2018年3月 No.103
 

空ビ一筋に半世紀。(有)燒リ商店の近況

競技用ビーチボール、異形POP広告で新たな道。
医療・福祉分野も視野に

 空ビとは、「空気入ビニール」の略語で、空気を注入して膨らませるビニール製品のこと。誰でも一度ぐらいは、ビーチボールや浮き輪、人形などで遊んだ経験をお持ちのはず。その空ビ製品の製造に半世紀以上にわたって取り組んできたのが、栃木県小山市の(有)燒リ商店(燒リ章雄社長)。国内生産の孤塁を守りつつ、生き残りをかけた新しい取組みにも挑戦する同社の動きに注目。

ワカサギマット ワカサギマット

競技用ビーチボール

POP広告各種

●米穀商から空ビの世界へ

燒リ会長
創業時の思い出を語る燒リ会長

 驚くことに、燒リ商店はもともと、江戸時代から7代続いた米穀商でした。長い歴史を有する老舗が、どういうわけで空ビメーカーへと大変身を遂げたのか。本題に入る前に、その興味津々のいきさつを7代目当主で現会長の燒リ勇氏に話してもらいました。
 「うちは戦中戦後にかけて麦一本に絞って営業していたのですが、昭和30年代になると、高度経済成長期の麦離れで、仕事をするほど赤字が出るという状態になってしまった。そのころ近くに空ビの加工会社があって、たまたま工場の中を覗いてみたら、きれいなボールがいっぱいある中で若い女性が20人ぐらい元気に働いている。この仕事はいいなあと思って、すぐに問屋を探して機械屋を紹介してもらったんです。昭和38年でした。無茶な話ですけど、ともかくそうして工場を立ち上げてみたら、決して引き抜いたわけじゃないけれど、さっきの工場からうちに移ってきた女性が何人かあって、その女性たちに教えてもらいながら、最初は動物や人形、それからビーチボールといった具合に仕事を進めてきたわけです。素人だから、溶着の強度など分かるまではずいぶん苦労しました。今考えるとよくやったと思いますが、それほど苦しかったし、私も若かったんですね。安定軌道に乗ったのは40年代に入ってからのことです」


●自社工場国内製造を堅持

燒リ社長は八代目
燒リ社長は八代目

 日本空気入ビニール製品工業組合のホームページによれば、日本で空ビ玩具の試作生産が開始されたのが昭和26年。以後、昭和35年のダッコちゃんブームなどを経て最盛期を迎えることになりますが、その後、輸入品の増加、製造拠点の海外移転などが進み、現在では、同社を含めてごく少数のメーカーが、自社工場での国内生産を堅持している状況となっています。以下、燒リ社長の話。
 「大変だったのは、塩ビバッシングと中国からの輸入増が同時期に襲ってきたこと。その影響で、国内メーカーの廃業や倒産、海外移転が相次いだ。塩ビバッシングは、焼却方法の改善などで間もなく収まったが、輸入品のほうは完全に定着しており、今ではビーチボールなども市販品の大半が中国などの海外製。国内のメーカーは殆ど撤退している。当社の場合、品質を維持しつつ製造コストの見直しを進めることで何とか生き残ってきたが、最近は輸入品も品質が安定してきているので、品質プラスαがないと、生き残るのは難しい時代になっている」

ビーチボール ビニールの空気栓を溶着

ビーチボールは、通常6枚のパーツを貼り合わせて作られるが、8枚、10枚とパーツを増やしていくほど完璧な球形になる。左の写真は、高周波ウェルダーでパーツを溶着しているところ。右はビニールの空気栓を溶着しているところ。いずれも熟練の技が求められる。

●プラスαの取組み

電飾型のPOP
こんな電飾型のPOPも

 現在同社が製造しているのは、ビーチボールや浮き輪をはじめ、吊り下げPOP、人形・マスコット、動物もの、地球儀のようなボールなどなど。事業はOEM(他社ブランド製品の受託製造)が中心ですが、小ロットでの生産も可能で、野菜、歯ブラシ、スプレー缶といった複雑な形のPOPにも、燒リ社長の言う「プラスα」の一環として、積極的に対応しています。
 一方、もうひとつのプラスαと言えるのが、競技用のビーチボールの受託製造です。富山県の朝日町が発祥の地とされるビーチボール競技は、もともと冬場運動不足になりがちな雪国のお年寄りのために考案されたもので、いろいろな球技を試した中から、飛びすぎず、柔らかくて安全なビーチボールにたどり着いたと言われます。
 「今では競技を楽しむ若者も増えており、全国大会も開催されている。また、地域によっては独自のルール、ボールの大きさで競技するところもある。当社は、現在7種類の競技用ボールを受注しているが、年間1万個、10万個超から数百個程度のものまで、注文の内容は様々。このほか、ラケットで打ち合う小型のビーチボールについても受注している。金型のストックを利用して、そうした様々な注文に対応できることが、当社の強みだ」

●医療、介護分野への挑戦

金型
空ビ製品の製造は金型が命。燒リ商店は、数百点に上る金型をストックしており、ビーチボールなら5p刻みで100pまで、浮き輪なら5p刻みで45pから90pまで、あらゆる注文に対応できる金型が揃っている。

 今後の事業展開について燒リ社長は、「当面は競技用ビーチボール、POPを中心に進めていく。ただ、ビーチボールも競技人口が増える一方ということはないと思うので、行く行くは今の設備を生かして、医療、介護・福祉の分野にも挑戦したいと考えている。塩ビという樹脂は、加工しやすい上、値段も安く、印刷性も高い。使い勝手のいい素晴らしい素材だ。その塩ビを使って、どれだけ耐久性のある福祉用具を作れるか、いろいろ研究を進めていきたい」と、意欲を見せています。