2018年11月 No.105
 

三菱ケミカル㈱の工業用硬質塩ビ板・ヒシプレート

優れた耐薬品性と難燃性でハイテク設備をがっちりガード。

半導体の自動洗浄装置
半導体の自動洗浄装置。
 内部の設備や窓、筐体にヒシプレートが使われている。
 今回の特集企画は、主に製造の現場で製品や作業員の安全・衛生を守る塩ビ製品に光を当てます。最初に取り上げるのは、大手総合化学メーカーの三菱ケミカル㈱(和賀昌之社長/本社=東京都千代田区)が展開する工業用硬質塩ビ板・ヒシプレートシリーズ。優れた耐薬品性と難燃性を活かし、ハイテク製品の製造現場で活躍する塩ビ製品に注目!

●プラント全体の安全を維持

戸村事業部長
戸村事業部長

 半導体や液晶ディスプレイなどハイテク製品の製造工程では、大量かつ多種類の薬液が使用されます。例えば半導体の場合、ウェハー(半導体チップの基板)の洗浄やスライス、エッチングなど、プロセスごとに特殊な薬液が使われるため、製造プラントの設備にも、こうした薬液の影響を受けない性能が求められます。ここで登場するのが、三菱ケミカルのヒシプレート・シリーズ。塩ビならではの優れた耐薬品性で薬液の影響をシャットアウトするだけでなく、難燃性と加工性なども兼ね備えたヒシプレートは、ウェハーを洗う薬液槽はもちろん、装置の筐体 (外装)、各種装置カバーや窓材に至るまで、プラント全体の安全を維持する役割を果たしているのです。

●FM規格認定の難燃性。RoHS対応も万全

■三菱ケミカル㈱と樹脂板材事業
 三菱ケミカル㈱は日本国内最大の総合化学メーカー。2017年4月、三菱化学㈱、三菱樹脂㈱、三菱レイヨン㈱が3社のシナジーを図るため合併、新会社として発足した。事業内容は各種石化製品の製造、各種高機能製品(高機能ポリマー、成形材、フィルムなど)の開発、環境・生活ソリューション事業など多岐にわたる。樹脂板材に関しては、零戦の風防に使われたアクリル板に始まる90年以上の歴史を有し、1952年には旧三菱樹脂により日本初の硬質塩ビ板の生産が開始されている。
FMプレートを用いた無電解メッキ装置
FMプレートを用いた無電解メッキ装置

 ヒシプレートには、OA機器から土木・建築分野まで幅広く使われている一般工業用、連続プレス製法(後述)を用いたヒシプレートニューテック、高度な難燃性を備えたヒシプレートFMシリーズなどがラインナップされています。
 このうち、ヒシプレートFMシリーズは、もともとヒシプレートが持つ難燃性を、同社独自の配合技術によりさらに高度化した製品で、米国の保険会社FM Globalが定めるクリーンルーム用材料の難燃性規格(FM4910)の認定を受けているため、これを使用した半導体・液晶パネルの製造装置は保険料が低減され、経費の節減を図ることができます。
 「難燃性については社内でも厳格な試験を行っているが、FM認定は第三者機関によって品質が保証されたことを意味する。こうした高い難燃性能と、曲がらない、割れないといった物性をバランスよく成形できるのは、当社が蓄積してきた配合技術の賜物で、この点では世界一だと自負している。またFMシリーズだけでなく、ヒシプレートの配合は、EUのRoHS指令(電気・電子機器の特定有害物質使用禁止指令)にも対応しており、環境性能も優れている」(機能成形材事業部の戸村操一事業部長(理事役)の話)
 さらにヒシプレートとしては、優れた除電性能によりハイテク機器製造の大敵であるゴミやホコリなどの付着を防ぐ制電プレートも注目株。「この製品は、転写方式(帯電防止剤をコートしたフィルムをプレートに貼り付け転写する方法)により、塗りムラがなく均一に制電できるのがポイント。光学用フィルムに用いる技術を転用したもので、当社のコア技術の1つです。液晶装置の窓や装置のカバー、クリーンルーム、クリーンブースの仕切板などは、制電プレートの独壇場となっている」(戸村事業部長)

●ダブルベルトの連続プレス製法

ダブルベルトの連続プレス製法

 ヒシプレートに関して、もうひとつ触れておかなければならないのが、旧三菱樹脂が開発した連続プレス製法の採用です。この製法は、樹脂板の一般的な製法であるカレンダープレス製法(薄い塩ビシートを重ねて加熱・加圧し溶融・積層する方法。作業に手間が掛かるため生産性が低く高価だが、製品は高性能)と、押出製法(粉状の塩ビ原料を加熱溶融して押出機で押し出す方法。生産性は高いが製品にひずみが出やすい)の、両方の利点を取り込んだもので、原料を押出機で押し出した後、上下一対のステンレスベルトの間に挟んでプレスすることで、カレンダープレス製法の性能と押出製法の生産性を同時に実現しています。
 「連続プレス製法はヒシプレートニューテックで標準採用されているほか、ヒシプレートFMシリーズの一部の製品にも用いられており、当社のコアコンピタンス(他社に真似できない核となる能力)のひとつとなっています。」

●生産能力の増強も。課題は人材確保

機能成形材事業部技術グループの大西毅氏(左)と、加藤雅史氏
取材にご協力いただいた機能成形材事業部技術グループの大西毅氏(左)と、加藤雅史氏

 「塩ビ製のヒシプレートは、他の樹脂板(ポリカーボネートやアクリルの板材)に比べて、耐薬品性、難燃性といった特性とコストパフォーマンスのバランスがいい。お陰さまで売上げも順調だし、今後の伸びに備えて生産能力の増強も進んでいる。ただ、製造ラインは全自動ではないので、梱包作業などはどうしても人手が掛かるが、現状ではなかなか人が集まらない。一方で、働き方改革などに対応して残業時間の削減にも取り組まなければならない。そのバランスをどう取っていくかが今最も大切な課題だ」
 最先端産業を支える工業用硬質塩ビ板・ヒシプレート。課題の解決に取り組みながら、どこまでその実績を伸ばしていけるか、同社の動きから目が離せません。