●意気込みとこだわり ソニー・ミュージックエンタテインメントがアナログレコード再発の第1弾としてセレクトしたのは、『EIICHI OHTAKI Song BookV 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」』と、ビリー・ジョエル『ニューヨーク52番街』の2枚(上の写真、2018年3月発売)。『ニューヨーク52番街』は、同社が1982年に洋楽部門CDの第一号として発売した作品、また大滝詠一氏は邦楽部門の第一号CD(『A LONG VACATION』)を出したアーティストで、アナログ復活に掛ける同社の意気込みとこだわりを感じさせるリリースといえます。 ●ほぼゼロからのスタート
同社は、世界で始めてCDとブルーレイディスクを商業生産したことで知られる会社ですが、アナログレコードについては、1989年に製造を停止して以来30年ぶりの再開とあって、「ほぼゼロからのスタートだった」(静岡第1プロダクションセンター・青木功雄センター長)といいます。 「実際にレコード製造に携わっていた人間がほとんど残っていなかったので、OBにも協力を仰いで、機械の扱い方などいろいろなことを教えてもらった。また、原料の塩ビ樹脂については、メーカーに配合の異なるものをいくつか作ってもらって、それぞれの音を聞き比べて最終決定した。今回の製造再開は、そういった様々な検討を経て、ようやくたどり着いたものだ」 主な製造工程は写真で示したとおり(マスター音源のカッティングは東京のソニー・ミュージックスタジオでの作業)。最後のプレス工程では、スタンパーを取り付けた金型を高音蒸気で暖め、樹脂をプレスして溝を転写し、プレス途中のあるタイミングで金型に冷却水を通して盤を冷やすといった細かな調整を行っています。 アナログレコードの主な製造工程
●いろいろな音楽の楽しみ方を提供したい 「自社生産のメリットは品質に責任が持てること」(DADJ生産管理部の山下博之さん)、「小学生が工場見学に来ると、『これ何』『何で針で音が出るの』といった質問が続出する。レコードを知らない世代に新鮮な驚きを与えている」(同人事総務部の松原貴志さん)と、30年ぶりの事業再開は様々な波及効果も生み出している様子。 アナログレコードの増加は世界的傾向。人気は「当面持続」を期待現在のアナログレコード人気の背景をどう見るか、人気は今後も続くのか。音楽産業の総本山、一般社団法人 日本レコード協会(RIAJ)企画・広報部の丹野祐子課長にお話を伺いました。 ―2017年のアナログレコード生産数量が16年ぶりに100万枚を突破したとのことですが。106万枚、前年比133%を記録しました。1982年にCDが発売されるまで音楽メディアのメインだったアナログレコードは、CDの市場拡大とともに減少し、2009年には、ピーク時(1976年)の2億枚から、10万2千枚まで落ち込みましたが、2011年頃から上昇傾向に転じはじめました。この流れは世界的なもので、国際レコード産業連盟のレポートでは、去年も欧米を中心に全世界で16%の伸びとなったほか、今回のソニーと同様、カナダ、オランダ、韓国でもアナログレコードのプレス工場が新たに稼働しています。 ―現在のアナログレコード人気の背景をどのように分析されていますか。特定の要因はなく、複合的な要素が重なって徐々に裾野が広がってきたのだと思います。例えば、レコード・ストア・デイ(2008年、サンフランシスコで始まったレコード・ショップ活性化のための世界的イベント)の広がりとか、J-POPアーティストらのアナログレコード・リリースの増加、安価なポータブルプレーヤーの発売などが、アナログ盤を知らなかった若者層にも影響しているようです。それと、ジャケットデザインの良さとかスクラッチノイズの新鮮さといったこともあるかもしれません。 ―この動きは今後もまだ続くと予想されますか。なんとも言えませんが、ここ数年の流れを見ると、急激に落ち込むとは考えにくいです。増加したとは言え、CDの売上が非常に多い日本では、アナログレコードのシェアは全体の1%程度に過ぎませんので、緩やかな増加傾向は、しばらくは続くのではないかと期待しています。
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