年12月 No.31
 

 特集/建築系廃棄物リサイクルの展望

 新法の国会上程も間近。建築業団体、住宅メーカーに聞く「対応の現状と課題」

  

 

 建築廃棄物に関する建設省のリサイクルプログラムがまとまり、来年早々には新法の国会提出も予定されるなど、建材リサイクルの動きが慌ただしくなってきました。パイプや壁紙、床材などの建材は、塩ビにとっても用途の6割を占める最大の分野であり、そのリサイクルの動向は塩ビ業界に重要な影響を及ぼします。リサイクルへ向けた行政の動きを睨みながら、建築業界はどう対応しようとしているのか。プラスチック廃棄物対策を中心に、業界団体と住宅メーカーの関係者2氏に取り組みの現状をお話いただきました。

 

 

廃プラスチックリサイクルをめざす建築業界の対応

 

 

(社) 建築業協会副産物部会 島田啓三副部会長
(鹿島建設(株) 東京支店安全環境担当部長)

 

建築解体廃棄物リサイクル法案のベース

  建設省が10月4日に発表した「建築解体廃棄物リサイクルプログラム」は、不法投棄の9割を占めると言われながら、リサイクルの遅れが指摘されている建築系廃棄物について、分別・リサイクルの推進に向けた課題や、課題に対する戦略などを体系的にまとめたもので、建設省が次期通常国会に提出を予定している「建築解体・リサイクル法案」のベースになる考え方を示したものと見られます。
 建設廃棄物の年間排出量はおよそ1億トンで、産業廃棄物全体(約4億トン)の2割程度を占めると考えられますが、このうち、土木工事から出る土木廃棄物は6割、企業のビルや民家などから出る建築廃棄物が4割で(次頁図参照)、公共事業の多い土木廃棄物についてはリサイクルもかなり進んでいるものの(平成7年度でリサイクル率68%)、建築廃棄物のリサイクル率はまだ42%に留まっています。特に民間の戸建て住宅については、解体コストを抑えるために機械を使って一挙に壊してしまう混合解体が多く、リサイクルが進んでいないのが現状です。
 プログラムは、こうした混合解体中心の現状を分別・リサイクル推進の方向に改めるため、国が分別解体の基準を設けて解体業者に分別解体を義務づけるとともに、再資源化にも一定の責務を課す内容となっており、具体的には「4つの戦略」(下表)に基づいて、分別解体のチェック体制の整備やコスト分担の適正化(解体工事の発注者にも応分の負担を求める)、リサイクル推進のための技術開発や経済的インセンティブの実施といった個々の施策が示されています。


1. 建築物の長寿命化促進等の新設時における戦略
設計・計画段階から建築解体廃棄物の発生を抑制するように対策の実施 等
2. 建築物の分解解体促進の戦略
適切な解体工事が行われているかどうか確認するための仕組みづくりの検討 等
3. 建築解体廃棄物の再資源化促進の戦略
再資源化の責任を明確化する、再資源化施設の設備に対する支援の実施 等
4. リサイクル市場の形成の戦略
公共事業におけるリサイクル材の利用促進、情報交換システムの構築 等

 

 

廃プラスチック処理の問題点

  こうした行政の動きを視野に入れながら、現在、建築業界では建築廃棄物の分別・リサイクルへの対応策の検討を進めているところですが、廃プラスチックの処理もこの中の大きな課題のひとつと言えます。
 その最大の要因は、一昨年6月の廃掃法改正で建築廃棄物の埋立処分について規制が強化されたことです。これまでプラスチック系の廃棄物は処理費のやすい安定型で処分されてきましたが、法改正により廃プラスチックを引き続き安定型で処分するには、建設現場で紙や木などの管理型廃棄物が混入しないように従来以上に厳密な分別を課せられるなど、廃プラスチックの埋立処分が非常に難しくなってきているのです。
 これを受けて建築業界では、新築工事、解体工事を問わず廃プラスチックを建設現場で分別して、安定型処分できるようにしたり、マテリアルリサイクルに回していこうという動きが急速に広がっており、これに伴って木材や金属などの混合製品、あるいは多種類のプラスチックの複合製品の分別・リサイクルが大きな障害となっています。
 プラスチックは安価である上、優れた多様な機能を持っていますが、いったん他のものと混ぜてしまうと、新築はまだいいとして、解体工事から出る廃棄物は大変分別しにくい。今回まとめられたプログラムも解体廃棄物の分別・リサイクルを前提にしていますが、実際にどのレベルの分別解体を目指すのかということが大きなポイントになると思います。

 

高炉原料化への期待

  建設廃棄物約1億トンのうち7割以上はアスファルト・コンクリート塊、コンクリート塊で、こちらは既にほぼ8割以上がリサイクルされています。問題は、混合廃棄物と「その他」の廃棄物(プラスチックや紙くずなど)を合わせた約1割、1,000万トン前後の処理で、これをプログラムに即してどこまで分別できるのか、また、分別したところでその後どうやってリサイクルしていくのかとなると、話は極めて難しくなってきます。
 建築業界ではこれまでにも、大半が塩ビ製であるパイプ類や電線打ち込み用のCD管、あるいは電線被覆や発泡スチロールなど、形状で確実に識別でき、しかも単体で取り出せるものに関してはマテリアルリサイクルに取り組んできています。
 しかし、それ以外のもの、例えばシート類や壁紙、床材、ビニル巾木などは、プラスチックの種類が識別しにくいため、内装材の石膏ボードを再利用するために壁紙を剥がして分別したり、コンクリート塊をリサイクルするためにプラスチックタイルを分別したりといった形で、結果として副次的に分別できる一部のものを除いて、リサイクルはほとんど進んでいません。
 分別、識別できないプラスチックについてはきちっとした焼却施設でサーマルリサイクルするしか手がないという気がしますが、一方で適正な焼却施設を備えた産廃業者がまだ少ないという現実があることも確かです。そういう状況を考えると、総体としては、先頃厚生省から再生利用に関する認定を受けた日本鋼管(NKK)の高炉原料化(フィードストックリサイクル)が、現時点では最も可能性の高い魅力的な処理方法ではないかと思います。

 

塩ビ業界は表示の検討を

  NKKの高炉原料化については、塩ビ業界とNKKとの共同研究で脱塩化水素装置が開発され、当初は除外されていた塩ビ廃棄物も高炉原料として利用できる技術的な見通しが確認されたと聞いています。
 しかし一方で、高炉原料化の効率を上げるには、やはり塩ビは塩ビだけを集めて高濃度で処理したほうがよいという見方もあるようです。そうだとすると、最終的に塩ビと他のプラスチックを確実に分離できる方法、仕組みがどうしても不可欠になるのではないでしょうか。
 シート類などは、どんな端材でも塩ビと分かるようなマークを一面にプリントするといった方法ができれば現場で確実に分別できるようになります。塩ビ業界の皆さんには、表示の実施についてぜひ積極的に検討してもらいたいと思います。
 なお、建築業協会の副産物部会では既に廃プラスチックを含む14種類の建築廃棄物の分別ステッカーを独自に開発して、分別用ボックスの表示に使用しています。廃プラスチック用としては、現在は塩ビパイプ、電線くず、それ以外の廃プラスチックの3種類ですが、このステッカーを普及させることにより、現場分別を推進できればと考えています。

 

分別義務化は困難か?――新法での廃プラ対策

  以上、建築業界における廃プラスチックへの対応策をざっとご説明してきましたが、実は廃プラスチックについての行政の方針は今回のプログラムでもまだ明らかになっていません。このため、来年早々に国会上程されると見られる「建築解体・リサイクル法案」についても、廃プラスチック対策まで盛り込むのは殆ど不可能ではないかとの予測も出てきています。
 新法がどのレベルの解体を目指すのか分からない段階で断言はできませんが、私も法律で処理が義務づけられるのは、プログラムで言う指定副産物、つまり木屑とコンクリート塊、スクラップあたりの分別までか、せいぜい石膏ボードまでといった程度になるのではないかと見ています。
 というのは、プログラムが主に問題視しているのは、木造戸建て住宅におけるミンチ解体(混合解体)で、機械化に伴ってミンチ解体が増えた結果、不法投棄が多くなったことを指摘しています。
 しかし、戸建て住宅の場合は、廃棄物の量も少なく、効率的な回収方法、解体コストという点でも問題があるため、わずかしか出ない廃プラスチック対策にまで踏み込むのは、現状ではかなり難しいのではないかと思います。

それでも、廃プラのリサイクルは不可欠

  とはいえ、廃プラスチックのリサイクル対策が現在の建築業界にとって不可欠のテーマであることに変わりはありません。
 現状においては、大半のプラスチックは安定型処分をせざるを得ません。しかし、プラスチックを分別して安定型に処分できても、処分場自体が窮迫している以上、処分コストは基本的に上昇し続けるでしょうし、いずれは埋立処分の受け皿自体がなくなっていくでしょう。そう考えると、行政の動向は別としても、建築業界としてはどうしてもプラスチックをリサイクルしなければならないのです。また、資源の有効利用という意味でも、そうあるべきだと思います。
 プラスチックには、リサイクルする上で解決しなければならない課題が多く残されていますが、我々は決して塩ビやプラスチックを使いたくないと言っているわけではありません。ただ、建設現場の実情に照らして見ると、塩ビ管のように単独で取り出せるものはいいとして、複合材で分別しにくい製品については、このままだとなかなか使いにくくなっていくという事情があることも理解してほしいのです。我々はプラスチック業界の関係者の方々とともに、より効率的な廃プラスチックの分別とリサイクルの在り方を考えていきたいと思います。