1998年6月 No.25
 

  産廃焼却炉からのダイオキシン測定結果

   呉羽環境(株)が自社焼却炉を使って施設全体のダイオキシン・バランスを把握

 

  「塩ビって、なに?」に代わり、今号からダイオキシン問題をテーマにした新シリーズがスタートします。塩ビとダイオキシンに関する研究データなど、貴重な最新情報を提供する特別企画。その第1回は呉羽環境株式会社(荒川信郎社長/福島県いわき市)のダイオキシン測定結果から・・。
 

● 燃え殻、排水のダイオキシン濃度も

 
  (社)全国産業廃棄物連合会の中間処理部会長をつとめる呉羽環境の荒川社長には、本誌第23号(1997年12月号)でも、厚生省令に基づくダイオキシン発生抑制のための業界自主基準について詳しくご説明いただきましたが、今回の実験はこの自主基準の有効性を呉羽環境自らの焼却炉(処理能力=1時間当たり約10トン)を使って実証するという意味が含まれています。
  実験のポイントは、規制値が定められている排ガス中のダイオキシン濃度だけでなく、燃え殻、煤塵、排水などの排出物、および焼却全工程におけるダイオキシンの量を測定して、施設全体のダイオキシン・バランスを明らかにしている点で、特に排ガス以外の排出物質中のダイオキシン濃度に関するデータが不足している現在、今回明らかになった数値は極めて貴重なものと言えます。
  焼却工程は図のとおり。燃焼温度の設定はロータリーキルンで1,100℃、2次燃焼炉(ジェットファーネス)で900℃(厚生省令の基準は800℃以上、自主基準では850℃以上)。燃焼ガスの滞留時間は7秒(1次燃焼炉で4秒、2次燃焼炉で3秒)。使用した廃棄物は廃プラ・汚泥、塩素含有廃油、医療廃棄物、アルカリ性廃液(合計6,600?/時間)で、今回は塩素含有率11.2%(塩ビ量に換算すると約20%)と、通常より塩素濃度を高めて実験しました。

 

●  煙突排ガスの濃度は0.049ナノグラム

 
  ダイオキシン濃度の測定結果を表に示します。
  表のとおり、塩ビを2割混合しても、排ガス中をはじめとするダイオキシン濃度は非常に小さな値となっています。さらに、焼却全工程からガス、灰、スラッジ、排水等の形で系外へ排出されるダイオキシンの総量は焼却物1トン当たり約1μg-TEQに抑えられています。このことから、
 ・適正焼却の3要素(高温燃焼、滞留時間、撹拌)を満たし、かつ燃焼ガスを瞬時に80℃以下まで急冷する施設であれば、塩ビが混入していても規制値の範囲内で十分に焼却できる。
 ・2次燃焼炉の出口より煙突からの排ガスのダイオキシン濃度のほうが小さくなっていることから、急冷時におけるダイオキシンの再合成はほとんど起きない。
 などが確認されました。今回の測定結果について、呉羽環境では「これが現状を代表しているとは言い切れないが、全体像は把握できたと考えている。今後同様の測定を繰り返す中で、より正確なバランスを把握していきたい」と語っており、今後の取り組みが注目されるところです。
 

●  京都大学・武田信生教授のコメント

 
  京都大学大学院工学研究科の武田信生教授は、今回の呉羽環境の実験結果を次のように評価しています。
  今回の産業廃棄物焼却炉におけるダイオキシン調査は、次の点で大きな成果を示したと言えよう。
 1.塩化ビニルなど塩素含有量が多い廃棄物を焼却対象とした場合でも、3T’s(高温、滞留時間、ガスの混合)が確保できる炉であり、排ガスが急冷されれば排ガス中のダイオキシン濃度を極めて低く抑えることができることを実証した。
 2.焼却システム全体のダイオキシン収支を明らかにし、全工程から排出されるダイオキシン量を1μg-TEQ/ton以下に抑えられたことを示した。ゴミ焼却に係るガイドラインでは、5μg-TEQ/tonを目標としているのであるから、塩素負荷量が多いこのケースでは非常に良好な結果であるということができる。