2017年11月 No.102
 

「空気の力」が介護を支える。潟nイビックスの近況

溶着技術を駆使して「空気をカタチに」。
介護用プラ製品、さらに多彩に

 特集・福祉と塩ビ製品の最後は、中部地方を拠点に「空気をカタチにする会社」として独自の活動を展開する潟nイビックス(高井順子社長/本社 岐阜県瑞穂市)。同社の福祉・介護用製品については、本誌88号でもその一端を紹介していますが、その後、製品の内容は、さらに広がりを見せている様子。ここでは、新たな動きに焦点を絞って、介護を支える「空気パワー」の凄さを、高井社長に語ってもらいました。

「アームリリースpro」(左)と「ハンドリリース」
拘縮予防リハビリ用エアー装具
「アームリリースpro」(左)と「ハンドリリース」

●介護体験から生まれた製品

「寝たまま洗髪器」
高井社長の介護体験から生まれた「寝たまま洗髪器」(材質は塩ビとポリウレタン。OEM生産品)

 高周波ウェルダーを始めとする高度な溶着技術を駆使して、「空気でふくらむプラスチック製品」を追求し続けるハイビックス。その製品群は、浮き輪・ボートなどのレジャー用品から、ピロー・クッションなどの旅行用品、エアバッグ・電磁波シールド用品といった産業資材、そしてマットやポータブル浴槽などの福祉・介護用品まで、幅広い分野にわたります。福祉・介護用品の製造は「より付加価値の高い製品づくりを目指す」という経営戦略からスタートしたものですが、そもそもは高井社長の個人的な介護体験が、その発端となっています。
 「高校生のとき、脳梗塞で倒れた祖母を母と2人で在宅介護していたのですが、お風呂に入れてあげたい、髪を洗ってあげたいと思っても、当時は介護施設も道具も殆どない時代で、仕方なく、うちで作っていたビニールボートやプールを改造して、寝たきりで使える洗髪容器とかバスタブとかを工夫したのです。その後、介護に対する社会的関心が高まり、介護保険もスタートする中で、介護製品メーカーから製品開発の相談を受けるようになり、祖母の介護体験を生かそうと思いつきました」

●自社ブランド「HIVIXサポートシリーズ」の開発

「HIVIXサポートシリーズ」4点
「HIVIXサポートシリーズ」4点
 同社の事業はOEM(他社ブランド製品の受託生産)がメイン。福祉・介護用品としては、前述の「寝たまま洗髪器」のほか、床ずれ予防エアーマット、ポータブル浴槽、フットマッサージャーなど様々な製品を受託していますが、近年は、自社ブランドの開発や輸入製品の代理店業務など、新たな取り組みにも力を入れています。
 そのひとつが、介護用クッション「HIVIXサポートシリーズ」の開発。この製品は、高齢者にとってつらい長時間の座位姿勢に対応し、苦痛のない楽な姿勢を維持できるようサポートするもので、車椅子やベッドでの頭の傾きを抑えたい場合はネックサポート、腰への負担を軽減したい場合はウエストサポート、前かがみの姿勢が長時間続く場合はアームサポート、臀部の痛みや負担を和らげたい場合はシートサポートと、使用部位や症状の違いに合わせて4つのタイプが揃っています。

高井社長
高井社長

 「素材は、空気を入れる内袋が塩ビ、カバーはメンテナンスしやすいポリエステル。枕やタオルでポジショニングするのと違って、ヘタったり体が沈み込んだりしないので、長時間使用してもお年寄りに不快感を与えません。軽くて嵩張らないし、メンテナンス性もあるので何度も買い換える必要がない、というように、空気の力と樹脂の力を存分に生かせるよう考え抜いた製品です」

 

●拘縮予防リハビリ用エアー装具Curariaシリーズ

 今年発売されたのが、拘縮予防リハビリ用エアー装具Curariaシリーズの「アームリリースpro」と「ハンドリリース」。ともに、高齢化や脳梗塞で起こる腕や手指の拘縮(筋肉が持続的に収縮したり関節が動かなくなる状態)を、空気の力を利用して予防、緩和するもので、「アームリリースpro」は、腕を挿入した塩ビ製の透明なサックにフットポンプで送気し、空気圧で筋肉の伸長と血流の回復を促し、筋緊張を和らげます(8頁の写真)。
 「ハンドリリース」は、空気で膨らませたバッグ上のループに一本ずつ指を通し、手指の拘縮を解放することで、血流を促進し、握りしめによる爪の食い込みや指間のムレを防ぎます(8頁の写真)。
 「この2つの製品は、病院の先生や看護師さんたちから、こういうことに困っていると話を聞いて、一緒に開発したもの。介護製品の開発は、介護施設や病院などの現場を知ることが不可欠で、その分こちらにも専門的な医療知識が求められます。介護ブームに乗る、といったいい加減な気持ちでやれる仕事ではありません」

「アームリリースpro」ポンプも塩ビ製   「ハンドリリース」バッグ本体はPU製
「アームリリースpro」ポンプも塩ビ製   「ハンドリリース」バッグ本体はPU製

●看護の看は〈手〉に〈目〉と書く

 一方、デンマーク生まれの床ずれ予防クッション「LEVABO」(レバボ)は、同社が正規輸入代理店として国内販売している製品。利用者の体型や用途(かかと用、下肢用、上肢用など)に合わせて、28タイプの品揃えから、最適な製品を選ぶことができます(表地は不織布、内袋はポリエチレン製)。下の写真は、踵の床ずれと尖足(足の甲が伸びて、足先が下を向いたまま戻らなくなる状態)を同時に予防するブーツ型クッション。その下の写真はベッドで使用する下肢用クッション。
 「国の財政難から介護保険制度の見直しが進み、関連業界は今後厳しい状況に入っていくと予想されます。そういう中で求められるのは、どれだけお年寄り、介護する人の視点に立つかということ。お年寄りを十把一絡げにした製品ではなく、個々のお年寄りに合わせた製品開発です。ただ、介護を100%道具で賄うことはあり得ないし、あってはいけない。看護の看の字は〈手〉に〈目〉と書くように、お年寄りに直接手を当ててあげて、人の目で見守ってあげる。そのことでお年寄りも安心する。介護は道具と心のケアが一緒にならなければいけないと私は思っています」

「LEVABO」ブーツ型クッション   「LEVABO」下肢用クッション
「LEVABO」ブーツ型クッション   「LEVABO」下肢用クッション