1995年12月 No.15
 

   塩ビ系衣料―塩ビファッションの変遷 

 

  今年のアパレル業界の話題のひとつに、塩ビフィルムを素材に用いた透明ファッションの流行が挙げられます。硬軟自在でデザインしやすく、透明性や加工性、耐候性に優れる塩ビは、ファッションの世界でも意外に多くのヒット商品を生み出してきたのです。
 

●  ファッションこそ塩ビのルーツ

 
  透明ファッションの流行は、若い女性たちのプロポーションの向上や自立志向の高まりと深い関係があるとか。ブラウスやTシャツに塩ビ製の透明なブルゾンやコートを重ね着して、思いっきり中身を見せて開放感を楽しむという発想は、いかにも現代女性の大胆さを表しているように見えます。
  もっとも、女性たちが自己表現の素材として塩ビに注目したのは今回が初めてというわけではありません。ファッションこそ実は塩ビの重要なルーツのひとつ。女性と塩ビの組み合わせは、ある意味でごく自然な成り行きとも言えるのです。

 

●  懐かしの「ヘップバーンサンダル」も

 
  そもそも日本における塩ビ製品の普及はファッションとともに始まったと言えます。終戦直後、進駐軍の家族を通じて日本に紹介された様々な塩ビ製品は、大半がレインコートやハンドバッグといったファッション関係の品々で、その色彩の華やかさと高級感は、敗戦という荒んだ世相の中で忽ち世の女性たちを魅了していきました。
  その後、昭和20年代の中頃から日本でも塩ビファッションの開発が進み、30年代〜40年代にかけて最盛期を迎えます。主なものだけを挙げても、レインコートや和装コート、スポーツウェアなどのほか、多彩なデザインで台所に彩りを添えたサロン前掛け、輸出品としても人気の高かったジャケットやジャンパーなど多種多様な塩ビウェアが登場。特に、レインコートは最も初期に国産化された塩ビ製品のひとつで、軽量で完全防水という長所もあって、一時は紳士用、子供用を含め70%のシェアを持つモンスター商品となりました。
  塩ビ製の帽子やバッグ類、ケミカルシューズといった周辺グッズの開発も賑やかで、昭和30年ごろ一世を風靡した懐かしのヘップバーンサンダルも忘れ難いヒット商品。また、40年代にはファッションの洋風化に伴って塩ビ繊維を利用した洋髪かつらもブームとなり、それまでの人毛に代わる安価で良質な装身具として女性の人気を集めました。
 

●  塩ビを着こなす女性たち

 
  そして現代。透明衣類とともに塩ビは再びファッションの世界に戻ってきました。最近では、透明衣類のほかにも、保温性の高いパンティーストッキングや汗のベタつきを抑えるゴルフシャツなど、塩ビファッションはまた新たなバリエーションを生み出しているようです。さて、21世紀の女性たちは、いったいどんな発想で塩ビを着こなしてくれるのでしょうか?。