● 公的データに基づく客観的評価
|
|
塩ビ樹脂は、日用品から耐久消費材さらに建築、医療、農業など分野まで幅広く使用されて、私たちの生活に欠かすことのできない基礎素材として定着しています。また、石油40%、塩60%を原料とする塩ビは極めて省資源性が高く、石油資源の有効利用という点でもその素材としての重要性は将来的にますます高まるものと考えられます。
しかし、その一方で「塩ビは塩素を有する非環境的な樹脂である」との誤解から、他素材への代替が論じられていることも事実です。
今回の調査は、このような状況に対応して、塩ビ産業の社会的寄与度(プラスチック産業の中における塩ビ産業の位置付け)、塩ビ製品の有用性、さらにはクロール・アルカリ産業への影響度(ソーダ産業における塩ビ樹脂の位置付け)を定量的に把握することにより、塩ビの社会的貢献度を明らかにすることを目的としたもので、具体的には次の内容で調査が行われました。
1.塩ビ産業の社会的寄与度 塩ビ産業に係る雇用、製造品出荷額等を算出して、他の産業との比較を行い、塩ビ産業の生産活動の側面から社会的な寄与度の把握を行った。
2.塩ビ製品の有用性評価代表的な塩ビ製品を取上げ、製品価格、機能、市場の動向を競合素材製品と対比しつつ評価した。
3.クロール・アルカリ産業への影響度仮に、塩ビ樹脂の生産が中止された場合の苛性ソーダの需給をはじめクロール・アルカリバランスに及ぼす影響を世界レベルで試算した。さらに、塩素を併産しない苛性ソーダ製造法の評価、苛性ソーダの価格に及ぼす影響を試算してクロール・アルカリ産業に及ぼす影響の分板を行った。
調査結果の概要は以下のとおりですが、データ収集の制約から、調査対象範囲は塩ビ樹脂産業および製品の製造業に限定し、流通分野は対象外としています。また、文中の記載は省略しましたが、調査に用いた基礎数値等の資料は、不偏性、客観性を期するため可能な限り公的なものの使用を心掛けました。 |
|
1.塩ビ産業の社会的寄与度
|
|
塩ビ産業とプラスチック産業の規模の概要(表1)をみると、塩ビ産業の雇用は約10万人、その製造品出荷額は約2.8兆円であり、プラスチック産業全体の約66万人/21兆円に対して、従業者数ベースで15%、製造品出荷額ベースで約13%を占めています。
これを産業の上流部門(モノマー、レジンおよび添加剤などの製造部門)と下流部門(製品製造部門)に分けて比較してみると、塩ビ産業では従業者数の約92%(9万人)、製造品出荷額の約80%(2兆2千億円)が下流部門に属しており、プラスチック産業全体の約85%/66%に比べて、下流部門への集中が見られます。なお、塩ビ産業の上流部門は、年間投資総額で見ると塩ビ産業全体の約26%を占めており、下流部門に比べてより資本集約的であると言えます。
さらに、他のプラスチックの代表としてポリエチレン産業を取り上げ、塩ビ産業と比較してみました。ポリエチレン産業の従業者数約7.7万人、製造品出荷額約2.3兆円に対し、塩ビ産業は従業者数で約26%、製造品出荷額で約18%上回っています。
これらの結果から、塩ビ産業は相当な規模を持って産業活動を行っており、雇用、製品出荷、投資、原材料購入等を通じて大きく社会に寄与していると評価できます。 |
|
2.塩ビ製品の有用性評価
|
|
この調査では、塩ビ製品(農業用フィルム、壁紙、上・下水道管など各産業分野の代表的製品11品目)とその競合素材製品を、(1)製品価格、(2)製品の機能、(3)製品のシェア及びその推移という3つの視点から客観的に比較して塩ビ製品の利便性を定量的に評価しています。
(1)製品価格
まず製品価格については、建設物価、積算資料、日本経済新聞など公表されている資料を中心に、メーカー等へのヒヤリング調査で補足した結果、11製品中、農業用フィルム、ボトル、サッシを除く8製品について塩ビ製品が競合素材製品より安価であるという結果が得られました(図1)。
(2)製品の機能
次に製品の機能評価については、使用に際して必要とされる機能項目を選定し(農ビでは透明性、保温性、パイプでは止水性、床材では衝撃吸収性、ラップフィルムでは溶断シール性など)、これに施工・作業性、耐性・強度を加味して、一定の計算方法により評価点を算出した結果、全体としてボトル以外の全ての製品において塩ビ製品が優れていることが分かりました(図2)。
(3)製品のシェアとその推移
製品のシェアとその推移については、関達業界団体の統計資料とヒヤリングにより調査を行っています。調査対象11製品のうち、塩ビ製品はボトル、サッシを除く9製品で競合素材製品のシェアを上回っており、うち床材を除く8製品で50%以上のシェアを占めています。また、11品目のうち1990年以降塩ビ製品のシェアが伸びているものは壁紙、下水道管、サッシの3製品で、塩ビ製品は現行市場においておおむね確固とした地位を築いていると考えられます。
(4)製品価格と機能に関する総合評価
以上の製品価格、機能、製品のシェア及びその推移は、消費者の視点を反映したものであると言えます。そこで、それらのうち消費者選択の基本的要素と考えられる製品価格と機能を、一定の計算に基づいて総合的に評価してみたところ、塩ビ製品は調査対象11製品中、ボトルとサッシを除く9製品で競合素材製品より優れているとの結果が得られました(図3)。
|
|
3.クロール・アルカリ産業への影響度
|
|
塩ビはイオン交換膜法(電解法)と呼ばれる苛性ソーダの製造工程から発生する塩素を利用して作られます。言い換えれば、それ自体は有害である塩素を最も安定化できる利用法が塩ビ樹脂であるとも評価でるわけです。もし塩ビが作られなくなったら、苛性ソーダの需給をはじめとするクロール・アルカリバランスに大きな影響が出ることが予想されます。また、仮に塩素を併産しない苛性ソーダ製造法に切り替えたとしても、苛性ソーダ使用製品の価格などに様々な影響が及ぶことになります。
(1)苛性ソーダ供給量の不足
塩ビ樹脂の生産中止は塩素需要の減少、すなわち塩素の余剰につながります。世界の苛性ソーダのほとんどが電解法で製造されているため、新たな塩素需要が見込まれない現状では塩素の余剰を解消するために苛性ソーダを減産しなければならず、その供給量に大幅な不足を招くことになります。
今回の調査では、仮に世界規模で塩ビ樹脂の生産が中止された場合、世界の苛性ソーダ総生産量4032万トンの約37%に当たる1479万トンが減産を余儀なくされ、クロール・アルカリバランスは大きく崩れることが分かりました。日本において同−比率で減産された場合、128万トンの苛性ソーダが不足することになります(苛性ソーダ内需量347万トン:1994年度)。
(2)苛性ソーダ製法代替による影響
塩ビ樹脂の生産中止に伴って、塩素を併産しない苛性ソーダ製造方法に転換した場合、どのような影響が出てくるでしょうか。現在、塩素を併産しない苛性ソーダの製造法として唯一工業的に技術が確立している石灰ソーダ法を取り上げて分析してみました。
苛性ソーダは紙・パルプをはじめ化学繊維、石鹸・洗剤など様々な製品の原料となるほか、多くの工程で用いられる基礎素材ですが、石灰ソーダ法により苛性ソーダを製造した場合の製造原価は、表2に示す通り、イオン交換膜法を用いた場合に比べて約2倍、トン当たり2.4万円もはねあがります。この結果、苛性ソーダの平均単価はトン当たり0.88万円上昇し、苛性ソーダ購入費用の年間増加額は全世界では3548億円、日本だけで305億円にも達することとなります。
また、イオン交換膜法から石灰ソーダ法への製法代替に必要な投資金額は、表2の設備投資額から世界全体で7395億円、日本では706億円と算定されます。
|
|
■調査結果のポイント
|
|
1. 塩ビ産業の従業者数は約10万人、製造品出荷額は約2.8兆円であり、雇用、生産、投資、原材料購入といった活動を通して社会に大きく寄与している。
2. 塩ビ製品の多くは価格、機能の面において競合素材より優れており、またそれぞれの市場において安定した高いシェアを維持している製品が多い。すなわち、塩ビ製品の多くは消費者の支持を得ており、塩ビ製品の競合素材製品への代替は多くの場合消費者の便益を損なうものと考えられる。
3.塩ビ樹脂の生産中止は世界のクロール・アルカリバランスを崩し、全世界に約1,500万トンの苛性ソーダの需要遍迫をもたらす。この対策として塩素を併産しない方法で、苛性ソーダ生産を行った場合、苛性ソーダ価格は少なく見積もっても世界的に約1万円/トン増加する。それは多様な苛性ソーダ使用製品の価格上昇につながる。
|