1999年9月 No.30
 
資源循環型社会とプラスチックのリサイクル

  環境コンサルタント10年の経験から見た
  「行政、企業に望まれる廃棄物対策」とは

 

 (株)杉山・栗原環境事務所  代表取締役 杉山 涼子

●自治体が頭を悩ませる廃プラ分別収集

 
  現在私は、東京23区など自治体を主なクライアントとして、環境・廃棄物問題のコンサルタントをしています。
  東京都の場合、平成12年度以降、都の清掃事業が23区に移管されて、各区の責任で廃棄物処理が実施されることになりますから、各区では昨年からそのための一般廃棄物処理基本計画づくりにおおわらわといった状況です。しかも、一方では平成12年4月からスタートする容器包装リサイクル法の完全実施に備えて分別収集計画を策定する作業も重なっていたため、区の担当者は大変なご苦労だったろうと思います。
  分別収集計画については、ちょうどこの6月末に各区の計画が東京都に提出されたところですが、何しろ初めての作業ということで、ごみ量の予測とか、どういう分別基準でいくのかといった基本的な方向がつかめないところもあって、各区ともずいぶん頭を悩ませているようです。
  特にその他プラスチックの分別については、全体的な状況が把握できるまで手を出さずに、段階的に進めていくといった方針を取っているところが多いように見受けられます。
  一般に、焼却施設の能力が十分でない小さな自治体はプラスチックの分別に乗り気なようですが、大都市の場合、例えば川崎市や横浜市などのように、既にプラスチックを焼却処理しているところでは、ダイオキシンや公害防止の点でも十分な対策を実施していますから、プラスチックの分別に関しては様子を見てから判断していくという自治体が多くなると思います。23区でも、現時点でプラスチックの分別を計画しているのは1、2区ぐらいではないでしょうか。
 

●プラスチック分別収集の問題点

 
  自治体にとってプラスチックの分別収集には次のような問題があります。ひとつは、プラスチックだけ集めることによる収集コストの増大の問題。もうひとつは、集めたプラスチックをどう再利用するのか、そのリサイクルルートが必ずしもきちんと整備されていないという問題です。
  このうち、収集コストの問題については、現在でも建設費を除けばごみ処理にかかる費用の60〜70%が収集コストのみで占められてしまう状態で、不況で税収が減少しつつある中、ドイツなどのように収集の段階から事業者にも参加してほしいという自治体の主張は益々強くなってきています。
  (社)日本都市センターがまとめた「都市と廃棄物管理に関する調査研究報告書」の中でも、容器リサイクル法に基づく自治体負担が多すぎるという自治体側の主張が非常にはっきり出ていました。
  ついでに申し上げておきますと、この収集コストの分担見直しの問題では、事業者負担だけでなく一般廃棄物の有料化、つまり消費者の費用負担の問題も今後クローズアップされてくると思います。不法投棄が増えるといった指摘もあるようですが、ごみ処理のために年間2.5兆円、1人当たり2万円の税金が使われていることを消費者がどう認識するかの問題だと思います。
  一方、リサイクルルートの問題については、容器包装リサイクル法で形の上では整備されたことになるわけですが、自治体とすれば、集められたプラスチックがマテリアルリサイクルなりフィードストックリサイクルなり、本当に再利用されるという可能性を見極めた上で、きちっとした形で住民に説明できなければプラスチックの分別収集にはなかなか踏み込めないというのが本音のようです。
 

●メーカーは「発生抑制」のモノづくりを

 
  私個人としては、プラスチックの処理方法のひとつとしてフィードストックリサイクルやサーマルリサイクルをきちんと位置づけるのは正しい方向だと考えています。
  食品トレーやペットボトルなど分別しやすくマテリアルリサイクルに向いているものはいいとしても、何が何でもマテリアルリサイクルという考え方には賛成できません。
  家庭から排出されるすべてのプラスチックを細かく分別するのは現実的に不可能である以上、油化なり焼却熱の利用なりを選択肢のひとつとして確保した上で、より環境負荷の少ない方法を考えていくことが必要だと思います。
  ただ、ひとつだけ申し上げておきたいのは、マテリアルかサーマルかといった議論にとらわれる前に、その前提条件として発生抑制の対策を十分にやらなければならないということです。
  これはプラスチックだけに限った話ではありませんが、コンサルタントとして廃棄物問題に10数年たずさわってきた経験から言うと、自治体もメーカーも、出てきたごみをどう始末するか、燃やすのかリサイクルするのかといった事後処理的な部分を中心に廃棄物対策を進めてきた気がします。
  しかし、現在の廃棄物問題はこうした事後処理中心の考え方ではもはややっていけない状況にあることは明らかです。自治体とメーカー双方が廃棄物対策の最優先順位である発生抑制の問題に改めて目を向け、協力してその実現に取り組むことが循環型社会の構築には何よりも望まれるところです。
  例えばメーカーなら、製造段階から最終処分を視野に入れたLCA的発想に基づくモノづくりを進めること。分解しやすく、素材が表示してあって分別しやすい製品の開発は、結果的にリサイクルコストの削減にもつながります。
  また、行政としては先程触れた一般廃棄物の有料化をはじめ、デポジット制や廃棄物税・課徴金制度など、発生抑制につながる経済的インセンティブに重点を置いた制度面での検討が、今後の重要な課題になるだろうと思います。
 

●環境教育の重要性

 
  さらに、発生抑制で最も根本的な対策となるのが環境教育の推進です。最近自治体の中には、環境教育の拠点として「リサイクルプラザ」を運営して、啓発活動を行うところが増えてきました。
  「リサイクルプラザ」では、たくさんの種類のパンフレットやチラシなどを発行しているほか、粗大ごみの再利用や不用品の交換に役立つ情報活動、あるいはフリーマーケットのような活動にも取り組んでいます。
  また、学習室を用意して、講演会やシンポジウムを開催したり、子供から高齢者まで学べる勉強会などを実施してリサイクルに対する理解を深めるPR活動も大切な仕事のひとつで、こうしたリサイクルプラザが各地域で徐々に整備されてきています。
  まだみずみずしい感性が失われていない子供の頃から、"ごみはリサイクルするのが当たり前"という意識を自然に身につさせけるのは、大変重要なことだと思います。
  現在、公立小学校の4年生の社会科の授業では、地域の焼却施設などを見学して感想文を書くという課外授業があるそうですが、子供たちの反応は大変敏感で、現場ではかなり積極的な質問が飛び交うとのことです。
 

●「リサイクル文化」を育てる

 
  私などは、むしろもっと小さな時期から、毎年でも、環境を整備するいろいろな施設やそこに携わる人々の苦労などを見聞させておくべきだと考えます。
  教室の机に座って頭だけで学習するのではなく、成長過程にある子供たちの五感をフルに活用した体験学習こそ、大人が想像する以上に将来の環境問題に対する知恵を育ててくれるものだと確信しています。
  最近、リサイクル文化という言葉をよく耳にします。辞書によれば、文化には「人間本来の理想を実現してゆく活動過程」という意味があるようですが、その国の文化がその国民の特質を映し出す鏡であるとするならば、リサイクル文化というものを通じて日本のアイデンティティとは何かを改めて見つめ直すことができるのではないでしょうか。
  リサイクル手法だけなら諸外国の事例からも学ぶことはできます。しかし、リサイクル文化は、それぞれの国、それぞれの地域において自らの手で築いていくしかないものです。
  以上のように、発生抑制は、市民の意識変革とメーカーのモノづくりへの細かい配慮、そして制度面の整備、この3点が定着してくることで初めて実現できるものだと私は考えます。
 

●企業、自治体の責任−正確な情報発信

 
  最後に、これからの廃棄物対策で大きなカギになると思われる情報発信の問題について触れておきます。自治体や企業が市民に向けて如何に正確な情報を発信していくかということは、私個人としてもこれから最も携わっていきたいテーマのひとつですが、自治体も情報発信の仕方についてかなり高い関心を持つようになっています。
  例えば、分別収集の問題にしても、ただスローガンを訴えるだけで市民の納得を得られる時代はもう過ぎてしまいました。分別収集に自主的に協力してもらうためには、ただビンやカンを集めてくださいというだけでは説得力がありませんし、実際、現在では多くの市民が「どうして分別するのか」「分別するとどういう効果があるのか」「集めた後このごみはどうなるのか」という論理的な意識を持つようになっています。
  行政や企業には、こうした問いに対して明確な回答を示す責任があります。そのためには、正確な情報を出していかないといけませんし、もしそれができないと、これからの企業活動は社会的にかなり不利な状況に追い込まれることになると思います。
 

●塩ビ業界へのコンサルティング

 
  例えば、塩ビに関して言うと、現代の生活の中で塩ビが不可欠な素材であることは間違いのない事実ですが、一方で消費者団体などからは、「燃やすと有害なガスが出る」といった厳しい目が向けられています。
  こうした状況に対処するには、塩ビが生活の中で住宅、土木関係の耐久材としてたくさん使用されている事実、素材としての塩ビのよさを一般消費者に積極的に訴え、PRすることが非常に大切なものとなります。というのは、一方的な情報に対してそのまま何もしないでいると「塩ビはよくない」「塩素の入っているものは悪い」とった偏った情報が定着してしまうからです。
  そうした時に、塩ビ業界が「塩ビ製品はこれだけ環境負荷が少ない」ということを市民に納得のいく形でスッとPRできれば、社会の中に冷静な判断力を喚起することができるでしょう。塩ビが私たちの生活に役立っている状況を分野別に詳しく正確に情報発信することは、誤った認識を正すためには何よりも効果的であり必要なことだと思います。
 

 

■プロフィール 杉山 涼子(すぎやま りょうこ)
 昭和30年岐阜市生まれ。大阪大学工学部環境工学科卒。昭和56年米インディアナ大学大学院修士課程修了(生態学専攻)。同62年東京工業大学大学院博士課程修了(社会工学専攻)。英国EARA認定環境審査員。廃棄物・リサイクルコンサルタント会社勤務を経て平成8年叶剋R・栗原環境事務所を設立。世田谷区、板橋区、江東区、台東区などの廃棄物処理基本計画の策定に参画したのをはじめ、自治体を中心に環境問題のコンサルタントとして幅広く活躍中。東京農工大学非常勤講師、廃棄物学会評議員、国立公衆衛生院客員研究員などのほか、自治体が主宰する各種審議会、研究会のメンバーも多数兼任。平成5年廃棄物学会奨励賞受賞。