1996年3月 No.16
 

 米ケムシステム社の調査結果から

  クロル・アルカリ工業における塩ビの位置付け、貢献度を具体的に分析

 

    塩ビは生活資材というだけでなく、塩素の固定源としても大きな役割を果たしています。クロル・アルカリ工業(塩素や苛性ソーダなどの製造)におけるそんな塩ビの位置付け、貢献度を、塩ビのLCA調査(平成7年9月号)に続き、米国の調査会社ケム・システム社が調査しました。  

 

塩素を安定的に固定する塩ビの役割

  塩ビは、塩を電気分解して苛性ソーダを製造する過程で出る塩素を原料に作られます(約6割が塩素。残りの4割は石油)。言い換えれば、塩ビはそれ自体は有害である塩素を安定的に固定化し有効利用するという役割を担っているわけで、「苛性ソーダの需要がある限り塩素の始末として塩ビは必要」(石谷久東大教授)という評価も少なくありません。
  今回まとめられたケムシステム社の調査は、こうしたクロル・アルカリ工業における塩ビの位置付け、貢献度を具体的に明らかにしようとするもので、次の4つのテーマで分析が行われました。
  • 塩ビ樹脂を他の素材で代替した場合、塩ビ向け塩素需要を他の用途に置き換えることは可能か
  • 苛性ソーダの需要を他のアルカリ源で補うことは可能か
  • 塩素の出ない苛性ソーダの生産法は可能か
  • 塩ビ製品を他の素材で代替した場合のコスト分析

 

塩ビの塩素需要を他の用途に換えられるか

  1992年現在、塩ビ樹脂に使われる塩素は全塩素需要の32%(144万8千トン)を占め、その量は今後も堅調に伸びていくことが予想されます。
  一方、溶剤、漂白剤、水処理、チタン原料などの塩ビ樹脂以外の塩素需要は、他の製品の代替により多くが減少ないしは横這いの傾向にあり、2010年までの予測でも約14万4千トン(年率0.25%)程度の伸びしか期待できません。
  日本における塩素需要は、塩ビの堅調な伸びが他のマイナス分を吸収しているというのが実態で、もし塩ビが他の素材に代替され使われなくなった場合、144万8千トンという大量の余剰塩素を他の用途で吸収することは困難と考えられます。
 

 

苛性ソーダの需要を他の物質で補えるか

  塩ビが固定化している塩素を他の用途に置き換えることが難しい以上、なおも塩ビを使わないようにするとすれば、その分だけ、苛性ソーダの生産を減らすか、苛性ソーダ以外のアルカリ源で補う以外に方法はありません。
  しかし、計算では塩ビの生産停止に伴う苛性ソーダの減産量は113万6千トン(総需要350万9千トンの32%)に達し、苛性ソーダを利用する化学繊維、パルプ、油脂(石鹸・洗剤)、染色、薬品などの産業は、需給の逼迫による価格上昇と国際競争力の低下に見舞われて、多大な社会的、経済的影響が避けられません。
  一方、苛性ソーダ以外のアルカリ源としては石灰、消石灰、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ソーダ灰等が考えられますが、もしこれらによる代替が全部実現し得たとしても、苛性ソーダの減産分をカバーすることは不可能と推定されます。

 

塩素の出ない苛性ソーダの生産法は可能か

  では、現在の食塩電解法に代わる塩素の併産を伴わない苛性ソーダの生産法は可能でしょうか。
  可能性としては石灰法ソーダ、ソーダ灰電解法、ボウ硝電解法、電気透析法などの利用が考えられますが、石灰法ソーダの場合、キログラム当たりの製造コストは輸入ソーダ灰を利用した場合でも食塩電解法の2.3倍(国産ソーダ灰を利用した場合は3.9倍)、同様にソーダ灰電解法も25.5円/kg(全体で約290億円)の負担増となり経済性の面で難点となります。
  また、原料入手が容易なボウ硝電解法や電気透析法も、電力消費や有害物質の排出といった環境負荷の観点から大きな問題を抱えており、現在の日本で、社会的、経済的、また環境面での負担なしに塩素の出ない苛性ソーダの生産法を実行に移すことは難しいと考えなければなりません。

 

塩ビ代替製品のコスト分析

  塩ビは経済性、利便性、省エネ効果(他のプラスチックに比べて石油の消費が少ない)など多くの優れた特性を持っており、その特性を生かしてフィルム、シート、ボトル、建築資材などさまざまな分野で利用されています。
  これらを他の素材で代替することは不可能ではありませんが、その場合、各用途で大幅なコスト増となる上、塩ビの持つさまざまな特性も犠牲にしなければなりません。別表のデータからは、塩ビ管をコンクリート管で代替した場合に若干のコスト低減が期待できますが、これは今回の調査ではコスト計算を原材料費、ユーティリティ費、人件費のみに基づいて行っているためです。販売・管理費、流通経費、現場での施工費等を考えると、この差は逆転すると考えられます。

 

ま と め

  以上を総括合すれば、もし塩ビを使用しないとすると、塩素・苛性ソーダの需要面でコスト増につながるほか、環境面での影響も予想されます。さらに、塩ビ製品を他の製品で代替してもコストの問題が残ります。従って、塩ビの問題を考えるには、これらの負担増を経済的、社会的に、また環境面でどう再配分するかという視点が最も重要であり、使用を止めれば解決するというものではないと言えます。