「環境とダイオキシンを考えるセミナー」から
発生抑制やリスク管理、塩ビとの関係などテーマに
内外第一人者の講師4氏が講演
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(社)産業環境管理協会主催、通産省後援による「環境とダイオキシンを考えるセミナー」が東京(有楽町朝日ホール/5月13日)と大阪(メルパルクホール/5月15日)の2会場で開催され、自治体・企業関係者や研究者、一般市民など両会場併せておよそ1,000名の参加者が環境問題を専門とする内外の第一人者の話に熱心に耳を傾けました。 |
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セミナーは、廃棄物関係者や一般の人々にダイオキシン問題への理解を深めてもらおうと開催されたもので、スウェーデン・ウメオ大学環境化学研究所のクリストファー・ラッペ教授、横浜国立大学環境科学研究センターの中西準子教授、欧州塩ビ協会のジョン・R・スバランダー専務理事、東京都立大学の平山直道名誉教授(大阪会場のみ)の4氏が、講師としてダイオキシンの発生抑制やリスク管理、さらには塩ビとダイオキシンの関係などについて最新の研究成果を披露しました。 |
ごみ組成より焼却条件が問題−ラッペ教授
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ダイオキシン問題の世界的権威であるラッペ教授は、直近の様々なデータを提示しながら、「ダイオキシンの発生源、分解、リスク」の問題について講演を行いました。
教授はまず、「ダイオキシンはごみの焼却だけでなく、山火事や木材の燃焼や国によっては自動車のディーゼル燃料からも生成される。また、生物学的にも生成されるため、牛の胃袋の内容物、下水汚泥、コンポストからもダイオキシンが検出されている」と、ダイオキシンの多様な発生源に触れた後、「焼却において塩ビの量とダイオキシンの発生量との間には相関関係はない」と、ダイオキシン問題の塩ビ主犯説を明確に否定。さらに湖のセジメント(底質)など環境中のダイオキシン濃度は、1960年代をピークに近年低下してきている。一方1960年代以降も塩ビの生産量は増加していることから、環境におけるダイオキシン汚染と塩ビとの因果関係がないことも示唆されました。その上で、「適正な燃焼条件(高温焼却、滞留時間、撹拌および排ガスの急冷)を守れば十分ダイオキシンは防止できる」と、ごみ焼却時のダイオキシン生成が、ごみの組成よりも焼却方法・技術の問題であることを強調しました。
一方、ダイオキシンの分解については、「触媒の利用や硫黄の添加など新しいダイオキシン分解技術の研究も進んでいる」ことを紹介し、ヨーロッパにおけるダイオキシンの発生量は減少傾向にあり、既にダイオキシン問題は沈静化に向かっていることを報告。また、「発ガン性を有するのは210種類もあるダイオキシン類のうち、2,3,7,8-TCDDだけで、かつ大量に暴露された場合」とリスクの問題を整理した上で、母乳のダイオキシン含有量についても「ヨーロッパの母乳中の数値は最近20年間で脂肪分1グラム当たり30ピコグラムから15ピコグラムに半減した。また、イギリスやドイツに比べて日本のほうが低い」と、状況は改善しつつあるとの見方を示しました。 |
リスク評価による冷静な対応を−中西教授
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次に、「リスク論から見るダイオキシン問題」と題して講演したのが、横浜国立大学の中西準子教授。人類と化学の関わりについて、「化学物質のリスクとベネフィットを正確に評価した上で、そのリスクを管理しつつベネフィットを生かしていくことが大切だ」という中西教授の主張は、今、学会の内外で大きな反響を呼んでいます。
今回の講演は、中西教授が主催する環境科学研究センターのリスクマネージメント研究グループによる研究結果から、日本におけるダイオキシン汚染の程度と発生源、摂取経路と摂取量、発ガンや生殖機能障害のリスク、乳児(母乳)や胎児への影響などを中心に報告を行ったもの。この中で中西教授は「我々の暴露量の測定結果では、日本人のダイオキシン汚染の状況は一般に欧州各国よりも低く、アメリカ、カナダと同程度。日本人が世界で最も暴露しているという定説は成り立たないし、発ガン性、生殖機能障害、子宮内膜症など、いずれも極端に危険な状況とは言えず、母乳についても、そのベネフィットを今すぐ捨てなければならないほど危険な状態ではない」と述べる一方、「日本人は魚からダイオキシンを摂取するケースが最も多く、1日300グラム以上の魚介類多食者は個別の考慮が必要」との認識も示しました。
その上で、ダイオキシン問題に向き合うためには、「『イエスかノーか』という二分法的な考えでは対応しきれないし、危害(ハザード)の大きさだけを大袈裟に言っても問題は解決しない。ダイオキシン削減の努力が必要であることは論をまたないが、もう少し時間をかけて検討する余地は残されている」と、正確なリスク評価に基づく冷静な対応が必要であることを強調しました。 |
誤り多い日本の欧州情報−スバランダー氏
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西欧における塩ビの法規制の現状とダイオキシン問題の変遷、業界対応の経緯などについて報告したのが欧州塩ビ協会スバランダー専務理事の講演。同氏はまず、「日本には『ヨーロッパの多くの国が塩ビの使用を法的に禁止している』という誤った情報が多い」ことを指摘した上で、「国として塩ビを禁止しているのはスイスの飲料ボトルが唯一の事例に過ぎない。しかし、これも環境問題というより経済問題としての措置であり、間もなく撤廃される見通しだ」と、最近の塩ビに対する規制の状況を総括。
一方、ダイオキシン問題の変化については、「塩ビとダイオキシンはメディアの中で結び付けられてきたが、スウェーデンで起こった塩ビ製品の工場火災による死亡事故、あるいはドイツのデュッセルドルフ空港火災による死亡事故も、死亡原因は日本で報道されているようなダイオキシンによるものではなく、一酸化炭素中毒であることが確認されている。スウェーデン環境保護局は96年に『塩ビは環境面で問題がある素材ではない』と認定した」と報告があり、ラッペ教授と同様、ヨーロッパでのダイオキシン問題は沈静化しつつあるとの見方を示しました。
同氏はまた、ヨーロッパにおける塩ビ問題発生の背景について、「塩ビが問題化したのは、業界が一般市民の関心事に鈍感で、コミュニケーションと洞察力の欠如という過ちを犯したため」として、「塩ビは塩ビだけでは発展できない。短期使用製品も少なく、医療用として日々人々の命を救っている塩ビの社会的な貢献に自信を持ち、正直、オープン、明快、前向きを基本としたコミュニケーションにより、人々の力を借りることこそ優先順位の第一に位置づけられるべきだ」と訴えました。 |
プラ高炉利用の可能性を示唆−平山教授
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廃棄物学会の第一人者である平山直道教授は、「日本における廃棄物関連技術・行政の問題点」と題して、ダイオキシン問題・廃棄物問題に関する日本の行政上の問題や、今後の技術・システム開発の方向とその課題などについて説明を行いました。
この中で平山教授は、最近の排ガス処理技術の動向について「ガイドラインの10分の1(0.01ナノグラム/N・)を目標に開発が行われており、焼却灰や飛灰の処理・有効利用についても、溶融固化技術や化学的処理、焼却灰中のダイオキシンの分解技術などの開発が進んでいる」ことなどを報告。長期的課題として、◎ダイオキシン計測の簡易化、◎廃棄物の熱分解技術の開発、◎民間活力を利用した自治体との共同処理システムの導入などを挙げたほか、現在注目を集めている塩ビを含む廃プラの高炉利用にも言及し、その可能性と有効性を示唆しました。 |
■質疑応答の概要
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