1997年3月 No.20
 

PVC News』発刊20号を記念して特別講演会開催

 テーマは「ドイツ及び日本の廃棄物政策と企業の対応」

講師 松田美夜子さん

  本誌の発刊20号を記念する特別講演会『ドイツ及び日本の廃棄物政策と企業の対応』が、2月19日午後3時から、リサイクルシステム研究家・松田美夜子さんを講師に招き、塩化ビニル工業協会の会議室で開催されました。この日は、講演の後に塩ビ関係者との意見交換なども行われ、両者の情報交換と懇親という意味でも大きな収穫となりました。
 

● ドイツにおける産廃処理の現状を報告

 
  評論家的な視点ではなく、市民代表の実践家としての立場から積極的にごみ問題の討議に参画し、果敢な発言を続けておられる松田美夜子さん。本誌にご登場いただくのはこれが2回目で、平成8年3月号の<有識者に聞くK>では、容器包装リサイクル法の見通しについて「法律がスタートする前からあれこれアラ探しをするよりも、まず法律を動かしてみてから問題点をチェックしていこう」というご意見が読者の好評を集め、このことが、今回改めて20号記念の講演をお願いするキッカケとなりました。
  松田さんは、講演の冒頭、「今春予定の産業廃棄物に関する法改正の検討に参加していることから、
 昨年暮れにドイツを訪れ現状を視察してきた。化学には素人だが、自分がこの目で見てきたことに基づいてできるだけ正確に事実をお話ししたい」と断った上で、ドイツにおける産業廃棄物処理行政と企業の対応状況、および日本の企業が今後取り組むべき方向などについて、およそ1時間半にわたり報告を行いました。

 

● 進む企業対応、『循環経済法』背景に

 
  お話によれば、ドイツでは1994年9月23日に連邦共和国憲法第20条として環境保護の条文が加筆された後、「天然資源の節約」を目的とした『リサイクル経済促進・廃棄物無公害処分確保法』(循環経済法)の制定(同年9月)、同法の施行(1996年10月)という流れを背景に、「“ゆりかごから墓場まで”製品に責任を持つ」という企業の取り組みが急速に進んでいるといいます。
  『循環経済法』はドイツの環境基本法に当たるもので、今後製品別に個別の規制令が作られていくことになっていますが、1991年には先行して『包装廃棄物規制令』が制定され、DSDの活動などさまざまな成果を挙げていることは、本号の<海外事例紹介>の頁でもご紹介しているとおり。
  また、『包装廃棄物規制令』に続いて施行を間近に控えているものとしては、『自動車リサイクル令』『電子機器リサイクル令』『ダイオキシン規制令』などがあり、このほか、将来は『乾電池リサイクル令』『紙おむつリサイクル令』『新聞紙リサイクル令』などまで予定に上がっているとのことです。 このうち、自動車業界では既に1996年2月1日から自主規制に基づいた取り組みがスタートしているほか、コンピュータ業界でもまもなく自主規制が実施される予定で、一部のメーカーでは製品のすべての部品を再び部品か原料にもどして再利用し、プラスチック部品は複合素材を見直してリサイクルしやすい単一素材化を進めるといった動きが出始めています。
 

● ジーメンス・ニクスドルフ社の取り組み

 
  松田さんが今回モデルケースとして視察された、デュッセルドルフ近郊のジーメンス・ニクスドルフ社(ジーメンス社系列のコンピュータメーカー)では、94年の『循環経済法』成立を背景にリサイクル技術の研究に着手し、設計の中に循環経済の考え方を組み込んですべての機種を分解しやすい設計に変更するとともに、ミックスプラスチックの使用を避け、バージン素材の使用量を少なくして循環させていくシステムを完成させています。
  具体的には、コンピュータの使用形態を、ファーストユース(企業など最先端の技術を必要とする場合)、セミプロ用、ホビー用に3区分して、@新品の商品はファーストユースに提供し、Aセミプロ用とBホビー用は中古品を回収・修繕した後、販売価格を下げて提供する、C修繕してもリユースが難しい場合は部品使用に回す、Dそれも無理になった場合は原料リサイクルに戻してバージン素材と混合して再利用する、というようにひとつの商品を5段階に分けて使用していくやり方で、最終的には、コンピュータの基盤に使われているチップまでも手作業で取り出し、再利用するものと原料リサイクルするものに分別されています。
  こうした取り組みの結果、「同社ではユーザーから回収した使用済みコンピュータ5383トンのうち、17.1%をリユース、69.1%をマテリアルリサイクルしており、どうしてもごみとして排出されるのは13.8%(740トン)に過ぎない」とのことです。
 

● 『人間のクオリティ』を今年のテーマに

 
  こうした事例を紹介した後、松田さんは「日本が環境対策で国際競争に負けてしまわないか私は気が気でない。気がついたらヨーロッパに輸出できなくなっていたなとどいう事態を防ぐためにも、日本の企業も早急に廃棄物処理・リサイクルの分野に力を入れてほしい」と企業の真剣な対応を要請する一方、「ドイツでは企業の環境対策を支援するため、公共機関はリサイクルなどで一定の条件を満たした企業だけから製品を購入する政策を検討している。日本も役所の機器納入の入札基準の中にコストだけではなく環境への配慮も組み入れるべきだ」と、行政側の問題点も指摘。
  また、ダイオキシンの問題を例に「何兆分の1といった数値にまでキリキリする側にも問題はあるが、ただ安全だけを繰り返す企業側にも問題はある。企業と市民との情報交換により間違った情報を正し、危険性と安心のバランスの問題を社会全体で議論して、皆でごみの少ない国家にしていきたい」として、企業と市民との情報交換の重要性を訴えました。
  最後に松田さんは、「私は『人間のクオリティ』を今年のテーマにしたい。少々高くてもエコ商品を買うといった環境マインドを持つクオリティの高い人々が育つように、企業の皆さんも、組織を離れて個人個人のライフスタイルを改革してほしい。“ビールはびんで、買い物は自分の買い物袋で”というのが私のお願いです」と語り、講演を締めくくりました。