2018年11月 No.105
 

潟^イボー 平野二十四社長に聞く、
プラスチックリサイクルの現状

広がるリサイクル・チャンス。「利用者目線」に立って
「潜在製品市場」の掘り起こしを急げ

潟^イボー
レザー、ホース、床材、壁紙etc.タイボーが手がけるリサイクル材のサンプルの一部。その多様さからリサイクルにかける意気込みが伝わってくる。

 今回の「リサイクルの現場から」は特別企画のトップインタビューです。ご登場いただくのは、プラスチックのマテリアルリサイクルをリードする潟^イボーの平野二十四(かずとよ)社長。リサイクルの現場を最もよく知る事業者のひとりである平野社長に、プラスチックリサイクルをめぐる現状、リサイクルを進める上での対策と課題などを伺いました。

潟^イボー

 潟^イボーは、和歌山市に本社を置くプラスチックリサイクルのリーディングカンパニー。1967年、紡績メーカーとして創業した後1972年からプラスチックのマテリアルリサイクルに着手。岐阜工場(岐阜県海津郡、写真)と和歌山工場(和歌山県那賀郡)を拠点に、各種プラスチックのリサイクル原料製造から成形品の開発まで、旺盛な事業を展開している。グループ会社にタイボープロダクツ(岐阜県安八郡)がある。
 平野二十四氏は1999年に社長就任。自社の経営に専念するかたわら、経済産業省、環境省などの審議会等に参加し、国の環境・廃棄物政策に向けて精力的に発言を続ける。現在、経産省の資源経済ビジョン研究会委員、日本プラスチック有効利用組合理事長。

●第3の「リサイクルの波」

−最近、メディアなどでもプラスチックのリサイクルに関する話題が増えているようですが、現場では何か変化が起きているのでしょうか。
 私がこの仕事に就いて40年ほどになりますが、その40年の中で、たぶん3回目のリサイクルの波が押し寄せている、という感じです。1回目は、1991年にドイツがDSD(デュアル・システム・ドイツ)を作って容器包装廃棄物のリサイクルをスタートさせた時、2回目が1997年に日本の容器包装リサイクル法が施行されたとき、そして今が3回目というわけです。
 プラスチックの国内でのリサイクルというのは、為替の変動とか原油価格の上がり下がり、発展途上国のニーズや価格といった事情にいつも振り回されてきたんですが、今回の大波は、国内でリサイクルに取り組むということ自体、あるいはリサイクル品そのものに付加価値がつく、そういう期待ができる社会情勢だと思っています。

●中国の廃棄物受入れ停止の影響

−社会情勢が変わってきた理由は?
 理由はいくつかあると思いますが、大きく言うと多分こういうことだと思います。つまり、これまでずっと世界の廃棄物を飲み込んできた中国が輸入禁止に転じたため、増大する廃棄物にどう対応したらいいのか、日本国内の需要やそのシステムが未だきちんと構築されていない中で、リサイクラーと呼ばれてきた事業者がショック状態に陥ってしまった。しかも一方で、海洋汚染の問題でプラスチックごみへの見方が厳しくなってきたり(カメの鼻にストローが刺さった映像を流しプラスチックを批判するマスコミ)、今年6月のカナダG7サミットでヨーロッパ側から「海洋プラスチック憲章」が出てきたりといった動きが、ほぼ同時に起こってきて、結局、解決策はリサイクルしかない、というムードになったんだと思います。
 これまでは、せっかくリサイクルしても「為替」「原油相場」「海外需要」などの影響で度々ハシゴを外されてきました。中国にモノが行ってしまって、国内のものづくりリサイクル業者が総崩れになり、その材料を当てにしていたユーザーも「もうそんなものは当てにできない」となって、せっかく育ちかけたリサイクルもリサイクル材への需要もだめになってしまった。そして今、再び国内で何とかしなければ(リサイクル)ということで慌てているわけですが、ただ今回がこれまでと違うのは、コスト以外の社会的ニーズがちゃんとあるということ。一部の熱心な環境運動家だけでなく、世界的に「サステナビリティの体系を作ろう」という機運になってきているので、しばらくはハシゴが外される心配がないのではと期待しているわけです。

●リサイクル材の良さを活かせる製品市場

−国内のリサイクル材需要をしっかり構築するためには、今後どんなことが必要になるのでしょう。
 利用者の目線に立った潜在製品市場の掘り起こしが必須だというのが私の考えです。いまの日本は、静脈目線というか、排出者目線でものを考える傾向が強くて、廃棄物問題に詳しい方でも、「この廃棄物を何とか処理せねばならないから使って欲しい」という廃棄物処理を目的とした排出者目線です。「日本には欧米のよう静脈メジャーがないので、静脈産業を育てればリサイクル問題も解決する」みたいな声も多いようです。しかし、プラスチックのリサイクルを進める上で大事なのは、創ったものを利用する人の目線であって、その目線で考えれば、プラスチックの良さ、リサイクル材の良さを活かせる製品市場がまだたくさん見つかるはずです。
 ただ単に、バージン材料に置き換えるといった発想ではなく、バージン材料とは違うリサイクルプラスチックの良さを活かした潜在製品市場を伸ばしていけば、受け皿はもっと出来てくると思います。例えば、使用済み農業用ビニルの再生原料は、概ね床材などに使われていて、もう一度農業用ビニルに戻すということはありませんよね。つまり、その良さを活かして使ってもらえる市場がちゃんとあるわけです。そういう部分を、利用者目線でもっと掘り起こして、安定させなければいけないと思います。これは廃プラスチックのカスケード利用ではなく New Life for Plastics into brand New Productsという考え方なのです。
 残念ながら、リサイクル業者は中小零細業者が多く、資本力、企画力、供給力、営業力など、製品を開発し普及する力が弱いため、これまでこのような潜在分野を伸ばすことがなかなか出来ませんでした。それと、リサイクルプラスチックというのは人目につかない所に使われることが多いので、外から見ると「用途がない」みたいなイメージになってしまうわけですが、軽い、強い、腐らない、なのに安価、などのポテンシャルは、建材とか産業資材など、広い分野にニーズがあるのです。ライフサイクルも長いし、設計をちゃんとしておけばReリサイクルもできる。プラスチックは使い捨てみたいなイメージがありますが、使い捨てじゃないところにプラスチックの良さを活かせる製品がいっぱいあるわけで、そこを伸ばすべきなのです。

プラスチックリサイクルについて考える

平野社長がまとめたレポート「プラスチックリサイクルについて考える」から抜粋。平野社長も出席する経済産業省の資源経済ビジョン研究会第3回会合(2018年9月28日)に、資料として提出されたもので、潜在市場活性化のポイントがわかる(詳しくは同研究会のサイトを参照)。

 

●徹底したイメージアップPRが重要

 −潜在製品市場を伸ばしていく上での課題は何でしょうか?
 基本的には、再生事業者とプラスチック製品の専門家が一体となって潜在分野の製品を活性化していくことが必要ですが、同時に、徹底したリサイクルのイメージアップが重要だと思います。
 「廃プラスチックをリサイクルしました」といった言い方ではなく、「これだけ環境に貢献しています」とか、「使命を終えたモノについては、こういう形で循環させて二酸化炭素をこれだけ減らしています」とか、そういうプラスイメージの、一般の人にもわかりやすいPRを、テレビやSNSなどを利用しておおぜいの人に伝えること。決してネガティブな言葉を使わず、いっそのこと廃プラスチックとか再生といった言葉も止めてしまって、ニューマテリアルと呼ぶぐらいのポジティブさが必要だと思います。いらないものを押しつけられているというイメージを徹底排除して、それを使うのがカッコいい、トレンドなんだというキャンペーンをするべきです。そういう対応をしてこなかったことがリサイクルが進まない原因のひとつだったと言えるでしょう。
 それと利用促進のためのインセンティブづくりですね。リサイクルマイレージとかCO2マイレージとか、使った人が利益を得られて、もっと使おうと思えるような対策が必要だと思います。そういう取り組みを、リサイクル製品を売る側だけでなく、使う側も含めてみんな一緒に進めながら、プラスチックの良いイメージを作っていく、ぜひそんなことをやっていきたいと考えています。

●「心臓産業」の名にふさわしいものづくりを

「心臓産業」のバッジ

「心臓産業」のバッジ。動脈側に心臓が繋がっているのがポイント

 繰り返しますが、リサイクルというのは、排出者目線でなく、利用者目線でないと上手くいかない。それがキーワードです。言い換えれば、廃棄物目線でやるのか、ものづくり目線でやるのか。必要でないものをリサイクル製品だから使えというのではなく、こんなものだったら使いたいと思えるリサイクル製品を創らないといけないのです。
 実はいま、心臓産業という言葉を流行らせたいと思い、いろいろ頑張っているところです。動脈と静脈があっても、心臓がなければ血液は回りません。このものづくり事業こそリサイクルの心臓なんじゃないかということで、「日本プラスチック有効利用組合」で新しいマークやバッジも作りました。廃棄物処理事業者やバージンメーカーの力も借りながら、心臓産業の名にふさわしい、いいものづくりをしていきたいと思います。