2019年3月 No.106
 

特集 容器包装とプラスチック

回の特集は、健康で衛生的な生活に貢献するプラスチック容器包装の世界がテーマ。その前段として、まずは15年ぶりの大改正となった改正食品衛生法(平成30年6月公布)に注目します。主要な改正項目の中にはHACCPの制度化や健康食品の規制強化なども含まれますが、プラスチック業界にとって最大の関心事は、食品用容器包装の安全確保のために導入されるポジティブリスト制度の問題。施行期限が近づく中で、この大きな変化に業界はどう備えればいいのか。制度の枠組みとリスト化の方針、業界への要望などを、厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課の吉田易範課長に伺いました。

改正食品衛生法、施行まで1年あまり
どうなる?食品容器包装のポジティブリスト制度 厚生労働省食品基準審査課長 吉田 易範 氏

●国際整合性の確保へ

─はじめに、ポジティブリスト制導入までの経緯をお聞かせください。

 ポジティブリスト制度の導入については、平成24年7月に設置された有識者検討会(食品用器具及び容器包装の規制のあり方に係る検討会)から議論がスタートしており、昨年6月に改正法が成立するまで、まる6年という長い時間が費やされています。
 日本は、食品用容器包装の衛生規制について、これまでは問題のある物質をリスト化して規制するネガティブリスト制度を採用してきました。これに対して欧米では、予め安全性が確認された物質だけをリスト化して使用可能とするポジティブリスト制度が定着しており、その流れは中国などのアジア諸国、南米諸国にも広がりつつあります。
 従って、ポジティブリスト制度への移行は、国際整合性を図るためにも我が国に求められていたことで、ビジネスの観点から見ても、「ポジティブリストのほうが仕事がしやすい」という声が関係業界から上がっていました。また、一般消費者にとっても、予め安全性を確認できたものしか使われていないということは非常に安心感のある制度であり、導入への期待が高まっていました。

●健康被害防止に対する迅速なリスク管理が可能に

―ポジティブリスト制度を導入することでどんな効果が生まれるのでしょうか。

 最も重要なのは、健康被害防止に対する迅速なリスク管理が可能になる、ということです。
 ネガティブリストというのは、リストで規制されているもの以外は何でも使える、一種のブラックボックス状態なので、何か新たな問題が起きたとき、原因物質を特定するのは容易ではありません。対して、ポジティブリストの場合は、使われている物質がはっきりしているので、その中の何が原因なのかすぐに特定できて、迅速なリスク管理が可能になるわけです。
 新制度が導入されると、原則として新しい物質の使用は禁止されます。容器の原材料メーカーなどが新しい添加剤を開発したときは、食品安全委員会でちゃんとリスク評価をして、安全性が確認されたものしか使えないということになります。
 リスク評価は、食品中に容器から溶出してきた物質が健康被害を及ぼすかどうか、どれだけの量が溶出すると危険なのか、その程度に応じて評価します。

国際整合的な食品用器具・容器包装の衛星規制の整備 「合成樹脂」のポジティブリスト制度の対象範囲 ポジティブリスト制度において管理する物質

厚生労働省「食品衛生法等の一部を改正する法律の概要」から

●まずは合成樹脂の容器包装から

―具体的な制度の中身はどうなるのでしょうか。法律の施行に向けて政省令のとりまとめが進んでいるとのことですが。

 2020年の6月が施行のリミットになっていますので、現在大車輪で作業を進めているところです。政省令等は、制度の枠組みを定めるものと、リストに収載する物質の種類を定めるものと、二段階に分けて出していくことになっています。
 まず大枠として、どういう容器包装を規制の対象にしていくかということですが、これについては紙とか金属といったものは当面措いておいて、まずは合成樹脂の容器包装から初めて、少しずつ対象を広げていこうと考えています。但し、合成樹脂も熱可塑性と熱硬化性に分けられますが、その中で熱硬化性のエラストマーであるゴムだけは、ちょっと異質なので除外する方向です(上の表参照)。
 対象となる容器包装の製造事業者には、自社の製品がポジティブリストに適合した原材料であることを確認する義務が課せられることになりますが、これについては、製造事業者に対する製造管理規範(GMP)というものを定めることになっていますので、それに則って、しっかり製造管理、品質管理をやってくださいというということです。

●容器包装メーカーには情報伝達の義務

 それと、容器包装の製造業者には、この製品はポジティブリストに適合しているということを川下の食品メーカーに伝えてもらわなければなりません。どういう情報をどういう方法で伝えるかは省令でルールを定めますが、製造業者はそれに従って、原料の分析データなど必要な情報を伝えてもらうことになります。
 ただ、すべての分析データを伝えなければいけない、とまでは規制しません。企業秘密に関わる部分もあるでしょうし、さすがにそこまで義務づける必要もないだろうと我々も思っています。
 大事なのは、製品の原料がリストに適合していることを川下がきちんと確認できること、そして、それを確認した記録をしっかり残しておく、ということです。

●使用中の物質は原則新リストに

―リストに掲載される物質はどんな方法で決めていくのですか。

 来年6月の施行までに使えるものをすべてリスト化して、円滑に制度を移行していかなければいけないということもあり、基本的には、既に今使われている物質は新しいポジティブリストに収載するという方向で作業を進めています。熱可塑性の樹脂については、いわゆる三衛協(ポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会、塩化ビニリデン衛生協議会)による業界自主基準が設けられていますので、この基準の内容も参考にしたいと思っています。
 また、米国食品医薬品庁(FDA)や欧州食品安全機関(EFSA)などのポジティブリストで認められているものを使っている場合も、よほどの問題がない限り収載していく方向です。
 ただ、それらの物質についても原則として食品安全委員会によるリスク評価を受けなければなりません。出来るだけ簡易かつ合理的な方法で評価していただきたいとは考えていますが、評価の課程で、自主基準では適合とされていた物質に問題があると分かった場合は、どうしても制限しなければならないという場合も出てくるかもしれません。その場合には、できるだけ影響が出ないように配慮したいとは思いますが、改めて業界と調整しながら検討したいと考えています。
 それと、リスク評価の際に、日本で開発された日本オリジナルの物質も出てくる可能性があります。その場合は、その物質を開発した原材料メーカーに、安全性とか溶出量などのデータ提供をお願いしたいと思っています。食品安全委員会による評価の状況によっては、取りあえず収載した上で、事後的にデータを出してもらうこともあるかもしれません。
 原材料メーカーは食品衛生法の管轄に入らないので、あくまで協力を要請するという形になりますが、そのへんが今後の課題かなと思っています。

器具・容器包装の製造の流れと情報伝達

厚生労働省「食品衛生法等の一部を改正する法律の概要」から

●今年末にリストの最終形を告示

―施行までのスケジュールを教えてください。

 先に申し上げたとおり、対象となる容器の種類や製造管理規範(GMP)の内容、情報伝達の方法といった大きな枠組みについては、今年の上半期中にパブコメ、WTO通報して政省令を交布する予定です。肝心のリストの中身については、7月以降の予定になっていますが、施行に間に合わせるには1年前がギリギリと考えられますので、少し前倒しして、6、7月ごろまでにはパブコメ、WTO通報する目標で作業を進めています。パブコメには相当数の意見が寄せられるでしょうが、食品安全委員会とも調整して、今年末にはリストの最終形を告示したいと思っています。
 ちなみにリストの記載は、樹脂の種類ごとでなく、その特性(耐油性や耐水性など)や使用実態(消費の大小など)を踏まえて、7〜8つ程度にグループ化したいと考えています。マイナーな樹脂もたくさんありますので、例えばグループ5なら、そのグループの添加剤の種類を示した上で、それぞれの添加量の条件を示すといった形の、マトリックス表のようなものをイメージしています。
 今回の改正は関係業界にとっても大きな変化だと思います。我々も制度の円滑な施行を精一杯心がけたいと考えていますので、繰り返しになりますが、新たな問題が出てきた場合のデータ提供などに関して、よろしくご協力をお願いしたいと思います。

改正食品衛星法施工スケジュール