1996年6月 No.17
 
RDF(固形燃料)発電の研究現場から

  塩ビ混入都市ごみでも30%の高効率発電が可能、最新の研究成果に注目

 

 名古屋大学工学部教授 森 滋勝

●リサイクル技術の産業化めざすIM研究会

 
   昨年6月、インバース・マニュファクチャリング・システム研究会(IM研)という組織が名古屋市に設立されました。これは廃棄物のリサイクル技術の産業化を目的に市の商工部の主導で結成されたもので、会長は名古屋大学の架谷昌信工学部長、座長は私が務めています。
   この団体の理念は、設計→生産→販売→消費→廃棄という従来の生産プロセスの順工程に、再製品化、再エネルギー化といった逆(インバース)の工程を組み込んだ、新しい生産システムを確立することにあります。つまり、現在バラバラに行っているリサイクルの研究をひとつのイデオロギーの下に統一することで、東海地区に集積している技術力を生かし、資源循環型の社会への転換をめざそうということです。
  現在、大学や研究機関、企業、経済団体など70近いメンバーが参加して、技術情報の交換を中心に活動を進めていますが、環境行政という意味ではなく、新しいリサイクル産業の育成を目的とした自治体の取り組みとしては、おそらく、全国でも唯一の事例ではないかと思います。
 

●塩化水素を抑え蒸気温度を500℃に

 
  私が現在取り組んでいる一般都市ごみのRDF発電の研究も、最終的にはこの動きと歩調を合わせたものと言えます。この研究は、三重県が新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)の委託で進めているRDFの実験に協力する形で進めているもので、発電効率の向上を実現する技術の確立が研究のテーマです。
  ご承知のとおり、一般都市ごみの発電効率は一般に13%程度と低く、これが技術上最大のネックとなっています。効率が低いのは、焼却すると塩化水素ガスの発生によりボイラーチューブの腐食などが進むため蒸気温度を300℃程度までしか上げられないことが原因です。研究の結果、850℃以上の高温で燃やしても、塩化水素ガスの発生を抑えて、蒸気温度500℃、発電効率30%の高効率発電が達成できる可能性が裏付けられました。
 

●RDF中の石灰が塩化水素を補給

 
   そのカギとなるのが、防臭や腐敗防止のために予めRDFに添加しておいた石灰の働きです。我々の実験では、高温で燃やしてもほとんどの塩化水素はガス化する前にRDF中の石灰と反応して塩化カルシウムとして捕捉され、実際に炉の中に出てくるのは10%以下に過ぎません。また、ダイオキシンの発生も国のガイドラインより遥かに低くなっています。
   これには実験に用いた流動床炉も関係しているようです。つまり、一挙に高温処理するタイプの炉と違って、燃焼速度の比較的緩やかな流動床炉の場合、RDFの温度が上昇する過程で塩化水素と石灰が最も反応しやすい温度帯を通過するためではないかとも考えられるわけです。
   これは固定概念を覆す思いがけない結果でした。この結果を応用すれば、石灰の添加量を調節することで30%の発電効率は十分に実現可能だと言えるでしょう。
   現在までのところ、以上のような基本的なメカニズムはほぼ解明できていますが、まだ研究しなければならない問題ものこされています。例えば、流動床炉以外の炉で燃やした場合はどうなるのかといった点も、もう少しはっきりさせる必要があります。
 

●塩ビが入っても高効率発電は可能

 
  ところで、実験に用いた都市ごみには、当然塩ビや食塩の滓など塩素系のごみも含まれています。混入率は分析していませんが、その量はごく平均的なレベルと考えていいでしょう。つまり、今ご説明した研究成果からみると、例えRDFの中に塩素系のプラスチックが混ざっていても高効率発電を行う上で大きな問題はないということができるわけです。従って、わざわざ事前に塩ビを除去したりする必要はないし、発熱エネルギーという点でも、最高の燃料源であるプラスチックが入っているほうが望ましい。下手に分別したりするのは却って発電の妨げになりかねません。
  いずれにしても、30%の発電効率が達成できれば、廃プラの処理という点では、手数がかかりコスト面で問題のある油化以上にRDFは有望だと思います。一方、小さな焼却炉しかなく管理に手を焼いている中小の自治体にとっては、輸送と貯蔵が自在であるRDFを製造して、これを1カ所に集めて発電に利用する。一種のエネルギーセンター構想のほうが、焼却工場を建設するよりはふさわしいと言えるでしょう。
 

●廃プラと金属屑を複合した新素材

 
  廃プラのリサイクルに関してもうひとつの取り組んでいるのは、金属屑と廃プラで新しい複合材を作る研究です。これは、粉砕した金属粒子の表面にプラスチックをコーティングして、その焼結体を作る技術を、原理はそう難しいものではありません。
  金属屑と廃プラのパウダーを電磁誘導加熱すると、非導電体のプラスチックは変化しませんが、導電体である金属の温度は急速に上昇して、その表面に融けたプラスチックがコーティングされます。この粒子の圧縮加熱することで強度の高い焼結体ができるという仕組みです。
  この技術の利点は、圧縮加熱の度合いを調節することで硬度が調整できることと、金属を完全に均一に分散できることで、廃プラは塩ビやポリエチレンなどで実験してみましたが、金属のほうは銅でも鉄でも構いません。用途としては床材、シート、ボードなどが考えられますが、今年は成型試験をやって製造コストや装置費などのデータを取ってみようと計画しています。
 

●廃棄まで考えモノづくりの研究を

 
  以上のように、RDFにしろ複合材にしろ塩ビのリサイクルにはいろいろな可能性があります。以前この欄に登場された有職者の方も指摘されているように、塩ビは塩素の固定源として重要な役割を持っていますが、私の考えではそのことだけ主張しても社会に受け入れられません。一方、市民の側も塩化水素が出るから塩ビはダメだといった議論では説得力がない。そこには冷静な議論が必要です。何より塩ビメーカー自らが廃棄まで含めたモノづくりを、広い視点で研究していってほしいと思います。
 

 

■プロフィール もり しげかつ
  昭和17年生まれ。滋賀県出身。工学博士。昭和40年名古屋大学工学部卒。45年に同大工学部鉄鋼工学科助手となり、48年8月から50年1月まで米国ウエストバージニア大学にて研修。平成5年4月より工学部分子化学工学科教授に就任し、現在に至る。平成5年6月から6年4月までは名古屋工業大学の機械工学科の教授も併任。