1996年12月 No.19
 
 

 (株)荏原製作所の「流動床式ガス化溶融炉」
   ダイオキシン対策からマテリアルリサイクルまで視野に入れた注目のごみ処理システム

 

    都市ごみ焼却時のダイオキシン発生にはごみ中のあらゆる塩素源が関係しますが、塩素系プラスチックだけをその元凶と見なす誤った認識が一人歩きしている現在、ダイオキシンに対応した処理システムの確立は塩ビ業界にとっても最大の関心事と言えます。今回は、焼却炉メーカーの大手・荏原(本社=東京都大田区羽田旭町11−1)が開発を進める流動床式ガス化溶融炉(TIFG型溶融炉)を例に、焼却炉に代わる“21世紀の科学技術”として脚光を浴びるガス化溶融システムの最先端事情を取材してみました。  

「次世代型ごみ処理技術」のモデル施設

  ガス化溶融システムとは、ごみを熱分解してガス化し、その排ガスを高温で焼却することによってダイオキシンの分解と焼却灰の溶融スラグ化(固化)を行う「次世代型ごみ処理技術」のひとつ。有害な重金属の安定化、埋立地の限界に対応した焼却灰の減容化という意味でも、その実用化には大きな期待がかけられています。
  荏原の大谷浩一環境プラント事業部副事業部長によれば、理想的な次世代型ごみ処理技術には、1.将来予想されるダイオキシン規制強化(1Nm3当たり0.1ng以下。1ngは10億分の1グラム)に対応できること、2.焼却灰を低コストで溶融無害化できること、3.熱エネルギーを高効率で回収できること、4.ごみ中の有価金属を回収してマテリアルリサイクルできること、5.建設コスト・建設スペースの低減、という5つの条件を満たすことが要求されます。
  TIFG型溶融炉の開発動向にいま関係業界や自治体から注目が集まっているのも、このシステムがダイオキシン対策からマテリアルリサイクルまでを視野に入れた、次世代型ごみ処理技術のモデル施設であるからにほかなりません。

 

■ 1300℃の高温でダイオキシンを分解

  TIFG型溶融炉は、荏原の焼却技術のベースである旋回流動床炉(加熱した砂の中に直接ごみを入れて短時間で旋回燃焼させるシステム)の原理を応用したガス化炉と、もともとは汚泥処理用に開発された旋回溶融炉の改良型を組み合わせた構造になっており、従来からあるガス化炉と溶融炉の一体型ではなく、両者を分離したことでより効率的な高温処理を可能にしています。
  処理工程はフロー図に示したとおりで、ガス化炉に投入されたごみは450℃〜550℃の低温でガスとタール、さらにチャーと呼ばれる炭素成分に熱分解された後、溶融炉において1300℃〜1400℃の高温でダイオキシンの完全分解と灰の溶融スラグ化が行われ、重金属の90%がスラグの中に封じ込められます。次に廃熱ボイラーで熱エネルギーを回収した後、冷却工程を経て、バグフィルターで最終的な排ガス処理(消石灰による乾式洗浄)と、溶融炉で処理しきれなかった重金属を含む溶融飛灰の捕集が行われるという仕組みです。

■ 「5つの条件」に対応する様々な特長

 
  ここでTIFG型溶融炉の主な特長を整理してみます。
  ・砂の旋回流動により不燃物が排出されるためごみの選別が不要。
  ・低温下でガス化が行われるため、鉄、銅、アルミなどの有価金属を未酸化かつクリーンな状態で回収できる。
  ・高温でダイオキシンを完全分解するとともに、排ガスの冷却時に起こりやすいダイオキシンの再合成も、触媒となる重金属を溶融することで抑制できる。
  ・不燃物や有価金属をあらかじめ回収しているため、溶融炉の温度を必要以上の高温にすることなく、低コストで灰の溶融ができる。
  ・ボイラー効率の向上と自己消費電力の低減で従来の焼却+電気溶融に比べて発電量(送電端効率)が大幅アップ。
  ・排ガスが少なく設備の建設コストが低減できる。
  このほか、溶融飛灰の中に含まれる塩化亜鉛や塩化鉛などの塩化金属を非鉄メーカーへ還元してリサイクルする計画も進められているとのことですが、以上を見れば、TIFG型溶融炉の性能が次世代型ごみ処理技術の5つの条件に見事に対応していることが分かります。

   

■ キ−ワ−ドは低空気比運転による高温燃焼

 
  こうした数々の特長を可能にしている技術的なポイントについて、大谷副事業部長は「低空気比運転による高温燃焼がこのシステムのキ−ワ−ド」と説明しています。TIFG型溶融炉では空気過剰率1.3というごく少量の空気でガス化が行われており、このことがシステム全体に大きなメリットを生み出しているのです。
  「低空気比で運転することによって排ガス量が少なくなり高温燃焼が達成できる。高温燃焼が達成できればダイオキシンも分解するし、ごみ自体も余計な電力を使わずに溶融し、そのことが外に出す電気の量(送電端効率)を増やす結果につながる。ボイラーの熱効率を上げられるのも低空気比運転によるものだし、全体の排ガスが少ないために設備もコンパクトになって低コストが実現できる」。
  また、ダイオキシンを再合成する触媒であるCuCl2の発生(一般の焼却では銅と酸素が反応してCuOが発生し、これが塩化水素と結びついてCuCl2を生成)も、低空気比運転と高温燃焼よって確実に抑制できるとのことです。

 

■ 都市ごみ中の塩ビも問題なく処理

 
  気になる塩ビの処理について大谷副事業部長は、「塩素系のプラスチックを含まなくとも、都市ごみを燃やせば必ず塩化水素は出る。塩ビが混ざることでその量が多少増えたとしてもppmの世界のことであって、その差にはっきりした有意性があるとは考えられない。ダイオキシン対策のために塩ビを除けばいいといのは近視眼的であり、ダイオキシンの発生は焼却温度や滞留時間といった燃焼条件をクリアすることでしか抑制できない」とした上で、炉の腐食についても「基本的に温度コントロールの問題で塩化水素の濃度の違いによる差はあまり重視していないし、塩ビだけを悪者にする意見には同調できない」と話しています。
  既に千葉県の袖ケ浦で1年間の試運転を終了しいるTIFG型溶融炉。来年6月からはいよいよ日量20トン規模の実証運転が藤沢市で開始される予定となっていまいす。