2018年3月 No.103
 

塩ビ製耐火パイプ — 軽量で錆びず、抜群の施工性

広がる需要。パイオニアは積水化学工業(株)。
(株)クボタケミックスも今春発売予定

 防火防災に役立つ樹脂建材の事例として初めに取り上げるのは、塩ビ製の耐火パイプ。軽量で腐食せず、施工しやすいなどの特性から、鉄管に代わる不燃管材として、防火区画に適用可能な耐火VPがオフィスビルや集合住宅での採用が広がっています。

●防火区画の貫通部を火災から守る

耐火VPパイプと耐火DV継手の配管モデル
耐火VPパイプと耐火DV継手の配管モデル
 建築基準法では、面積や階数など一定の基準を超えるオフィスビル・集合住宅等に対して防火区画(火災時の炎や煙の拡大を防止する区画単位)の設置を定めており、排水・通気用の配管が区画の壁や床を貫通する場合は、その両側(壁の内外、床の上下)1メートル以内の管材を「不燃材料でつくらなければならない」あるいは「大臣認定取得をうけた管材」としています。
 不燃性の管材としては、最も広く普及している鉄管のほか、塩ビ管をモルタルで被覆した耐火2層管なども製造販売されていますが、鉄管は30年前後で腐食する上、耐火2層管も含めて、重くて施工しにくい、加工・切断しにくい、などの難点があることから、建築現場では、「腐食せず、軽量で、加工性、施工性の優れた塩ビ単体の耐火パイプ」が長い間求められていました。

●10年の実績、セキスイ「エスロン耐火VPパイプ」

耐火DV遮音継手
耐火DV遮音継手
施工の様子(新築ビルの天井)
施工の様子(新築ビルの天井)
 こうした声に応えて2007年に登場したのが積水化学工業の「エスロン耐火VPパイプ」。我が国初の耐火パイプで、製品カラーには用途を明確にするため緑色が採用されました。
 「エスロン耐火VPパイプ」は3層構造になっており、外側と内側の層には一般の塩ビ管(VP管)と同等の塩ビ樹脂が用いられていますが、中間は塩ビ樹脂に膨張黒鉛と難燃剤等を配合した層になっています。この中間層が耐火性能のポイント。火災時には、高温により膨張黒鉛が大きく膨らんで開口部を塞ぎ、炎や煙の流れを遮断するという仕組みです。
 パイプをつなぐ継手についても、従来のDV継手(肉厚で高強度の継手)に特殊な燃焼遅延配合を採用した耐火DV継手が開発されており、耐火パイプと組み合わせることで、より確実に防火区画貫通部からの延焼を防止することができます。
 また、耐火DV継手のバリエーションとしてラインナップされている耐火DV遮音継手は、排水が合流する継手部分を遮音材で被覆することにより音の発生を和らげるもので、火災時だけでなく、日常の快適な使用にも配慮した設計が、耐火パイプの付加価値を高めています。

●建築現場の労働力不足を解消

 発売から10年を経過した現状について、同社では「徐々に鉄管から耐火パイプへの置き換えが進んでいる」と説明しています。
 「鉄管は今も根強く使われているが、特に東日本大震災以降の急速な職人不足により、耐火パイプへの需要が高まった。軽くて施工性の優れたパイプであれば、施工期間が短縮できて労働力不足を解消できるだけでなく、鉄管をカットするための機械を現場に持ち込むといった手間も不要になる。寸法規格もJISに則っているので、従来のバルブや支持金具との相性も問題ない。価格も鉄管よりはるかに安いので、ゼネコンなどからから高い評価を受けている」(環境・ライフラインカンパニー建築システム事業部・山本和明部長)
 「エスロン耐火VPパイプ」は、塩化ビニル管・継手協会が運営するリサイクルシステムを利用して再資源化も行われています。工場端材、施工端材を回収して再びパイプの原料として利用するもので、資源の循環という点でもパイオニアらしい対応といえます。

●満を持して新発売、クボタケミックス「KC耐火ビニルパイプ」

KC耐火ビニルパイプと耐火透明継手DVの配管モデル
KC耐火ビニルパイプと耐火透明継手DVの配管モデル
 一方、5年の開発期間を経て、この春新発売予定となるのが、クボタケミックスの「KC耐火ビニルパイプ」。文字通り、満を持しての新製品投入です。
 同社が耐火パイプの開発に着手したのは2012年のこと。同社では、以前から「鉄管を樹脂管に置き換えていく」という戦略に基づいて多彩な管路資材を生み出してきましたが、従来のDV継手やVP管では商業施設等の防火区画貫通部に対応できないこと、耐火2層管は取扱いや加工性に難があることなどから、「鉄管と耐火2層管に代わる、使いやすいくて施工しやすい耐火パイプ」を求める声が、全国の系列販売店や建築現場で高まってきたといいます。
 前述のとおり、「KC耐火ビニルパイプ」の開発には5年の歳月が費やされていますが、最も時間を要したのは「耐火性能を発現できる材料をどう配合するか」という問題でした。
 「当社の製品も、内外層は通常の塩ビ樹脂、中間層は膨張黒鉛と難燃剤などを練り込んだ耐火性塩ビ樹脂という3層構造だが、耐火性能を発現できるようにするにはどんな材料をどう配合するかが最大のテーマだった。極論するとその配合は無限にあるとも言えるが、その中から、成形性と各種物性、耐火性能がバランスよく発揮できるような素材を選ぶのにかなり苦労した」(研究開発本部開発部・小林毅博担当課長)

●耐火透明継手の採用で、接着剤の有無も簡単チェック

 今回の開発に関してもう一つ特筆すべきことは、パイプとセットで使うDV継手に、透明な難燃材を添加した塩ビ樹脂を採用していること。近年、建築現場では、熟練した配管職人の不足を背景に接着剤を使わず接合するケースが多発しており、それが漏水などトラブルの原因となっています。耐火透明継手の採用はこうした問題を防ぐための試みで、接着剤自体も青色のもの使用することで、接着剤の等の有無を一目で確認できるように工夫されています。
 同社では今回の耐火パイプ発売について「これまでは鉄管と耐火2層管しか使えなかった防火区画に、施工の楽な耐火パイプが使えるようになるということで施工主の関心も高い。鉄管のような腐食もなく50年、60年使える防災建材として積極的にアピールしていきたい」と意欲を示しています。

耐火透明継手DV KC耐火透明継手
  KC耐火透明継手の接着部分。
接着剤の塗布の有無が一目で確認できる。